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97/112

その97

 ユキネさんの姿を見て一瞬固まるが、俺の脳はすぐに再起動してくれた。

 一先ず支部長を確認すれば、ユキネさんを見て驚愕に満ちた表情で固まっている。

 少なくとも彼はユキネさんのことは知らなかったようだ。

 一方で羽田は頭に乗せられた腕など気にもとめず、さも当然とでもいいたげに落ち着いた様子でにやけ顔でこちらを見ていた。

 どうやら羽田とユキネさんは協力関係にあるらしい。

 しかも見た限りでは相応に親しい仲の様子。


 それを見て、ふと一つの可能性に気づく。

 まさか、だってそんな事俺が気づかないはずがない。

 そう思いながらもその可能性を振り払えない。

 ユキネさんがここに現れたのだから同じくここに現れて然るべき人物が居ない。

 何か考えがあって姿を隠しているのかもしれないが、そうではなく実はここに居たとしたら?


 まるで俺がそう考えるのを待っていたかのように羽田が笑うと、次の瞬間ぐにゃりと羽田の顔が歪む。

 いや歪んだのは顔だけではなく、その肉体全てが歪み、形を変えていく。

 そして姿を変えたソレは、やはりというべきか。


「よう、まんまと騙されたな!」

「何してんだよ、お前……」


 正体を現した羽田、もといデージを目にしてため息をつく。

 こちとらいきなり色々と面倒事がバレたと思ってドキドキしてたってのに、それが全部このクソ野郎による茶番だっただと?


「つーか全然気づかなかったんだけど」

「だろ? 雄二でも気づけないんだから俺が外出歩いても関係性バレるわけないじゃん」

「え、まさかお前ソレを俺に告げるためだけにこんな事したん?」


 てか、隣で支部長が青い顔して震えてるんですけど。

 なぜか耳抑えて俺たちの会話聞こうともせず震えてるんですけど。

 このアホ、支部長に何したんだよ。


「ああ、支部長にはちょっとお願いを聞いてもらっただけだって。危害はまだ加えてない」

「ひぃ……!」

「おい」


 まだってなんだ。まだって。

 支部長すっかり怯えて震えてるし、流石に可哀想になってくるんだけど。

 一体どんな脅迫をしたのやらと呆れていると、不意に隣で黙って成り行きを見守っていた笹倉さんが立ち上がる。

 はて何事かと思ったその瞬間、彼女はかなりの量の魔力を正面に集めて凝縮し、放った。

 ポカーンとそれを見ていたデージめがけて。


「ふごっ!?」


 完全に油断していたデージはそれをまともに受けて、後ろへと吹き飛ぶ。

 それを見て部屋の外にデージが飛び出せば騒ぎになると判断して即座にそれを防ぐための結界を壁に張ればそこにデージが激しく叩きつけられた。

 人間で言えば全身が骨折してもおかしくない勢いだったがそこはそれデージは魔物であり、能力共有による強化もされているため何事もなくその場で立ち上がる。

 しかしその表情は酷く困惑している様子だ。

 尚、デージの後ろにいたユキネさんはさり気なく横へと回避していた。


「一体なに――ッ!?」


 デージの困惑した声も追撃に放たれた雷撃によって途切れてしまう。

 今度は多少ダメージがあったのか身体を軽く痙攣させる。

 そして尚も笹倉さんの攻撃は止まず、岩の塊を作り出して放つ。


「っ!」


 流石のデージも意識を切り替えたのかその全てをあっけなく拳で撃ち落とし防ぐ。

 それでも笹倉さんは岩を放ち続けやがてデージの足元が岩の破片で溢れるくらいになった。

 不意にその攻撃をやめたかと思うと笹倉さんはグッと握りこぶしを作った。

 するとデージの足元に散らばっていた破片が一斉にデージへと向かう。

 それはデージの身体にくっつき、また破片同士でもくっついていく。

 いつの間にか岩の破片は流動的な物へと変質していてそれ故かデージもそれを振り払えないでいるようだった。

 やがてデージの身体の頭以外をすっぽりと囲むとガッチリと固まって一つの大きな岩となり完全に捉えてしまった。

 そこまでされてデージは一先ず諦めたのが項垂れてしまう。

 それを見てようやく笹倉さんも一旦戦闘態勢を解く。

 もう攻撃はされないようだとホッと一息ついたデージだったが、俺はその隙をつき一つ封印術を施した。


「は、何を……てめえ!」


 それは対象の魔力を封印する魔封陣、その改良版だ。

 我らが最強の力(尿便意コントロール)が効かないデージに対して何か対策をと考えて編み出しておいたもので、魔力の動きを著しく制限する効果を付与してある。

 魔物は肉体を有しているように見えても実態は魔力が集まっているだけだから効果は抜群であった。

 そしてそれは読み通りデージも同じだったようだ。

 今のデージは俺が異世界のあれこれに巻き込まれる以前の一般人相当の力しか発揮できなくなっていた。


「ありがと。……さて」


 俺に礼を言った後、彼女は再び気配と鋭くすると周囲へと視線を向ける。

 支部長は笹倉さんの突然の行動に唖然としていて、ユキネさんはこの状況において尚静観を決め込んでいる。

 それを見て一つ頷いた笹倉さんはデージへと厳しい目を向けた。


「私たちは今日支部長さんと話し合いに来たの。で、なんであなたは支部長さんを脅迫しているの?」

「い、いやー身から出た錆だしなんとかしようと」

「それはこっちに相談してくれていいよね?」


 デージが支部長を脅迫したことに笹倉さんはお怒りらしい。

 あいつはあいつで一応の考えがあったようだが、彼女が言うように相談して欲しかったのは確かだよな。

 まあなんとなく黙っていた真意については予想がついていたりするが。


「わらわの旦那様はソナタらを驚かせたかったようだの。サプライズだなんだと楽しそうにしておった。ま、それはわらわも同じであるし、実際楽しませてもらった」


 ……やっぱりか。

 とても楽しそうな表情で言い放たれたユキネさんの言葉に心の中で呆れてしまう。

 案の定愉快犯のようで。

 あっさり暴露するユキネさんにデージは苦笑いするが否定もしなかった。


「……はあ、のれんに腕押しだよ……」


 そんな二人に笹倉さんも毒気を抜かれたのか大きく肩を落としてしまった。

 ユキネさんはともかくデージは多少申し訳なくなったのか「すんませんしたー!」と軽く土下座して……っ!?

 こ、このやろういつの間にか改良型魔封陣から抜け出してやがる!

 むう、能力共有のせいでそういうものがあると知られればその仕組みもばれてしまうか。

 また別の対策を考えておかないとな。

 などと、考えているところに横から声が掛かる。


「えーと、差し支えがなければ説明をしていただいても?」


 支部長だった。

 最初は怯え、笹倉さんの行動にはただただ困惑していたが、一連の出来事で吹っ切れたのか今は愛想笑いを浮かべられるほどに回復したようだ。

 ふーむ。どちらにせよいろいろバレてしまった後だし、ここまできたらある程度事情を話した上で黙っていてもらうか。

 そう考えて、ひとまず異世界のこととかは触れずにデージの生誕に関する事柄の説明をしていった。








 そうして粗方を説明し終えると支部長は天を仰いで固まっていた。


「魂をコピーして彼が生まれて? で、それに興味を持った別の魔人が接触して? 夫婦? 新婚旅行? なにそれ……」


 うん、改めて聞くとなんともおかしな話だね。

 特に出会ってその場でプロポーズしてOKの流れは何度聞いてもおかしなものであろう。


「で、支部長さん。実のところ僕ら面倒事は御免なんです。なのでこの情報については黙っていてほしいかなーなんて考えているわけですけども」

「私からもお願いします支部長さん」


 そう言われて支部長はちょっと考える様子を見せる。

 流石に結構な一大事だしどうかと思ったが、この様子だとうまくまとまるかもしれない。


「……ところで、君たちについてとある噂があるんだけど」

「え、噂ですか?」


 しかし支部長の口から出た言葉はなぜか全く関係のないことで俺たちは揃って首をひねる。


「いやね。魔術師の組織としてもいろいろな意味で有名だった某連盟が大きな打撃を受けたっていう事件。あれは結局内部抗争ってことになってるけど、実はそれは二人の魔術師によってなされたっていう噂もあってね」


 ああ、それか。

 一組織が一度は壊滅したあれは魔術師界隈においてもそれなりのビッグニュースだったのだろう。

 その当事者である連盟の魔術師はいろいろトラウマも重なって俺たちに逆らえなくなったからそのまま情報操作させてもらったけど、漏れるところからは漏れていたってことか。

 うむ。噂は噂のままにしておけばいい。

 というわけで笹倉さんと一度目を合わせると一つ頷き、ニッコリと笑みを浮かべて支部長へと顔を向けた。


「……はあ、わかったよ。連盟の二の舞はごめんだからね」


 俺たちの無邪気な笑みが支部長の心にも届いたようだ。

 さすが支部とはいえ一斡旋所の長。なんと寛大で優しい心をお持ちなのだろう。

 まあ、厚意に甘えるだけってのもなんだから魔人はさておき、強力な魔物程度であれば俺たちが対処してもいいよとは伝えておいた。

 そんな俺達の会話にポツリとデージが呟いた。


「……結局お前らも脅してんじゃん」


 だまらっしゃい!

 そもそもてめえが話をややこしくしたんだろうが!

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