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交渉術は対人スキル

「ミチナシ、今のは魔法か?」


 おっさんは驚いた俺を見ているが、なんだそれという顔をした。魔法なんてあったのか? なら早く教えてくれよな。


「今のは水蒸気爆発ってやつだよ。おっさん」

「水蒸気……」


 水蒸気爆発。それは水が非常に温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象のことだ。


「今回アレストのカバンの中には金属の粉があった。そしてその金属はその長剣の成分。アルミニウムっていうやつだった」


 そう、この世界にはたくさんの元いた世界から来ているということは、武器を作成する人も一人や二人いるということだ。

 そしてその長剣を掴んだ時にその長剣は思っていたより軽く、刀身の腹には【和名】が書かれていた。


「アルミニウムってやつは粉末にして燃やすと強熱と、白い光が出るんだよ。そこに水をかけると爆発するってわけだ」


 簡単だろう? これでも俺は大学在籍していたんだぜ。

 おっさんは唖然とした顔をした後、少しうつむいてから軽く笑った。その顔は嬉しそうで、悲しそうで、泣きそうだった。


「ありがとう。本当に」

「俺のおかげじゃないさ。あそこにいる仲間のおかげだろう? アレストはまだ生きているが、ニールは……」

「……すまない」


 本当に、すまない。とおっさんは膝をつき涙を流す。


「俺はどうやらこの世界にかぶれていたらしい。自分の力に溺れ、本来の人としての考えをしていなかった」

「おっさん」

「俺は英雄失格だな。個人の敵討ちに執着し、本来のすべきことを忘れていた」


 お前たちにひどい目にあわせない。という約束を破った。怒りに身を任せ戦った。哀れな人間だ。


「べつにいいんじゃないか?」


 なんとなく、そう答えた。


「俺は英雄とか、勇者とか、どうでもいいんだ。俺は冒険者でいる。英雄も、勇者も自分でいう称号じゃないとおもうんだ」


 ましてや、自分で「俺は英雄だ! 勇者だ!」とか言っているのは奴の顔を見てみたい。その顔はきっと自慢げで自惚れているんだろう。

 正直そういうのはどうでもいい。


「おっさんはおっさんだろう。英雄なんていう大層な名前(おかざり)は重たいぜ。それに、負傷した人を連れて帰る方が英雄としてかっこよくないか?」

「……そうだな」


 おっさんは笑顔になる。

 俺はおっさんに手を出す。おっさんは一度俺をみる。そんな顔しないでくれよ、いい歳したおっさんを口説くのは趣味じゃないんだよ。

 おっさんは俺の手を握った。




 ギルドに戻ると、クエストで起きたことを話した。


 魔物のボスを討伐したこと。

 負傷者が一名で、死者が一名出たということ。


 ギルドのねーちゃんは涙目になっていた。初心者でも簡単にこなせれるクエストのはずなのにイレギュラーが起きてそれによって死者が出たことにだ。

 でもそのイレギュラーを起こしたのはこのおっさんであることは内緒である。

 俺が報告するのもあれだが、目の前で人が一人死んだのに、俺はそれを義務報告のように淡々と話していたんだ。自分の精神の歪みを改めて思い知る。

 アレストは町に戻ってからすぐに病院へと搬送した。医師が見る限りでは一命を取り留めることができたが、……。


「最悪彼は動けないでしょう」


 と医師は告げる。

 それは事実上のギルド退会だった。


「でも、一命を取り留めることは不幸中の幸いじゃないのかな……」


 ギルドから少し離れたところに露店で品物をを売買する人が並ぶ広場にいた。広場には樽を椅子にして机を囲むようにしている。俺はその広場の一角を場所取りとして座っていた。ため息を吐く。なんせ相手はあのバカでかい魔物だ。命からがら逃げ延びたではなく、魔物を倒して負傷しながらも生還したという方が字面的にはかっこいいに違いない。

  それよりも、俺はウキウキしていた。それは報酬金の話だ。

  これまでに倒してきた魔物の数は雑魚だけで二三という数。

 どれくらいの報酬が来るのか楽しみでしかなかった。


「おーい」

「あ、おっさん」


 おっさんは俺たちのパーティがもらえる分の報酬をもってくる。その革袋はずっしりとしていた。


「ミチナシ、もらってきたぞ」

「まってました!」


 そう俺の当分の目標とは生活費の確保だ。そうでなければ飢え死にの連鎖でゾンビモードの始まりだ。死んでいるのに死んでいないという存在は俺でもなりたくない。生還者の能力は確かに強力だが他者からの目線は別である。


「おいおい、不謹慎だぜ」

「そうだけど、俺このクエスト命かけてるんだぜ。このクエストの報酬をもらえなかったら野垂れ死に一直線のフルコースなんだよ」

「……お前ってやっぱり」

「さぁさぁ、分けていこうぜ」


 そしておっさんと俺は報酬のお金が入っている革袋を広げる。机に置いたとき、重たい石を転がしたかのような鈍い音が響いた。

 一枚一枚調べていく。金貨もあるが、殆どが銀貨だ。


 そして数えおわると、金貨九枚と枚と銀貨五十枚あった。


「……なあなあおっさん」

「なんだ?」

「金貨とか銀貨ってどれくらいの価値があるんだ?」


 おっさんはうーんと少し考えていた。


「確か普通の飯を一日食べるなら銅貨六十枚で済む。宿泊なら銀貨一枚と銅貨二十枚。居酒屋で普通の酒を酔うまで飲むなら銅貨十枚ってところか。」

「つまり俺たち超金持ち?」

「とまではいかないが、あの魔物を倒したんだ。報酬金は弾んでいるから、大体そういうことだな」


 俺は喜んだ。そりゃそうだ。こんな大金が手に入ると思わなかったからな! 早く分けようぜと息使いを荒くしていると、おっさんは顎をなぞり考えている。


「何やってんだよ! おっさん。ちゃんと分けようぜ」

「だがな、ミチナシよ。ニールがなくなった今ニールの遺族は母親一人だ。全部分けたとしてもそれなりの大金ではあるが少し胸が痛まねえか?」

「痛むけど平等大事だぜ?」


 金の亡者ここに在り!


「アレストだって、これから全身麻痺で暮らしていくうえで医療費までと考えたら」

「心が痛むけど平等大事!」


 金の亡者ここに在り! 本日二度目。大切なことなので二回言いましたよ! 大切なことなので二回言いましたよ!

 おっさんは俺の態度を見た後少し考え込んだ。


「わかった。取り分はみんな平等だ」

「よっし! あ、でもおっさん金貨九枚だぜ? どうやって分けるんだ?」

「金貨一枚で銀貨は大体百枚と相場になっているが面白いことにこの世界は吊り上げることも下げることもできる」


 まぁ任せとけと言わんばかりにおっさんは金貨を一枚手にすると近くにいた両替の兄ちゃんに話しかけていた。


 そして五分後……。


「銀貨百五十枚にしてきたぜ」

「……おっさんの交渉術すごい気になるけど」

「企業秘密だぜ」


 こいつ堅気の仕事したことないだろうな。とあきれ顔になった。


 俺はおっさんと別れ、宿を目指した。

 結果的に俺の手元には金貨二枚と銀貨五十枚が手元にある。

 ちょっとしたお金持ちである。ほくほくとした顔で俺は歩いていた。


「そこのおにいさん! 何か買っていかないかい!?」


 俺のことかなと声の主をみた。その声の主は超絶の美少女だった。そして白い髪をゴムで結いながら……。


「あ。あああああああああああああ!?」

「へへーん見に来ちゃった」


 俺をこの世界に送り込んだ厄介な神だった。




「いったぁぁぁぁい!」


 路地裏で俺は拳を作りバカの頭部を思い切り殴った。そいつは頭を抱えて蒸気が出そうなところをひたすら誘っていた。


「てめえほんとふざけんなよぁ!? 俺がどんだけ大変な目にあったんだとおもっているんだよ! お前本気で吹っ飛ばすぞ!」

「もう吹っ飛ばしてるじゃない! 私のこのきれいな頭にたんこぶ作ったらどうするのよ! あんなの頭吹っ飛ばすわよ!」

「いいぞやってみろよ! お前ができるな……」


 ぽーんと俺の頭が飛んで行った。見えたそいつは右手で掌底を繰り出している。こいつ俺を殺しやがった。

  そして新しく俺の意識が戻ってくると、目の前にいるこの馬鹿はしてやったという顔をしてきた。


「てんめぇ! 人がしゃべってるときにそんなことするんじゃねえよ!」


 拳骨をこめかみにめり込ませる。いぎぎぎぎぎぎぎ、と美少女らしからぬ声を呻きだしていた。いや、こいつ美少女じゃねえわ。バカなんだったわ。


「はっなっしっなっさっいっよ!」

「お願いします許してくださいといったら許す」

「ひどい! そんなこと私にいわせるの、いだだだだだだだだだ!」

「ほれほれ、いいのかそんなこといって」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい!」


 閑話休題


 疲れ切った美少女とストレスを解消した俺。超すっきり。


「うー……あたまいたいい……」

「ざまぁみろだ」


 涙目で俺を睨むがぜんぜん痛くも痒くもない。首は取れたが帳消しにしてやる。よかったと思え。


「ところで俺になんのようだよ」

「え? 用事がなかったもんで君のもとへ来てみたんだよ」

「……で? なんであんなところでなんでそんな格好しているんだよ」


 う? と俺に聞いてくる。殴り飛ばすぞ。そいつは露天の小汚い服を着ている。全くもって似合っていない。全然似合ってない。あの初めて会った時のふわふわとした方の服装が似合っていると思っている。……中身は別として。


「そうだよ。ここにきてどうかな? まだ一日目だけどさ!」

「もうこの時点でたくさん死んだし、魔物と戦って疲れて宿を探すところさ」

「へえ、楽しそうじゃない」


 何が面白いんだよ。ふざけんなよ。と俺は答える。美少女はそっかそっかと嬉しそうに言うと彼女は嬉しそうな顔をした。


「じゃあ私元の世界に戻るね」


 本当にそれだけなのかよ。

 ふと彼女の名前を聞いてないことを思い出した。


「そうそうお前の名前……なんだった?」 


 振り返り俺を見ると、両手を後ろで組んで。

「私? 私はベルよ!」


 嬉しそうに名前を教える。ドキドキなんてしていない。まったくもってな! 全然。


「ベル……わかった」


 へへへといいながら彼女は路地裏の奥へと隠れるように入っていく。


「ベル」

「なぁに?」

「なんていうか、その……」


 俺は頭をひとしきり書いた後、恥ずかしそうに言った。


「ありがとう。この世界に連れてきてくれて」

「……! ふふふ、どういたしまして」


 そして行止正義の物語が始まったのだった。


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