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姉妹とおせんと眷属と  作者: ちょっと大和撫子な夢子さん
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交わりの予兆 後編

―――それはもう陽が傾き、夕暮れと言われる時刻の少し手前だった気がする。


目の前には見たこともないような巨大な朱塗りの鳥居が立ってる。下から見上げると自分が小さくなってしまったような、そんな錯覚にとらわれる。


私と薫、母もいたかもしれない。夢の中なので、記憶は定かではない。


お参りを済ませ帰ろうと、その巨大な鳥居を抜け出た所にいる。


何気なく、今出てきた境内の上、うすい雲が所々に広がる午後の空を見た。深い森がおいしげる上空を、何か白い生き物が2匹弧を描く様に飛んでいる。


あれは何?


よく見ると、白いキツネだ。


あんな奥にも稲荷社があったなんて―――。


気が付かなければそのままだったのに、気が付いてしまうと、好奇心が湧きおこり、行ってみたくなった。


薫と母に、


「私、もう一度行ってくる!待ってて!」


そう言うなり走り出していた。


「もう時間ないよ!」


薫の声が背中に届く


「分かってる!」


振り向きもせず、そのまま境内の中へと走って行く。


広い境内の中を走っていると、急に道が狭くなり、おいしげる草木が目の前を塞ぐ。そこを分け出ると、目の前に朱塗りの太鼓橋が現われた。人が二人ほどすれ違って渡れる位の大きさだろうか。次々に人が渡っていく。


不思議な事に帰ってくる人はいない。


橋の下には大きな池があって、向こう側があの白いキツネのいる場所だ。橋を渡ろうと並ぶ人の後ろに私も並ぶ。いよいよ私が橋を渡ろうと一歩足をかけると、足元にピシッとヒビが入った。


ガラガラガラッ!!


「!?」


橋は、音を立て地上と繋がっていた部分から大きく崩れ落ちる。慌てて足を元に戻すが、勢いあまって一、二歩後ろへよろけてしまった。


危なかったぁ―――。


胸を撫でおろす。


見ると、橋はすっかり姿を消していた。向こう側の岸は遥かに遠い。


これじゃあもう行けない……。


ちょっと残念な気持ちになり、しばらく向こう岸を見つめていた。辺りは先程より影が濃くなっていく。


…いけない!時間がない。


気付けば薄暗く、刻々と闇がしみ出してきている。怪しげな気が満ちる。


戻らなきゃ!


急いで今来た道を戻る。


来る時はそれ程時間もかからずに走ってこれたのに、どんどんその境内は足元からのびる様に広がっていく。


出口が遠くなっていく。


辺りには大きな木々があり、土が一段高くなっている。境内の広々とした平坦な地との境に、不揃いの石達が整然と並んでいて、それを横目に走り続ける。


一瞬何かが視界に入った。


その石の一つに、小さく痩せこけた半裸の人?


私は目を逸らすことが出来なかった。何故か、何か人と違うと感じたから。


ボロボロの布を腰に巻き、肌は浅黒く、ガリガリの手足。腹だけはぷくっと出た栄養失調のような体。まるで地獄絵から出てきたような…。目だけが飛び出るようにギョロッとして、この神聖と思われる神のいる場には似つかわしくない姿だった。


そうか!今はもう逢魔(おうま)が時なのか。あの世とこの世が交わる時間と聞く。


ではあれは鬼!?いや―――天邪鬼(あまのじゃく)


そう頭の中に浮かんだ。


本当の天邪鬼なんて見たことないけど、そう頭の中に浮かんでしまったのだからしょうがない。


何でこんなに自分の足は遅いの!出られなくなる!


いつ現われたのか、自分の真上、上空には2匹の白い狼が弧を描いて飛んでいた。視界はもう薄紫色から濃い紺色へと変わろうとしている。


飛んでいた一匹の狼が、その天邪鬼の前に降りて座った。すると、狼の頭を骨と皮のゴツゴツした手で優しく撫でる。狼は嬉しそうに尻尾を振った。


あれは仲間なの?


私の足は動いている。動いて、走っているのに場面が変わらない!


その狼がフッと私を見た。


来る!!


次の瞬間、私に向かって走り出す狼。必死に逃げる私。


私をとらえた目は、正と悪が混同した、どちらともなりうる深い金色の目をしている。


怖い!!もっと小さければ!子犬なら良かったのに―――!


そう心の中で叫ぶと、近づく大きな狼はみるみる小さくなり、白い子犬になった。


「?!!」


私の隣にピタリとつき、一緒に走る。可愛らしい顔で見上げて来る。その姿には、先程までの恐怖は感じない。


何で!?


驚く私の前に空からもう一匹の狼が、スーッと音もなく降りてくる。


「!!?」


その姿は、この世の者とは思えぬほどの美しい人となった。女性?男性?中性的などちらとも言えぬ姿で、平安時代のような丸眉を額に描き、鼻筋の通った面長の白くふくよかな顔、切れ長の金色の目、スラリとした体。その姿は品格と威厳に満ち、宙に浮いたまま私を見る。その眼差しは、この世の全ての理を知るかのように深く知的で、強い光を持っていた。その表情からは何の感情も読み取れない。心の奥底まで見抜かれているような、私という人間そのものまで量られているよな、そんな眼差しに怖くなった。


何か言わなきゃ―――何か―――。


そんな衝動にかられ、戸惑う私は走りながら口にする。


「有難うございます」


何故今この言葉が出たのかなんて、私にも分からない。


私を見ていた目は満足そうに笑い、天空を見上げると、スッと狼の姿となり、駆けあがって行った。


気付けば、いつの間にか鳥居の外に出られていた。上空には、紺色の空の中、2匹の白い狼と、奥に小さく2匹の白いキツネが飛んでいる。


何事もなかったかのように―――。



―――変な夢だった。あまり稲荷社へは行く気になれないけど、薫の言う通り、舞台もあるし…。


自分の部屋へ向かう足を止める。


「そうだなぁ。行ってみようかな」


小さく呟くように言った。

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