ボールは空気を入れないと弾まない
飛んでた。
鳥ではない。ましてやひらひらと飛ぶ蝶でもないし、地面を蹴り上げてを翅を伸ばし羽ばたくバッタでもない。
車に轢かれて魂だけ遥か彼方へと飛んでいる自分だった。
あ、俺死んだな。と痛みもなく頭によぎる。今日はなんの日だったかとか、やりたいゲームあったのにとか、好きな人もいないし童貞だったから一発女を買えばよかったなとか、本当クソどうでもいいことばかり泡沫のように湧き出ては消えていく。
ここからは三人称の視点だった。
グシャッと自分の顔が叩きつけられている。空気が入っていないバスケットボールみたいに一度鈍く跳ねると慣性に耐えきれず体が独楽のように回り始めた。
そして二度目の衝撃で腕が千切れたようだ。血潮が濡れたタオルを思い切り回すみたいに飛び散る。
つける効果音なら、ぶんぶん。ぶしゃぁぁぁ。どちゃっ! だろうな。痛みもない。
ゴロゴロと転がっていってだんだん回転が遅くなると、目の前には俺が吹き飛んだ元凶である車のタイヤが目の前に迫っていた。
その辺りくらいだろうか、走馬灯を見た気がした。
多分数秒もかからない人生の歩み。その最後はぶつんとテレビの有線を引き抜いた様な後になり、目の前が真っ暗になると、レトロチックなゲームサウンドが響く。
【生還者】
一つの単語が目の前に現れる。そうして俺、行止正義の現実世界の人生ゲームが終わったのだった。