そうして俺の話はこれで結末を迎える。
それから俺はあいつとは何者か忘れてしまった。
ずっと一緒にいたはずなのに、ずっと喧嘩していたはずなのに。
あいつが誰だったのか、そこだけさっぱりと記憶が抜けていたのだ。
タストに帰ってくるなりそのタストは前の雰囲気とは全然違っていた。
俺の名前が書かれており、凱旋やらなんやらと書かれている。
そのお出迎えモードのタストには……
「ミチナシの旦那! ノーバディーで功績を立てたらしいじゃねぇか! やっぱりお前はすげぇやつだったんだな!」
お好み焼きを教えたおっさんたちが俺を褒め称えようと集まってくるなり頭をわしゃわしゃしたりして集まっていたのだ。
褒められるのは全然悪くない。むしろすげぇ嬉しかった。
だけどなんなんだろう。このすっぽり抜けたような感覚は。
タストで広めたお好み焼きや、焼きそばを食べたとしても、何をしても満足しないこの感覚はなんだろうか。
あのやけに鬱陶しかったあの笑顔が思い出せずにいた。
ある日の夜。タストでいつもの宿(約何週間ぶり)の部屋で意識がなくなるまでぼんやりしているとこんこんと扉がノックされた。
「ミチナシお兄ちゃん?」
その声はルーナだった。
扉を開けるとシースルーの露出の高い服装をしており男性の気持ちを高ぶらせるには十分なものだった。
「入ってもいい?」
俺は特に断る理由もなかったために招き入れる。
「スロープのみんながこっちにきて森林で暮らし始めたって」
「あぁ、らしいな」
俺たちが帰還したからタストバードラーに話をつけてタストのとなりにスロープがいることを納得させた。
それの条件として俺は所持金となっていた財産の半分を渡すとその資金は全てタストの領土を広げるために使われた。拡大したタストの街は前の倍以上の大きさとなり、その広かった場所はスロープが住む場所として森林を伐採し、この街も多国籍の街として名が知れるようになった。
「ルスお姉ちゃんがスロープの管理をしているらしいけどめんどくさいらしいよ」
「まぁ、あいつ面倒なことには首を突っ込みたがらないだろうし……仕方ないだろう。ルーナが王様になったらよかったんじゃない?」
ルーナは首を横に振った。
「私はスロープの王様よりもっといい場所知ってるから」
そういうとルーナは俺に抱きついた。ふにっと胸が当たる。
そこで固まってしまったら男としてどうかと思ったので、あくまで何が起きたと言う顔をしながらルーナを見た。
「……ん?」
「私ミチナシお兄ちゃんとずっと一緒にいたいな。旅の仲間とかじゃなくて、奥さんみたいな。家族になりたい。ミチナシお兄ちゃんは?」
「……」
紫色の瞳が月明かりで白く見えた。
「ミチナシお兄ちゃんは……私のこと好き?」
腕から伝わる心臓の鼓動。普通より倍以上に多くなっているのがわかった。
その問いかけに俺は迷う事はない。
「俺も、ルーナのこと好きだ」
ルーナはぱぁっと嬉しそうな幸せな笑顔を作り出すと俺の首に腕を絡めて俺の唇を奪う。
柔らかい感触だ。
美少女とはこんな柔らかいものなのかと思ったりした。
しかし何かが違ったのだ。
何かが抜けてるような。だけど、それを知ろうとしても、思い出そうとしても、アイも、ルーナも誰も、そして俺もそいつが誰だったのかわからなかった。
それから二年後のことだ。
俺は相変わらず冒険者業をしていた。
相手は魔獣。場所は魔王城。
これまでたくさんの数の巨大な魔獣を倒してきて俺は、ルーナは、アイは強くなった。
そしてギルドの話で魔王城を見つけ一番功績を上げている俺たちが指名されたわけである。
そしてその魔獣も最後の種で、その魔獣もルーナのマナを利用した魔法で圧倒していた。
「えい!」
とルーナがマナを汲み取り形作ったナイフで魔獣を切り刻むと、俺とアイは魔獣が死んだことを確認する。
残るは魔王だけだ。
「アイ、ルーナ、行くぞ」
「うん! ミチナシ!」
「気をつけていきましょう」
俺たちは最後の準備をした後、奥へと向かった。
魔王の部屋と思われる場所へと向かうとその部屋は今までとは全く違う雰囲気だった。
チョロチョロと流れる水の音。水の流れに沿って動く間接灯。その部屋に覚えがあった。
その部屋にはきたことがあった。
「よくきたわね! ミチナシ一行!」
やけに豪華なマントを羽織り、高笑いするように俺たちを見たのは白い紙を持った少女だった。
「魔王……!」
「ふふん。魔王と呼んでくれるなんてなんとも光栄! さぁ、私とミチナシどっちが立っていられるか命のやり取りをしようではないか!」
そう高らかに言う魔王に俺はルーナの魔素回路を刻み込んだ剣を構える。
魔王は一度の跳躍で俺へと向かってくると、俺の体に目掛けて手刀を繰り出した。
「なんで……」
その手刀は俺には刺さらなかった。胸の目の前で手刀は止まっていた。
「なんで……」
その問いかけは俺ではない。そして俺の手はルーナとアイに動くなと言う指示を出していた。
「なんで戦わないのよ」
「思い出したんだ。お前は魔王じゃないって」
白い髪で隠れているその顔を見るために白い髪を掻き分けた。
そこには涙であふれている少女だ。
「そんな悲しい顔をするなよ」
「でも、私は魔王でミチナシが倒さないと……」
「気にするな」
でも、でも。と彼女は迷っていた。
鬱陶しいな。こいつは。
俺は彼女の頭に目掛けて拳骨を繰り出した。
「いったい!」
「ばーか。別に俺たちは魔王を倒すつもりで来てねぇんだよ」
俺はそいつをバカにした顔をして手を差し出した。
「ルーナ。アイ。こいつじつは俺たちの元仲間なんだよ」
名前はまだ思い出せないんだけどな。
その俺に対して、アイとルーナは納得した。それでいいのか君達。
「そうだ思い出したわ」
約二年ぶりに思いだしたもの。こいつが誰だったか全部。
「ベル。帰ってこい」
両手を広げた俺の姿は、敵意を示すことをしなかった。ルーナが使ってくれた剣はしまう。
「……う、うわぁぁぁぁぁん!」
ベルが思い切り泣き喚きながら俺たちの元へと飛び込んでくる。もちろん俺は受け止めることができずラグビーのタックルみたいなことになった。
「おかえり……」
「ただいまぁぁぁぁぁ!」
こうして俺の、俺たちの、魔王討伐は失敗に終わったのだった。
そして、それから何千年後になるのだろうか。
「魔王が魔王で入れなくていい場所を教えてあげる」
そんなバカバカしいことをいう勇者がいたのはまた今度の話だ。
乱文ですし、文章めちゃくちゃだしこんな自己満足な作品を読んでいただきましたありがとうございました。
また今度も何かの縁がありましたらよろしくお願いします。




