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姉妹とおせんと眷属と  作者: ちょっと大和撫子な夢子さん
15/17

キツネって…

呆然とする私と薫。


「何なのヨ、さっきからオカマオカマって。そんなのどうだっていいでショ!」


これは、さっきまで恐ろしい化け物だったはず。何をどうしたらこうなるの?


私は戸惑いながら、


「あの~、聞いてもいいかしら?」


「ナニ?」


キッと睨まれる。ちょっと躊躇(ちゅうちょ)する。でも、心に決めて聞く。


「あなたが、私に嫌がらせしてたんだよね」


「だから何ヨ」


キツネはぷいっ顔をそむける。


「何でここまでするの?」


三谷さんに取り憑くなんて、やっぱりやりすぎだと思う。キツネは私を睨みつけ、


「だって見なさいヨ!この美しいアタシを!」


そう言ってくるっとその場をターンして気取ってポーズをとる。


ぽよん。


? そのゆれるものに視線が止まる。


まるまると太ったお腹が――揺れている!


「この(つや)やかな毛並み!」


またターンをして逆を向く。首をすっと伸ばし、すました顔で横顔を見せる。


ぽよん。


お腹が揺れる。


「ぷっ」


薫が隣で笑いをこらえてる。


薫~~笑っちゃ駄目だってば!


私は自分のひじで軽く薫を押す。キツネは自分に酔っているようで、私達の様子に気付いていない。


「そして、この見事な尻尾(しっぽ)!」


ばふっと二つの尾を揺らし、またターンする。


ぽよん。


い、いけない!ここで笑っちゃ…。お腹が出ているせいで足が―――短い!顔も―――丸い!


「そして、極めつけは、この珍しい赤毛!」


モデル並みの美しいターンをして、後ろ姿を見せる。


ポーズは決まった!しかしお腹がはみ出てる!


薫はこらえきれないとでも言うように、肩を震わせ、小刻みに震えている。


薫~~、私も必死にこらえてるんだから~。


キツネはそんな私達に気付くことなく、動きを止めるとふるふると体を震わせ、パッとこっちを見た。


「それなのに!それなのにソコの女は踏んだのヨ!このアタシを踏んだのヨ!」


涙目になってる。とうとうこらえきれなくなった薫は、


「ぶわぁっはっはっは!!」


お腹をかかえて大爆笑。


「やっばぁ、めちゃ可笑しくて腹痛い~」


「キ~~ッ!!なんなのよ!バカにして!」


キツネの目は三角につりあがる。


「ご、ごめんね。悪気はないんだけど……ぷぷ」


いけない、笑いが…。


「も~許さない!許さないんダカラ!」


と毛を逆立てる。


「だってお前デブすぎ!あははは!」


「キーッ!デブじゃないわよ!ぽっちゃりとお言い!」


「ぶっ!」


その言葉に吹き出してしまった。


ぽっちゃりはないでしょ、ぽっちゃりは!とっくに範疇(はんちゅう)を越してます!


すっかり話題がそれてしまっていると、頭上空間全体に声が響いた。


‶キツネ”


低く、穏やかだが、威厳のある声。私達の笑いはすっと収まる。声の主は狼だった。今までの成り行きをジッと見ていた狼がキツネを見ている。


‶今までのお前の行動、許しがたい”


不思議な事に、狼は口を開いていない。それなのに声が響く。


すると、もう一方、美しい人からも、少し声は違うが同じように品格と威厳のある声で、


‶そなたの身、茶吉尼神(だきにてん)か、守賀能美多麻神(うかのみたまのかみ)にあけわたすがよいか”


口を開いていないのに、違和感など感じない。


すると、キツネはぴくっと体を震わすと、その名を口にした人を上目づかいに見る。


「あ~、チョット待って。ソレは困るワ」


そしてうつむくと、小さく呟くような声で、


「もう、出てこれなくなっちゃうじゃない…」


何だろう?様子を伺っている私と目が合う。すると、


「アナタ分かってないようネ」


そう言って私の方へ体を向ける。


「私たちオサキは元々妖怪なのヨ。今じゃ神の使いなぞやってるけど、中には自分が神だ~なんていうヤツもいるわヨ」


やんなっちゃうわネ、って感じで前足を軽く振って見せる。


「ダカラァ、元妖怪でショ。神に背く行動をした者は、連れて行かれたらもう二度と自由に動けなくなるのヨ。分かる?このツラさ」


軽く頭を振ってみせる。


「いい気味じゃん」


キツネの話を聞くと、薫の一言がとび、キツネはムッとした顔を薫に向ける。


成程ね。元々妖怪だから、人への悪さもあまり悪びれなく出来てしまうのね。何か納得できるかも。


ここで言葉を挟むのはどうかと思ったけど、私はどうしても聞きたくなった。


「あの~、一つ質問です」


「何ヨ」


睨み顔のまま私を見る。


「何で元妖怪が、神の使いに?」


すると、あぁそんな事か、と言った様子で、


「だって人間はくれるジャない。美味しい物。なんて言ったカシラ…あぁ、そうそう、お供え物!」


「ぶっ!」


薫、笑っちゃ駄目だって…。まぁ、だから太っているのね…。口に出したら怒られそう。ちょっと呆れていると、


「はぁ」


隣で薫のため息が聞こえる。


所詮(しょせん)、獣」


呟く薫のその言葉に私も頷く。


「アァでも、私達も神の使いになった理由は個々に違うのヨ」


と付け加えると、またすぐ狼におねだりポーズをして、


「お願い、ナイショって訳にはいかないカシラ?もう二度と悪さはしないカラ」


と上目づかいでお願いする。薫の言葉はキツネには聞こえてないみたい。よかった。


薫は腕を組んでキツネを睨む。


「ふん、調子がいいヤツだな。お前はやり過ぎなんだよ」


すると、キツネも薫をキッと睨み返し、


「しょうがないでショ!そっちの女がなかなか()をあげないからヨ!」


え?私?


突然こっちに話が回って来たので、ちょっと驚く。


「なんだって?」


薫の眉がぴくっと動く。


「始めはちょっと邪魔して、舞台出られなくしてやろうって思ったのヨ。でも、なかなか根性合って止めないから、おせん出せば今度こそ怖がって止めると思ったのに、アンタら仲良くなってるし!ダカラそこにいる男に取り()いたのヨ。アンタ達三人を怖がらせる為に!」


勢いよく話し過ぎたのか、キツネはちょっと肩で息をする。


「お前、全然反省してないだろ」


薫のその一言に、ハッと我にかえったのか、耳と頭を下げ、しゅんと小さくなる。


「…反省してるワヨ。やりすぎちゃったって……」


最後の言葉は消え入りそうなほど小さかった。


何だか、可愛そうな気になってくる。


お人よしって言われるかなぁ。昔から小さくて可愛い物には弱いのよね、私。


「もう二度としないって約束してくれるなら、私は許してあげるよ」


と言うと、キツネはパッと顔を上げ私を見る。


「庵姉、甘い!」


と薫が言うと、またしょぼんと頭を下げてしまう。


あらら。


私は狼達に向かって、


「今回だけは、許すという事は出来ませんか?勿論、三谷さんにしたことは許せないけど、もう二度としないって言うなら…」


狼達は何も言わず、じっと見つめてくる。すると、キツネに向かって、


‶この者達への償いはどうする―――キツネ”


その声にパッと顔を上げ、


「償いはするワ!その男には商売繁盛を約束する!」


「どんなだよ」


薫はまだ許せないでいるらしい。


「分かったワ!アンタは、アタシがこれからずっと(まも)るわヨ」


「「え?」」


私達は同時に驚きの声をあげる。


薫に憑く?薫を護る?


薫もその答えに戸惑っている。


「ちょっと待って、何で私?庵姉じゃないの?」


キツネはちょっと困ったように、肉球を自分の額にあて、考える仕草をする。


「マァ、本当ならそうだケド…チョットそれ出来ないのヨ…犬臭くて」


「「え?」」


また二人で驚いてしまう。


思わず私は自分の腕を鼻のところへもってきて、くんくんとにおいをかぐ。


犬臭い?そうなの?


「薫、私何かにおう?」


薫はううん、と首を横に振る。


「マァそのへんは、アタシより狼殿に聞いてみたら?それにホラ、アンタとアタシってお似合いでショ?」


と薫を見る。



キツネは自分を指さし、


「男女に―――」


薫を指さし、


「女男!」


その言葉に、薫は瞬時に反応する。


「誰が女男だ!私はれっきとした女だ!」


薫はキツネからぷいっと顔をそむけると、口を聞かなくなった。


薫…不憫(ふびん)な……。そして、お気の毒さま。


私は狼達を見る。深く金色に輝く目は何も語らない。(しばら)く私を見つめていたけど、狼達は何も言わぬまま、ふわぁっとその姿を(かす)ませ、霧のように消えていってしまった。



気が付くと、全ては元に戻っていた。


狼もキツネもいない。


私の隣には、薫が狐につままれたような顔をして座っている。


目の前には、神主さんのご祈祷(きとう)が終わりを告げていた。


一体今のは夢を見せられていたのだろうか?


不思議な余韻(よいん)の残るまま、私達二人はただそこにいた。

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