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姉妹とおせんと眷属と  作者: ちょっと大和撫子な夢子さん
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庵に憑いてたのは―――

全てが終わり社殿を後にする頃には、三谷さんの旦那さん、元市助さんも普通に戻り、奥さんも本当に喜んでいた。


何度もお礼を言われて逆に困ってしまい、ちょっと居たたまれなくなった私達は、別で帰る事にした。


三谷さんご夫婦と別れた後、私と薫は二人でのんびり鳥居の出口に向かいながら、今度三谷さんのお店に食べに行ってみようよ、なんて話をする。


「そうだ、おせんさんは市助さんに会えたかなぁ」


と何となく口にすると、


「会えてないわヨ」


突然違う声がした。


「「え?」」


私達は顔を見合わせ、辺りをきょろきょろ見る。


「今、キツネの声しなかった?」


薫も頷く。


「チョットォ、どこ向いてんのヨ。コッチヨ、コッチ」


「あっ!」


その声の持ち主は、ちょこんとおすわりをして私達を見上げている。


え!?さっきのは本当だったの!?


あまりにびっくりして、私達の視線はキツネに釘付けとなる。するとキツネはふわぁっと宙に浮き、


「な~に変な顔してるのヨ」


と言って、くるくる私達の周りを飛ぶ。


「早くこんな所出ちゃいましょうヨ。アタシ、気分悪くなっちゃうワ」


「………………」


「………………」


「な~にヨ。もう忘れちゃったノ?さっき薫ちゃんに憑いて行くって言ったじゃナイ」


固まってた薫は、その言葉に、


「私?」


と自分を指さす。


「そ~ヨ。ホラ、行くわヨ」


ふわぁっと行ってしまう。それを慌てて追いかける。


「ちょっと待って!さっきの話、おせんさんは会えてないの?」


キツネに追いつくと、


「そうヨ。だってアタシ、元の世界に返しちゃったもの」


え?


私の動きは止まった。


「え~!!嘘でしょ!?」


思わず浮いてるキツネをバッと両手で掴むと、大きく揺さぶる。


「何でよ!私まだありがとうも、さよならも言ってないのよ!?今すぐ出して!今すぐ戻して!」


それを見た薫が慌てて、


「庵姉ストップ!キツネが目回してるって!」


ハッと我にかえり両手の中にいるキツネを見ると、くたっと頭を後ろにしてのびていた。


「あっ……ごめん」


するとキツネはすくっと顔をもたげ、


「チョット!何すんのヨ!」


とぷんぷん怒って睨む。


「だって……」


「だってもクソもないでショ!もうそういう事しないって約束しちゃったんダカラ!恨むなら、ここの狼を恨みなさいヨ!」


「…………」


何も言えず、キツネを見つめるしか出来なくて落ち込んでいると、


「何しょげてんだ」


!!


背後から耳元で低い男の声がした。びっくりしてバッと振り向くと、そこには黒く大きな犬が宙に浮いていた!


「な!?」


薫も私の傍で驚きを隠せずにいる。


それは、精悍(せいかん)な顔立ちの、大きな立ち耳を持つ犬だった。先程の狼とは違い、こちらは茶水晶の瞳が野性的な印象を与える。


かっこいい―――。


心の中で呟いてしまった。が!我にかえる。


「何で?いや、その前に誰?」


もう宙に浮くのも喋るのもキツネで免疫出来てるからさほど驚かないけど、この犬の存在は今初めて知る。


黒犬は少しがっかりしたように、頭を一度だけ左右に振ると、


「はぁ、全く気付いてなかったのか―――。お前がピンチの時は助けに行ったんだが…」


「え?ピンチの時?」


はて?ここ最近ピンチがあったと言えば、あったような…。でも、いろんな事があり過ぎてどれがピンチだったか…。それに、こんな黒犬見てないしなぁ…。などと考えていると、


「俺、今回の依頼降りる」


とそっぽを向く。


「え?あ、ちょっと待って!このままってのは私も気になるし、その依頼ってのも知りたいし…」


と黒犬を見つめると、仕方ない、といった風にぼそっとぶっきらぼうな言い方で、


「病院だ。暗闇にお前が一人になった時…」


私の頭の中は、あの暗闇を思い出す。そして―――


あ!あの時!怖くて、神様にお願いしてた時だ!目をつぶっていたから、助けてくれたのが分からなかったのね。まぁ、目を開けていても、あの暗闇の中で黒犬は見えないだろうけど…。


一応、ここは大人な態度で、


「そのせつは、お世話になりました」


とペコリと頭を下げる。黒犬の瞳が満足そうに輝く。すると薫が、


「あの時?私が知らない所で何かあったの?」


そう、薫は知らないんだ。


「うん。あったんだけど、大丈夫だったの」


と笑顔で答える。もう説明なんてしなくていいよね。思い出すのも嫌だし。


もう一度黒犬を見る。


「あの~、依頼って何?」


と聞くと、まだ私の手の中にいたキツネを見て、


「そいつの見張りだ」


キツネはピクッと耳を動かし、


「チョット!いつまで掴んでんのヨ!離しなさいヨ!」


と私を睨む。


「あ、ごめんね」


ぱっと手を離すと、キツネはふわぁっと宙に浮いて薫の所へ行き、肩につかまると、


「ヘヘン。アンタなんか怖くないもんネェだ」


と犬に舌を出す。ギロッと睨まれると、パッと薫の背に隠れた。


やっぱり、怖いんじゃない。


「まぁ、依頼もあるから仕方ない。共にいる」


「共に?」


「そこの馬鹿ギツネと違って、俺はほとんど姿は見せない。お前の影の中にいる。必要な時だけ呼べ」


呼べって言われても…。そして、その依頼というのは―――頭の中で今までの流れを整理する。


「つまり、あなたはあの狼さん達に頼まれたってこと?」


黒犬は私を正面から見つめると、


「そう言うことになる。昔も今もな」


え?


「昔も?」


すると、横からキツネが割り込んできて、


「あぁ、ダカラ犬臭かったのネェ」


犬臭いって…何か微妙に嫌な言われ方なんですけど…。


「でもさ、呼べって言われても、あんたの事何て呼べばいいのさ」


と薫が聞く。


「自由に呼べ」


「名前をつけていいって事?」


黒犬は頷く。


「あ、アタシも!アタシにもつけて、薫ちゃん」


とキツネが薫の後ろから飛び出てきた。そんなキツネを見て、薫はう~ん、と考える。


「赤くて丸いから、だるま!」


「却下!」


間髪入れずにキツネが答える。


「あ、駄目?」


じゃあ~、と言ってまた考えて、


「じゃ、赤丸!」


「却下!」


「何だよ、また駄目?いいと思ったのに」


「いい訳ないデショ!?テストの丸バツじゃないのヨ!」


「まぁるいお前が悪いんだよ」


薫の目は笑っている。


「キ~~~ッ!何ですって!?」


キツネの目が三角になる。


薫、大分キツネの扱いに慣れてきた?


紅丸(べにまる)。これならどうだ?」


キツネは暫く考えてたみたいだけど、しぶしぶ承諾した。


私は―――目が合う。


黒に茶水晶の瞳が()えるなぁ。


頭に浮かんだ言葉を言ってみる。


黒金(くろがね)でいい?」


「いいだろう」


良かった、気に入ってくれたみたい。



私は顔を上げる。


おせんさん―――もう会えないのかな。


あなたが気にしていた市助さんは、この世でちゃんとやり直せているよ。心配しなくて大丈夫だからね。


私の声、届くといいな。



そして、ふっとある事に気が付いた。


「ねぇ、紅丸」


と呼び止める。何?と振り返る紅丸に、


「あなた、神社にいたって事は、自分の居た神様への連絡は?戻らなくていいの?確か、(つい)で神様を護ってるんじゃ…?」


紅丸は、先程から薫の前を行きつ戻りつしながら、歩き出した私達について飛び回っている。


「その心配は無いワネ。だってアタシ、アンタんちのキツネだもん」


え!?


私と薫の足は止まった。そして同時に


「「うちの!?」」


紅丸を見る。紅丸は呑気(のんき)な顔して、


「そ~ヨ。あの日も、アンタ達か笠森稲荷に行くって言うから、面白そうだナァって思って憑いて行ったのヨ」


薫の肩がピクッと動く。紅丸は気づいていない。


「そしたらサァ、チョ~ット遊び心が湧いちゃって、小さな石になってたりしたノ。そしたらああなっちゃったジャない?イヤ~、まいったわよネェ」


とケラケラ笑う。


私は呆れるしかない。薫は右手でゲンコツを作ると、


ゴンッ!


「痛ッ!何すんのヨ~」


紅丸は頭を抱え、恨めし気に薫を見る。


「全部あんたの紛らわしい遊びが原因か!」


薫に怒られ逃げ出す紅丸。


「もうしないってば~!」


「待て~!」


追いかける薫。


それを見て私は微笑む。


「何か、良いコンビになりそうだね」


と呟くと、私の陰から、


「だな」


と声がした。



さぁ、いよいよ、薫の受験も私の舞台も目前に迫っている。


私達の勝負の時は近い!

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