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姉妹とおせんと眷属と  作者: ちょっと大和撫子な夢子さん
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異形の者 後編

次の薫の休みを待って、私達はあの異形の者を追う事にした。


おせんさんはあれが市助だと言うけど、どう見てもただの人じゃない。そこで、夜だと怖さ倍増なので日中探すことにした。


「おせんさん、あの者の場所分かる?」


「……………分かる………」


「においでもあるのか?」


と薫が聞くと、


「………見える…………」


見える?


おせんさんは時々理解不能なことを言う。


幽霊って透視能力もあるの?


とにかく、私は薫とおせんさんについて行く。


つく?


何か今の構図って変なの。人が幽霊についてくなんて、ちょっと幽霊の気持ちが分かっちゃったりして――。なんてね。


と、一人くだらぬことを考えているうちに、目的の場所に着いた。それは、さほど私達の住む町から離れていない一軒の洋食屋だった。


「ここ?」


見ると、その店先には張り紙がしてあり、『都合によりしばらく店をお休みします』と書かれていた。


その店の隣を見ると、パン屋と、ちょっと離れた所に本屋があったので、私と薫は手分けしてこの洋食屋さんの情報を聞きに行くことにした。


話の内容はほぼ同じで、仲の良いご夫婦二人でお店は営まれ、近所でも人気があるお店だということ。それと、ここ3日ほど前から理由もわからずお店は閉められているとのことだった。


3日前というと、あの異形の者を見た夜あたりのことだと思う。


「どうする?」


と薫に聞くと、


「潜り込むか」


と間髪入れずにかえってくる。


「駄目に決まってるでしょ!不法侵入で捕まります!」


全くこの子は、時々危ない事を言うから姉としては心配になる。


すると、少し考えている様子をしてたかと思うと、


「仕方ない。正攻法で行くか」


と言って近くのスーパーに入り、一つのゴムボールを買ってきた。


「何するの?」


「まぁ見てて」


とニッと笑うと店の裏手にまわり、小さな庭にポーンとボールを投げ入れた。


!?


玄関にまわりインターホンを鳴らす。そして大きな声で、


「すみませーん。こちらの庭にボールが入ってしまいました。取りに入ってもよろしいでしょうか」


成程ね。


見ると、表札には『三谷』と書いてある。


三谷さんって言うのか。少しすると、インターホンから女性の小さな声がした。


「…今、探してみます」


薫は私の顔を見て、やったね、という顔をする。この家の横からでは入っていくことが出来ない構造になっているようなので、ボールを取るには一旦家の中に入らないと行けない。たとえ入れなくても、玄関に出てきてくれたら話が出来ると思ったので、どっちにしてもチャンスありと思った、と。


我が妹ながら、変なところで頭が切れる。ちょっと感心する。


(しばら)くしてドアが開いた。


中から出てきたのは、四十代半ば位の細身の女性だった。少しやつれた顔をしてうつむき、手にはボールを持っている。


「はい、これ…」


力のない声でボールが差し出される。私はお礼を言ってボールを受け取ると、


「お店、今日楽しみにして来たんです。お休みなんですね」


と言ってみた。


「すみません…」


と頭を下げ、すぐドアを閉めようとする。薫は咄嗟(とっさ)にドアに手をかけ、


「いつ?いつ頃になったらお店開きますか?」


その言葉に、


「それは…」


と言葉を詰まらせる。


やっぱり何かある。なんて切り出そう。


すると中から、


ガチャーン!バリバリ!


と凄い音がした。


「何?」


女性はハッと顔を上げ、


「すみません!」


と慌ててドアを閉めようとする。


「ま、待ってください!」


私も思わずドアを押さえてしまった。聞くチャンスは今しかない!


バン!


と勢いよく戸の開く音がし、廊下に現れたのは、あの夜見た四つ足の男だった。


「なっ!?」


あの夜は気が付かなかったけど、男の目の瞳孔(どうこう)は猫の目の様に細かった。


私達は一瞬動きを止め、息をのむ。


男は、私と目が合ったかと思うと、ビョンと飛び跳ねるような動きをして奥へと消えた。私達に見られたと知った女性は、その場に泣き崩れる。



四つ足の男は、さっきから店の調理場で何かを漁っている。私達は女性に案内された一室で、おぜんを囲んで座っている。


話によると、三日ほど前から夫の様子が変わってしまい、おかしな行動をとるようになったと教えてくれた。やはり、原因は分からないらしい。


こちらの旦那さんが、おせんさんの言う(もと)市助さんだという事は、おせんさん(いわ)く間違いないらしい。奥さんの話からは、とても優しく仕事に真面目な人だと聞く。


昔とはだいぶ違う人生を歩んでいるんだな。何故そんな人がこんな変わりようになってしまったのか不思議だ。


前世が市助だからなってしまったのか?何かそれは考えにくい。では、たまたま偶然なのか?


さっきからガサガサと音が聞こえてくる。


どうも、人に危害を加えることは今のところないみたい。


私は奥さんに聞く。


「ご主人は姿が変わってからは、いつもあんな感じなんですか?」


奥さんはうつむきながら、


「はい…日中は家の中であのように…。夜はどこかへ行ってしまい、明け方にはまた家に戻っています」


話は続く。


「私はいつ誰かに見つかり、大事になるのではないかと心配で…」


と言ってまた泣き出す。私はさっきから調理場が気になって仕方なかった。


「ちょっと、様子を見てきてもいいですか?」


奥さんは頷く。私と薫はそっと調理場の入り口から覗いて見た。勿論、おせんさんも一緒にいる。奥さんにはおせんさんの姿は見えないようで、今のところ怖がらせるような事にはなっていない。


しかし、酷い食べ方だ。犬か猫が食べているような食べ方で、手を使うことなく直接入れ物に顔を突っ込んでいる。鍋はひっくり返し、冷蔵庫は開けっ放し、生肉だろうか?半分だけ食べられ放り出されている。


今、口にくわえたのは油揚げ?


薫に目配せしてその場から離れる。そして元の部屋へ戻ると、薫に、


「あれって、もしかしてキツネ?」


と聞いてみた。


「油揚げだから?」


「…ちょっと単純すぎかな」


すると、さっきから黙っていたおせんさんが、


「……………そうかも………」


と言った。何か決定打に欠ける。



その後、私達はお互いの連絡先を教え合い、協力することを約束し、何か分かった事、変わったことがあったらお互い知らせることにした。


その日はそれで三谷家を後にした。

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