やった!やった!パーティが増えたよ!
「……目を覚ますと俺の周りは豪華な食い物が散乱していた」
という酒池肉林な状況下で俺は目を覚ました。
言っておくが酒池肉林というのは御蚕包めのような、過度に豪華なことをして過ごす、贅沢三昧な生活をすることを意味していて、女性に囲まれて大騒ぎするという宴ではないのを理解してくれ。
さて、俺は何をしていたのか考え込む。
確かあの魔物を討伐したのは今から三日前のことだ。
ベルにつかまり見送った後に俺は宿屋に入って、一週間分の宿泊代を払った。
で、そのあと俺はそうだ浮かれて豪遊したんだっけ。で、そのあとは【ベル】につかまってお酒を飲めや飲めやとなってお互いげろ吐いて……。あれ? 何でこんな時にあのベルがでてくるんだっけ?
システムチェック! 二日酔いの頭目を覚ませー!
「……なんで俺ベルと酒を飲んでいたんだ!?」
しれっと一緒にいたあいつを思い出したのだった。
手元にあったのは銀貨五十枚ほど……。
商店街通りをとぼとぼと歩きながら皮袋の中にある所持金を見ていた。
「確か俺最初持っていたのって金貨二枚と銀貨五十枚だったよね?」
完全に金貨二枚の散財である。完全に金欠である。
「……やっぱあいついないほうがいいわ」
「私のこと?」
後ろからひょっこり声がかかってきた。条件反射のごとく右手を握りしめ裏拳を繰り出した。ごつっ! と鈍い音が響くと同時に、その声の主の顔はアニメのようにめり込んだ。
後ろをちらりと見ると、ボクサーみたいにくの字に折れ曲がり顔を両手で抑えるベルがいた。
「いったいじゃない! なにすんのよ! ばかなの! 死ぬの!?」
「バカはお前だろう! ふざけんなよぉ!? お前俺の財産に何をしてんだよこの野郎!」
こんな状況じゃ武器も作れないじゃないか。お前この世界に俺を連れてきた理由魔王討伐だろう!?
ベルは右手で俺を人差し指で指さして、今度は自分を指をさす。そして今度は自信ありげに親指で自分の胸を二度ついた。
「あぁ! ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 許してください!」
「許せると思うかよ! くそがぁぁぁぁ!」
ベルの頬を思いっきりつねりあげ上下左右に引き延ばす。それに対抗するかのようにベルは僕の両手を掴むがそんなこと知ったこっちゃねぇ。ミシミシと骨が鳴り響いたたたたたたたたた!
このまま頬が引きちぎれないかな。
「なんで! 昨日おとといと一緒に飲んでいいぜいいぜって飲んでたじゃない!」
「酔っていたやつにおごらせるなよ! お前本当神様なのかよ!」
「そりゃ神よ! なにいっての! ばかじゃな……あぁぁぁ! ごめんなさい! 本当にごめんなさいってば! 謝るから!」
ベルは降伏すると同時に手を離す。両手で頬を抑え涙目になっている。こちらの腕は神の握力に腕は鬱血していた。
「なんでこんなことするのよ! 私は神なのよ」
「…??」
「なんでそんな不思議そうな顔をするのよ! いいじゃないこの場にいる人に問いかけてやるわ!」
おいばかやめろ!
ベルは商店街の周りに大きな声で信仰心を呼びかける。
ここからダイジェストです。お茶を一口飲んでご覧くださいませ。
「聞きなさい! この街の民草よ! 私はベル也! あなたたちの信仰心を示しなさい!」
「お前誰だ!」
「詐欺なら引っ込んでろ!」
「あらー。あなたもその口なのね? これ食べれる石鹸なんだけどね? あなたも買ってみない?」
「ねーちゃんそんなこといいからそこどいてくれないかな! 荷物運ばれねぇじゃねぇか」
「おほほ、私はあなたの名前によく似た神の妹の方に信仰心持っているので。何かあったご縁です。こちらを」
銀貨十枚もらった!
以下、他民草さんたちは無視でした。あ、お茶飲んでもいいですよ? 生ぬるくなったと思うので。
「なぁんでよぉ! 私ちゃんと神だよね!?」
「……??」
「だからなんでそんな顔するのよ!」
あー、退散退散。
「あ、そうだ。一つ言い忘れていたけどさ」
「なによぅ」
ぐずぐずとすすり泣いているベルが返事をする。
「さっきの会話を聞く限り、この国は俺が住んでいた世界と大体同じらしい」
「え?」
「まぁ、簡単にいうと唯一神という宗教をしておらず、八百万という宗教なんだよ。きっと」
だからなんなのよ。と顔をしている。やっぱり神様というのは人の考えていることをはっきりわかってないらしい。
そりゃそうだ。俺らの世界の神様だって、祈りを聞き入れてもらえず何も叶えてもらえず、お金だけ持っていってただみているだけの傍観主義者なのだから。こいつもそいつらと同じってことだ。
「転生をしたからその奇跡を信仰心を上げるものとして広めるなんて無理な話なんだよ」
「なら、その【奇跡】とやらを見せつければ信仰心が上がるのかな!」
……ん? 今なんて言った?
「いやだから、私がその奇跡をこの世界に見せれば私は神として崇められるのねって」
「いやでもお前神じゃん」
「だ、か、ら、よ!」
なーんかイヤーな予感がするんですけど。
つまり? 信仰心を上げるには奇跡が必要で、その奇跡を見せるのはここにいるバカで?
その奇跡を起こしたのが私だ! と宣言すること?
「……えーっと、ちょっと待ってくれ」
つまりなんだ? こいつ下界に降りるのか?
「そうよ!」
「そうよ! じゃっねーよ! 何言ってんだお前!」
あと内なる声を聞くのをやめろよ! エスパーじゃないか!
傍観主義の神様が下界に下りてクエストこなして信仰心を取り戻すなんて聞いたこともない……。
「そうと決まればいくわよ!」
「いくってどこに!?」
「ギルドよ!」
いやいやいや! まってって! なんでこの人ノリノリなんですか!?
いやだよ? この人神様じゃん?
魔王討伐この人でいいんじゃないの!? だって神様じゃん。
……いいこと思いついた。
「なぁ、ベルさんベルさんよ」
「な、なによ」
「ベルさんがぁ、魔王を倒せばぁいいんじゃないっすかねぇ?」
はぁ? という顔をする。予定調和。
「なんで私が」
「ベルさんが、倒すじゃないですか」
こくん。と頷く。
「ベルさんが、魔王を倒すじゃないですか」
こくん。と頷く。まだわかってないのか。
「つまり、ベルさんが魔王を倒せば知名度が上がって信仰心を取り戻せるどころか株価がバブルのように跳ね上がって一石二鳥かも?」
ぱぁぁぁ! と輝く顔をした。
しめた。という顔をする俺。行止正義。二十歳。あ、二十歳です。
「そうじゃん! すごいじゃん! ミチナシくん、そうじゃん! 私が魔王を倒せば知名度が上がる!」
「そうだよ! いい考えだろう! ベル!」
「そうだよね! ミチナシくん最高! 素敵!」
ハイタッチ! イェーイ!
「というわけで、ベル。俺とパーティ組まない?」
「なんで!? 私一人で倒せるよ!?」
「ばっかだなぁ。俺という目撃者がいればあいつが倒した! あいつは神様なんだよ! って言えば」
「なるほど!」
くっくっく。美味しい味方を手に入れた俺だった。キラキラと瞳が輝く彼女。
いやぁ。強い味方がいるといいもんですな。
と、思っていた時期がありました。
クエストその一。養蜂場のお手伝い。
「うわぉぁぁぁぁぁ! ミチナシさん! たすけてぇぇぇ!」
「お前それただのハチだから! 殺虫剤かけたら死ぬって!」
「でも、私にめがけて襲いかかってくるんですけど!」
「……つかえねぇ」
クエストその二。鹿の角の採集。
「え、ちょっとはや……! ミチナシくん! たすけっ! あ、こっちくる! なんで!?」
「ばっ! あんなに攻撃的な動きをしたら窮鼠猫を噛むだろうが!」
「窮鼠猫を噛むってなんなの!?」
「だぁぁぁぁ! こいつほんっと使えねぇ!」
とまぁこういうことなんです。
つまりこいつは俺より使えない一般人と変わりないってことだ。
さぁ、皆さんが一緒に。
はー!つっかえ!




