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姉妹とおせんと眷属と  作者: ちょっと大和撫子な夢子さん
5/17

その正体は… 前編

ダダダダッ!ドドドドドッ!


足音が聞こえて来る。階段を駆け上がり私の部屋に向かってくる。


バンッ!!


扉が勢いよく開き、薫が飛び込んできた。


「庵姉!ちょっとこれ見て!」


真剣な面持ちで、手にはスマホが握られている。この後、けたたましく話し出すだろうと予想していたのに、ピタッと薫の動きは止まった。視線はある一点に注がれている。その視線の先には―――。


しばらくして、


「え?え!?えぇぇっ!!」


目を大きく見開き、口をパクパクさせながら幽霊を指差す。薫の反応にホッとする。


薫、あなたも普通の人なんだね。


「薫にも見えるんだね」


「え?」


私を見る。


「庵姉にも?」


うん、と頷くと、私の顔と幽霊を交互に見て、私が落ち着いているのが分かると薫の驚きも少しはおさまり、ベッドの上に一緒に腰かける。幽霊を見つつ、


「何でいるの?」


と聞いてくる。


「私も聞きたいたよ」


薫にも稽古場であったことを話す。


「ふぅん。おせんって言ったの?」


「そう。唄の事を言ったのか、自分の名前を言ったのか分からないけどね」


薫は幽霊を見たまま腕を組む。


「だったらさぁ、呼び名がないと不便だから、おせんさんでいいんじゃない」


「え?」


薫を見る。


「呼び名だよ、呼び名。いつまでも名無しじゃ何て呼んでいいか、こっちも困るじゃん?」


そんな勝手に決めていいのかなぁ。


見ると、幽霊は小さく頷いた。


いいんだ。結構いい加減もあり?


「でもさぁ、何で出てきたの?庵姉に恨みでもあるとか?」


足を伸ばして、リラックスしながら薫は話す。すると、その場にずっと立ってただけのおせんさんは、長い沈黙のあと、


「………………市助…………」


と呟いた。


市助?どこかで聞いた事があるような…。


あぁ、そうだ。怪談話の中でおせんさんの姉、おきつさんに横恋慕(よこれんぼ)してたのが市助で、自分になびかなかったからってお姉さんを殺しちゃった男だよね。


でも…その市助を恨んで出てきた訳じゃないよね?だって、話の中では(かたき)討ちは成功して、無念は晴らしている筈だし―――。


あれ?…何で私の前にいるおせんさんは市助を知っているの?もしかして…。


私はまじまじとおせんさんを見る。薫は気づいていないのか、話を続ける。


「何か市助って古そうな名前だねぇ。もうこの世にいないんじゃないの?」


私は薫を見る。


「ん?何?」


私の視線に気づき、目が合う。


「ねぇ、この女性(ひと)本物なんじゃ…」


「そうなの?」


「だって、市助ってほら、笠森おせんの怪談話の中の…」


と、そこまで言ったら、ああ!と思い出したように、


「マジか!あの市助か!」


と、ちょっと驚き、おせんさんを見る。


「じゃあ、尚更(なおさら)この世にはいないんじゃないの?」


沈黙――――。


「………………いる………」


無表情だなぁ。


「どこに?」


と立て続けにに聞くと、


「……………………」


沈黙長いなぁ。答えを待つこと10秒、20秒、


「…………探す………」


あ、答えた。


私はこの変なテンポに少しづつ慣れてきたけど、薫は、もうたまらん!と言った風で、


「っだぁ!何なんだこの変な空白は!」


と自分の頭をガリガリッとかいた。


「何で市助さんを探したいの?」


と言う私の問いに、


あ、まただ。気長に待つこと10秒、20秒…


言えないのか、言いたくないのか、どっちかも分からない。ただ黙って立っている。


待っててもきりがないかな。


理由の他にまだ聞きたいことがあったから、答えを待たずに続けることにした。


「市助さんを探すと言っても、昔のままで生きてるって事はないから、きっと生まれ変わってるって事せしょ?」


すると、かすかに頷く。


「もし、性別も顔も全く違っていたら、どうやってその人が市助さんだって分かるの?」


自分の知る人物が全く違う人になってたら、普通は誰だって分からないと思う。


沈黙が続く。


ちゃんと私の言ってる意味は伝わってるよね?


こう黙っていられるとちょっと不安になってくる。


相変わらず無表情、沈黙の時間はもれなくついてくる。しばらくして、薫が耐えきれなくてそわそわし出した頃、


「……………魂の色………」



私と薫はお互い目が合った。そして同時に出た言葉は、


「「魂の色!?」」


多分薫も同じことを思ってる。魂の色って一体何?


「ねぇ、個性みたいなものかな」


と薫に聞く。


「分からん」


と首を横に振る。二人して首をかしげるしかなかった。


魂の色ってあるの?


おせんさんを見てもそれ以上は説明してくれる気配がなく、何かよく分からない。だけど、魂の色なるものがあって、おせんさんには市助さんが分かるってことかな。


分かったような…理解しにくい次元です。市助さんって特別な魂の色でもあるのかしら?それって一体何色よ。


気を取り直して、もう一つ聞く。これが一番聞きたいことでもあった。


「何で私のところに現れたの?『おせん』を踊っていたから?」


じぃっと見つめて来る。


またもや沈黙が……。いつまで続くの?


「おーい、電池切れかー?」


薫はベッドに仰向けで倒れ込み、伸びをする。すると返事が、


「……………違う…………」


「ねぇ薫、この『違う』はどっちへの返事だと思う?」


ベッドから体を起こし、両手を上に向けて、肩をちょっとすくめておどけてみせる。


「分かりません」


分からないことだらけだ。もし、この『違う』が私への返事だとしたら、現われるのは私の前でなくても良かった筈…。市助さんを探すにしても、私と市助さんには何の共通点もないと思える。たまたま偶然なんてことある?


でも、分かった事もある。


おせんさんは私に恨みがあって出てきた訳ではないってこと。きっと市助さんが原因だよね。


そうだよね?そうだと言って欲しい。

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