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俺の望む世界

「女神様も大変なんですね。お気持ちお察しします」

 俺はつとめて穏やかな口調で言った。

 精一杯の憐れみの目を向けてやる。嘲笑と同情の篭った目を。

 俺はこの目を武器に、過去3人の友達をなくしたという実績を持つ。

 渾身の「死ね」は不発に終わったが、これなら女神の心にも突き刺さるだろう。


「でも、そうなってしまったのなら仕方がないのでしょう。クソ女神のせいなのでしょうか。いいえ、違います。あなたのせいでもありません。ただ、転生希望者の思うままにさせる、という事実がそこにあるだけなのです。ですから、俺にはどうすることもできません。俺にできることと言ったら、俺の望む世界の詳細を伝えることくらいですね。ということで、詳細伝えるんで、てめえはサクッと異世界作って俺をそこに転送しろ」

 途中から諭すような口調がめんどくさくなって、最後は雑になった。

 だって、この女神、いまいち俺の言葉が効いてなさそうなんだもん。なんか、やる気なくすわ。


「それで、あなたはどんな世界に行きたいの? できるだけ手短にお願いするわ。今みたいにあなたの喋り声を長々と聴かされると不快だから」

 女神はこちらに目もくれず、黒い長髪を指でとかしながら言った。

 クソっ。俺もこいつみたいに、心臓を抉られるような美声で、心にグサッと刺さる言葉を浴びせてやりたい。


「存在ごと消すぞ」

 俺は声のトーンを低くして、さっそく言ってみた。


 流石にあまり脈絡なく言っても無駄かと思ったが、思ったよりは効果があったようだ。

 女神の視線が移動して、俺と目が合う。

 冷たい目で、睨まれた。

 おお、これは魔法の言葉だな。


「あなたに私を消せるかどうかという問題は置いといて、さすがに存在ごと消すは言い過ぎじゃない?」

 言い過ぎなのか?

 うーん、俺には女神の価値観がよく分からん。


「で、俺の望む世界なんだが」

「手短に」

 俺が言いかけたところで、女神は割って入って、再度釘をさす。

 どんだけ、俺の声聞くの嫌なんだよ。


「分かってるって。俺が行きたいのは、まず、異世界と言っても、場所は俺が元いたような現実世界でいいんだ」

「そうなの? それは助かるわ」

 女神が少し明るい声を出した。

 俺は思わず聞き入る。

 

「正直あなたの妄想で作られた独自の世界観を長々と聞かされるのかと思って、身構えていたから、ほっとしたわ。あなたと気持ちの悪い世界観を共有する必要がなくて、ほんとによかった。あなたがもといた世界なら、既存のデータもあるし、その点も楽だし」


「てか、思ったんだけど、さっきからお前の話のほうが長くね?」

 俺は突っ込んだが、直後にしまったと思った。


「でも、あなた、私の声を美しいと思っているでしょ」

 確かに、そうなんですよね。はあ、まったく厄介な女神だ。


「それで、他の条件はなに? どうせ、ただ、現実世界にあなたを戻せばいいというわけではないのでしょう? それだと、自殺したけど、やっぱりまだ生きたいよ、ママ助けてーって感じですごく間抜けだし」

 女神が嘲笑いながら言う。


「当然だ」

 俺は毅然とした態度で答える。

 そして、続ける。


「俺は、俺の才能が頂点である世界に転生したい!」


 俺は言ったが、女神はいまいちピンときていないようだった。

「ちょっと、よく分からないから、もう少し説明を加えて」

 手短にって言ったからそうしてやったのに。

 なんだよ、この女神、頭悪いのかよ。


「つまり、俺の才能が頂点の世界だ。端的に言って、俺はなんでもできるし、弱点がない。そんな俺が評価されないのは明らかにおかしいだろ? 俺はチヤホヤされたいのだ! だから、世界を俺基準に変えてやるのだ。例えば、俺は50メートルを7.3秒で走れるのだが、俺より足の速いやつはその世界にはいない。俺より速いやつがいれば、みんな俺以下の能力にしてほしい。同様に俺より才能があるものは、みんな俺以下の能力にしてくれ」

 俺は説明をした。


「ふう。なかなかあなたの喋り声が長くて不快だったけれど、なんとなく分かったわ。つまり、なんの取り柄もなく、平凡なクズが、何をやっても1番になれるような退屈な世界を作るということかしら。あなたを強くするわけではなく、世界中の人をあなたより弱くするみたいな? そして、そこであなたはチヤホヤされたい」


「その通りだ」

 俺は答える。

「ただ『なんの取り柄もなく、平凡なクズが』のところは『完全無欠で非の打ち所がない葛原が』に変えて頂きたく、また『退屈な世界』は『素晴らしい世界』への訂正をお願いしよう」


「しょうがないわね」

 女神が渋々言い直す。

「つまり、完全無欠で非の打ち所がない、だけどどうしようもなく華がない、葛原が何をやっても1番になれるような素晴らしくも、吐き気を催すような世界を作ればいいのね」

 うん、こいつ、まじで病気だな。


「それにしても、あなたって、ほんと捻くれてるわね。大抵の人は俺を強くしろって言うんだけど」

 女神が言った。

 もう、訂正させるのめんどいし、捻くれてるは褒め言葉として受け取っておこう。

 おそらく女神は柔軟な思考だね、とか発想力が凄いね、とかそういうことを言いたいに違いない。

 それに、俺はこういう突飛なアイデアを閃ける自分の性格が実は気に入ってるのだ。


「チヤホヤされたいあなたに私が一つアドバイスをするなら」

 不意に女神が教え諭すように言った。

 なぜか、憐れみの目を向けている。

「そんなことをするより、まず、あなたのその性格を治した方がいいと思うんだけど」

「お前にだけは言われたくない」

 俺は即座に返した。


「ところで、クズくん」

 少しの沈黙があって、俺の描く異世界を女神がおそらく理解したであろう後、女神が口を開いた。

「なんだ?」

「そんな世界を作ったら、あなたの寿命が来るより先に世界が滅んでしまいそうだけれども」

 女神はそう疑問を呈した。冗談ではなく、本当に先に世界が滅んでしまうのでは、という口ぶりで。


「そ、そんなことはない!」……よな? 俺は言ったが、ちょっと不安になる。


「それに全員の能力をあなた以下にするとなると、文明がおそらくは、そうね、縄文時代とかでとまることになるはずよ。あなたの希望する現実世界へ転生するときに矛盾が生じるわ」

 女神の言葉に俺はギクッとする。

 確かにそうかもしれない。さすがに冷房も暖房もない藁の学校に通って、スマホもないテレビもない、なんて生活はいくら美少女からチヤホヤされると言ってもできれば避けたい。

 でも、縄文時代はちゃっと言い過ぎじゃない? さ、さすがに鎌倉時代くらいまでは進むはず。……だよな?

 頑張ってくれよ。俺以下の者たち。おまえらの能力はそこまで低くないだろ!


「ま、まあ、その辺はうまいことそっちで調整して下さい。お願いします」

 結局、俺の能力では流石に電気もネットも作り出すことは無理だと悟って、女神にお願いした。


「仕方ないわね。これが私の仕事だし。はあ、だる」

 女神はしっかりとため息をついてから「じゃあそういうことで、あなたの希望も聞いたことだし、そろそろ転生させるね」と言って、転生の準備を始めようとした。


 だから、俺は慌てて、女神に向かって言った。

「ちょっと待て。まだ終わってない。俺の望むことがもう一つある」


「なに、まだあるの? 欲張りすぎじゃない?」

 女神は作業の手を一旦止めて、言った。すごく嫌そうな顔を俺に見せる。

 俺は動じずに、口を開く。


「異世界では、女は全て美少女にしてくれ!」


 俺は女神にそう告げた。

 俺はすごく大事なことなので、声を大にして、簡潔に言った。


「異世界では、女は全て美少女にしてくれ!」


 すごくすごく大事なことなので、俺は一言一句間違えず、再度女神に向かって復唱した。

 もう一回くらい言っとこうかなあと思ったが、女神のまるでゴミを見るかのような視線が痛かったので、やめておいた。

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