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異世界における武力衝突  作者: キロール
第三章、大戦前夜
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第17話「統一」

 三百年に渡り存在していた国が滅ぶ。

 新たに生まれ変わる為に。

 バルアド大陸に続いた三つの国家は、ただ一人の王の下で一つの国として統治される事になった。

 言葉にすれば簡単に済む話だが、現実は大変厳しい政局であろうことが予想された。

 それでも、多くの者にとっては待ち望んでいた事でもあるのだ。

 300年前に、邪神官の圧政に苦しんでいたバルアド大陸の人々を解放した勇者が、遂にただ一人の王として王座に就くのだから。

 それは、300年前に解放された人々が願った事であり、テルハ大陸の横やりで叶わぬ夢と消えた宿願なのだ。


 クレヴィ・アロ。

 300年前に二十の難事を成し遂げた勇者。

 その高まり続ける声望を恐れたテルハ大陸の諸王により、最後の戦いの地となったバルアド大陸で永い眠りに就かされた男。

 バルアド大陸は魔術的な霧に覆われて外界と行き来できずに三百年の時を経た。

 その彼が眠りから覚めて、テルハの諸王に対抗するべくバルアド大陸全土を統治することになった。

 当事者たちは時の流れに消えたとしても、その血族には罪の意識が伝えられているであろう事は想像に難くない。

 罪の意識の伝達、すなわち自己正当の為の歴史の改竄は勝者の常である。

 真に正義を成したと胸を張れるものは、下手に改竄などしないがそこまで言い切れる者は稀である。

 故に、眠りから覚めたクレヴィ・アロを悪として断罪せねば、彼らの寄って立つ大儀が失われる。

 それが嘘で塗り固めた大儀であっても、失えば権力の座を追われる可能性がある。

 其れだけは避けねばならない、その様に諸王は考えるとクレヴィは信じていたし、概ね間違いでもなかった。


 元々がバルアド大陸を支配していた邪神官を排し、植民地として組み込もうとしていたテルハ大陸の諸王たちである。

 クレヴィの存在が無くとも、霧が晴れる事により再び行き来可能になる新たな領地を求めて進軍を開始すると考えるのは、当時の情勢しか知らないクレヴィにしてみれば当然の判断でもあった。

 テルハ大陸とて、当時のまま全てが推移して来た訳では無いが、クレヴィの考えを補強するような情報がバルアド大陸には齎されている。

 テルハ大陸のデーサイルと言う古い歴史を持つ小国が、大国の欲望の為に滅んでいると言う事実だ。

 それも、ほんの十数年前の出来事でしかないとなれば、バルアド大陸の者にしてみれば、クレヴィの考えを支持するのが現実的に思えるのだ。


 つまり、クレヴィ・アロによる統一国家の誕生に対する忌避感の少なさは、テルハ大陸の諸国と言う強大な外敵によるものでると言っても過言ではない。

 勿論、それだけではないが、邪神官の支配時代に多くの差別がうまれた結果、種族間でいがみ合う事も少なくないバルアド大陸の各種族が、こうも簡単に手を取り合う事になったのは、そう言う事情があったからだ。

 勿論、王となる者が解放者クレヴィ・アロであるからこそ、そして眠る彼に対する信仰が芽生えていたからこそ可能な事なのは否めない。

 勇者クレヴィと言う存在は、いわば今を生きる神話の登場人物である。

 その彼が王になるとなれば、対抗馬を探す方が難しいのだ。


 それに、近年評議会議員から大量の汚職者を出した種族連合ユニオン、犯罪組織が国の中枢にまで食い込んでいたギルギ帝国、女王の乱心ともいえる数多の強権的な行いに遂には反乱まで起きたシャーラン王国、これら三国の民衆による政治不信を拭い去れるのは、最早クレヴィのみであると言っても過言ではない。

 数多の出来事が、クレヴィこそ王にするべしと語り掛けているようだった。

 その幾つかの出来事は、妖術師である神土 征四郎(カンド セイシロウ)が画策した謀略であったが、偶然が重なっていた事も事実である。

 これは天の配剤、受け取らねば罰が当たると征四郎は軽く笑ってクレヴィに告げたと言う。


 新たな国を興すと言う事は、やるべき事が多すぎる。

 まず、統一国家の樹立を宣言し、税制や行政の在り方、文化風土の違いに対する配慮、そして軍部の再編成と仕事は目白押しだった。

 細かな仕事は逸れこそ多岐にわたって存在するのだろうが、急務は三国の軍部を統合し再編成する事にある。

 予算の問題はどうしようもない所はあるが、それでも外敵と戦うための連携が取れる程度には仕上げておかねば、勝ち目はないのだ。

 それらの件を当初は征四郎が一手に引き受けるかと目されていた。

 竜殺しの妖術師は、大軍を率いる才能は然程でもないが、多くの軍事的知識を持ち、千人規模を率いると凄まじい働きを示した彼こそが、クレヴィの国の実質NO.2と目されていたからだ。

 だが、征四郎は自身の役目はあくまで前線で戦う事にあるとこれを固辞した。

 そして、幾人かの軍人の氏名を挙げて彼らの戦力分担を決めさせるのが良いとクレヴィに伝えたのだ。

 そればかりではなく、政治的オブザーバーに磯山イソヤマ 六郎ロクロウの名も挙げた。

 王政や帝政のみならず多くの政治形態を知り、異世界とは言え紛争地の歴史にも詳しい事から、第三者的視点を持つオブザーバーにはちょうど良いと言うのである。

 クレヴィは、これらの意見を汲んで国家の中枢を作り始める。

 征四郎は、表にこそ出なかったが国の設計図を描いて見せたようなものだった。


 そして、出来上がった国家の形態は立憲君主制である。

 王であるクレヴィの権限は、憲法により制限されるが軍事的最高司令官の地位は保証されている。

 王妃であるレーギーナの権限は大幅に制限されるが、特別な事情があれば王権の発動は可能とした。

 王の政治を補佐するために議会があり、貴族を中心とした貴族院と、国民に選挙でえらばれる事になる国民院の二つに議会は分けられる。

 双方の権限はほぼ同等であり、判断が二つに分かれた際の裁量は王が負う事になる。

 行政や司法は今までと大きく変わらず、役人が法に則り行う事が決まった。


 一方で軍事的にはどう変わったかと言えば、大別して六つの軍団に分かれた。

 クレヴィの身辺を警護し、クレヴィが戦場に行くときは行動を共にする近衛軍団。

 軍団長は自動人形オートマータのドゥクス。

 影で暗躍し、破壊工作や暗殺の防止などに取り組む諜報軍団。

 軍団長は自動人形オートマータのミールウス

 そして、戦闘任務を主体とした第一から第四までの戦闘軍団。

 第一軍団長はラジスラフ、種族連合ユニオンにおいて第一軍団を指揮していた老練なドワーフの将軍が指揮する。

 第二軍団長はザカライア、シャーラン王国の元宮廷魔術師は反乱軍の指揮において非凡な才を示したとして第二軍団を指揮する。

 第三軍団長はブルース、ギルギ帝国の最高司令官の一族である若者は才能に溢れていたが、父親が咎人であった為良くて左遷と思われていた。

 だが、クレヴィは親の罪を子が被る必要はないと言う言外の意思を示して、能力に見合った地位を彼に与えた。

 最後に第四軍団長はアルマ、自動人形のこの娘は今では自信に溢れており、その才能、戦局眼に疑う余地はないと最後の軍団長に名を連ねた。

 彼等六軍団長と総勢18万の軍勢がクレヴィの持つ軍事力である。


 征四郎の率いる特別強襲部隊『B・B』(ブラック・ブラッド)は第四軍団に所属し、その総数は支援や補給に携わる兵士数を合わせて1500名となった。

 この1500名を12人の幹部に割り振られ、率いて戦う。

 エルフのイゴーが率いるのはエルフやダークエルフにより組織された弓矢で相手を翻弄する射撃班。

 デモニアのヴァーツラフ率いる魔術班は、戦闘に魔術を用いて臨機応変の対応が期待されている。

 コボルトのキケが率いるゲリラ戦闘班は、キケがあの恐るべき森の中で会得したゲリラ戦術を駆使して、敵に対して遅延活動やゲリラ戦を仕掛けて出血を強いる。

 ダークエルフのイルメリが率いる破壊工作班は、進軍経路を割り出して敵軍の進行を妨げたり、補給部隊の襲撃などを期待されている。

 ドワーフのオーレク率いる戦闘工兵班、これはドワーフ謹製の工学兵器を駆使した戦闘班である。

 ケンタウロスのカイサ率いるケンタウロス、ゴブリン軍狼騎兵の混成突撃班は、その速度と突進力で敵に一撃を加える。

 同じくケンタウロスのエスローは、射撃騎兵と呼ばれるケンタウロス、ゴブリン軍狼騎兵に弓を持たせた機動攪乱班を指揮する。

 イェレが率いるのは、エルフやダークエルフ、デモニアと言った細身の剣士を主体とした切り込み班。

 オークのアゾンは重戦士班を率いて、切り込み班の空けた穴を広げて敵部隊を叩く役目を負っている。

 ゴブリンのマウロは、機動性を生かした軽歩兵班を指揮し、切り込み班や重戦士班の支援を行うのみならず、隙があれば敵将へ切り込む刃と化す。

 そして、亡国のデーサイルの残党を主軸とした遊撃班を指揮するのはアレクサンドラ、戦場を俯瞰して、敵の一手を封じ込めながら自軍の攻勢を手助けすると言う難しい職責を与えられている。

 その職責に耐えられるように、古強者が多く在籍し、航空戦力も配備されている。

 それに、ケンタウロスのルーヌが指揮する衛生班、これは各班に衛生兵の派遣や補給物資の運用が主な任務である。

 以上の12名が数十から百数十の班員を率いる事になった。

 その12名の上に征四郎が立つ形である。


 形が決まれば、後は中身をそれに合わせて訓練を施すだけである。

 どの軍団も厳しい訓練を課せられたが、一際厳しい訓練を課した部隊がどこの部隊かは特筆すべき事ではない。

 すでに時は6月も終わり。

 あと一年で霧が晴れるのだ。

 それまで最低限のレベルにまで引き上げねばならない、そう征四郎は強く思い、今日も厳しい訓練を部隊員に課していく。

 自身も訓練に参加すれば、恐るべき妖術師に文句を言える者はなく、厳しいままに時は流れていった。

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