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96/112

その96

 翌日。

 家で早めの昼食をしっかりと食べた後、外出の準備を笹倉さんと一緒に済ませ、それから空を高速で飛んである場所へと辿り着く。

 着いたその場所はここらで一番大きな街の中心部にそびえ立つビルの一つで、何を隠そうそのビルの地下に斡旋所支部が設置されている。正確には地下に存在する異界への入り口、その内部にこそ支部があった。

 当然ながら異界がある地下は魔術師以外立ち入り厳禁であるが、そも一般人には察知することは出来ないよう認識が阻害されているため、地下の存在にも気づかず一般人は同ビル内で労働などに励んでいる。

 丁度昼休み明けなのだろう、俺たちがビルに足を踏み入れればちらほらと一般人の姿を見かけることができたが、そんな彼らを横目に俺たちは淡々とした足取りで階段を降りていく。


「来たはいいけどやっぱり憂鬱だなあ」

「ここまで来て愚痴はいいっこ無しだよ、新城くん」

「了解であります」


 うっかりこぼれた愚痴を笹倉さんに咎められたので敬礼のポーズで冗談めかしつつもそれ以上の愚痴を飲み込む。

 しかしながら彼女もやはり憂鬱とした気持ちであるようで心なしか肩が重そうな雰囲気を醸し出している。

 すまぬ……!

 面倒事を引き寄せる彼氏ですまぬ……!


「ま、いざとなったら連盟よろしく灰になって貰おう! 私も手伝うし!」

「おおっと、以外にも過激な発言だ」


 しかし、不意にそんな雰囲気を払ったかと思うとすごい活き活きとした表情でとんでもないことを言いだした。

 アグレッシブな美少女っていいよね。

 でも連盟の奴らは全身やけどになってショック死しそうにはなったけども灰になってはないです。




 そんなお馬鹿な会話をしている内に目的の異界前へと到着する。

 そこは一見普通の扉なのだが、同時に異界への入り口にもなっているのだ。

 いよいよ持って覚悟を決めると魔力を薄く纏い、笹倉さんと向き合って互いにうまく纏えているか確認すると扉の向こうへと足を踏み入れた。

 薄暗くコンクリートに囲まれた地味な景色から一転し、結晶の雲が空を流れ、結晶の柱がそびえ立ち、結晶の道が先へと続く、そんな結晶まみれの景色が広がっている。


「おっと」

「早速出てきたね」


 そして、そんな結晶まみれの異界に足を踏み入れた俺たちの前に早速お客さんが現れる。

 それはシルエットはカメのようで、しかしその身体のほとんどが結晶質なもので構成されており、車ほどに在るその巨体を六本の虫のような足が支えていた。 

 また本来頭があるだろうその場所に頭はなく、代わりにサボテンにしか見えない何かが収まっていてそこに備わる無数の目がギョロリと周囲を見回している。

 無論そんな異形がまさか斡旋所支部に勤める魔術師なわけはなく、ようするにそれは魔物であった。

 しかしなぜサボテン?


「見てくれはでかいけど……やっぱ弱いね」

「毎日浄化されてる場所だしね。これで強力なのが出たら浄化の意味がなくなっちゃうよ」


 眼の前に現れた魔物を見ても俺たちはさして動じることもなく、雑談を交えつつも笹倉さんが魔物の足を風の刃で切り落とし、さらに周囲の結晶を操り拘束して動けなくしたところを俺が踏み砕くことであっさりと魔物は消え去ってしまう。

 ある程度でかかろうが、ここ斡旋所支部の在る異界において現れる魔物はどれも非常に弱い。


 そう、この異界。

 普通に魔物が現れるようになっている。

 連盟本部のあるあの異界は小異界と呼ばれる異界の奥へ続く道を切り取って空間だけを利用しているのに対し、ここは過去に現れた小異界を恒常的に浄化して安全を確保しているのに過ぎないのだ。

 俺が作った異界部屋に近いが、こうして目の前で現れることもあるため油断は禁物である。

 まあ、俺が作った異界部屋は本気で異界の真っ只中にあるので外の魔物は相応に強力な個体も現れることも多いからどっちが危険かとは一概に言えないが。


 そうして現れる魔物を倒しつつ、先へと進んでいく。

 とはいえ、常駐している魔術師もいるので俺たちが対処するのはホントに目の前に魔物が沸いた時ぐらいなので対して時間も取られることもなく目的の支部へと辿り着く。

 外観は三階建てほどの地味な役所のようなもので、結晶がちらばる周囲の景色と比べれはかなり浮いている。

 支部には何度か足を運んでいるのでこのミスマッチ加減にもある程度は慣れた。違和感は拭いきれないけど。


「ようこそ。本日のご用件は?」

「新城ですけど、なんか聞きたいことがあるって呼び出されたんですが話って通ってます?」

「ああ! 例の魔人についてですか。それでしたら三階の支部長の部屋へ直接どうぞ。今は他の魔術師も来てないのですぐ通してくれるはずです」


 中に入れば、これまたお役所的な受付がありそこで今日来た理由を告げれば話は通っていたようですぐに案内される。

 とは言え口頭説明だけでお付きの人がいるわけでもないので、受付の人に軽く頭を下げつつ三階へと登っていく。

 その途中の階段でふと、先程の案内で妙なワードがあったことに気づく。


「魔人?」

「そういえば言ってたね。聞いたこと無いけど……意思のある魔物のことかな?」


 ああ、なるほど。

 何かしら普通の魔物とは分けておかないとややこしいもんな。

 やっぱ昔から把握はされていたということなのだろう。







「で、新城さん。あなた、件の魔人と関係……ありますよね?」

「はあ?」


 支部長の部屋へたどり着きノックをして中に入れば、出迎えてくれたのはどこか緊張した様子の支部長と三十代ぐらいの冷たい眼差しの男。

 疑問に思いつつも冷房が効きすぎてるのか少し肌寒い部屋に入りソファに座って対面したところで、男から最初に告げられた言葉の衝撃は凄まじく、しかし不意に出た言葉に動揺が乗ることはなく極々自然にとぼけることができた。

 なんやかんやハプニングには慣れている。だからこそこの問いが単なるカマかけである可能性を見出すことができたのだ。

 まあもしも本当に確証を持っていっているのならばその時はその時である。

 そうしてしばし、男の視線を受け止めていると不意にこちらを見る目付きが和らいだ。


「いや、失礼。こういうのは最初にやっておかないと効果がなくてね。私は羽田善治。異界研究者です。件の魔人はこれまで確認された個体とはずいぶんと変わってるというかあまりにも人間臭いものだから一応こういうアプローチをしているのです」

「あーいえ。大丈夫です」


 よーし! 勝った!!

 いや、勝ち負けじゃないがとにかく初手でゲロる大ポカだけは回避できた。

 後は慎重に事を進めればなんとか凌げそうである。


「しかし驚きました。新城さんが一番可能性が高そうだとは思っていましたけど本当にドンピシャだったとは。やはり件の魔人はドッペルゲンガーが変異したものという仮説は正しかったようで」


 ――が、しかし、続く言葉に俺は今度こそ言葉を失う。

 一体どうして、と動揺も隠せないままふと支部長のほうを見る。


「……ん?」


 それはなんとか弁解をしなければと思ってのことだったが、しかしそうして見た支部長の様子に首をかしげる事になった。

 てっきり警戒するなり咎めるなり、そんな目でこちらを見ているとばかり思ったが支部長が見ていたのは俺ではなく隣の男――羽田のほうだったのだ。

 まるで何を言ってるんだと言わんばかりの形相で冷や汗らしきものが頬を伝っている。


 ……はて、この状況は打ち合わせ済みのことだろうにどうして支部長があんな目をしているのだろう。

 先程の言葉は羽田のアドリブによるカマかけでそれに驚いているとも考えたが、それにしてはどうもおかしい。

 そう、支部長は酷く羽田のことを恐れているようなそんな印象を受けるのだ。

 同時にさらに部屋が寒くなってきたように感じる……いやこれ事実寒いぞ!?


 すわ、既に攻撃されてるのかと臨戦態勢に入るその瞬間。

 羽田の後ろに魔力が集まり、そして顕現した。


「ふっふっふ、小僧よ。ソナタの慌てふためく姿、存分に楽しませて貰ったぞ?」


 現れたのは雪結晶柄の着物を着た銀髪の少女。

 まるでそれが当然であるかのように羽田の頭に腕を乗せさらに顎を乗せて、楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見るそいつはもちろん見覚えのある相手だ。


 それは古より美しさの因子とやらを集めて存在する意思を持った魔物。

 ひょんなことからデージと夫婦になった変わり者で、デージの女神に定められた者。

 そして今回、俺がこうしてここに呼び出されることになった騒動を起こした片割れ。

 ユキネさんその人だった。

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