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91/112

その91

 あれから一頻り泣き叫び続けていたデージだったが、その後どうにか話ができる程度に落ち着いたようなので色々と確認することにした。


「エージもビージもあっけなく自身が分体だと納得してたけど、それはデージもそうなのか?」

「ああ……それは間違いねえよ。感覚的にもそうだし、ステータス見てみたけど種族が異界の魔物(ドッペルゲンガー)ってあるし、名前なんて最初は無名(元・新城雄二)とかなってたしな。今はデージで定着したみたいだが」


 ああ、そういえばそんな能力もあったなあ。

 俺が使っても名前と年齢、あとは種族が人間だってことしか分からないゴミ能力だったからすっかり忘れてたわ。

 むしろデージはよく咄嗟にその能力思い出したものだ。

 それにしてもどういう仕組みでこんな情報を確認できるのだろう。

 使う者によって表記される情報の量が異なるということがなければそういうものと納得できるけど。

 ま、この辺りはずっと前にも考えて、最終的に考えるだけ無駄って結論に落ち着いたわけだが。


「つか、案の定デージにも能力共有されてるのか」

「そういえばそうだな。となると……」

『あーあー、テステス……繋がってる……か?』

『んあ? 雄二……? いや、違うか?』

『あれ……? これ……おい、まさかまた増えたのか?』


 デージが念話を試し、問題なく繋がってることが確認され、エージとビージの困惑したような呆れたような声が脳裏に響く。

 予想はしていたけどもデージとも特殊な繋がりは存在するようだ。

 

『あーよろしく。新しく増えたドッペルゲンガーのデージだ』

『ふーん、まあ既に三人に分裂してるしな』

『しかし、デージは雄二と同じ世界にいるのか。あれ、ささく』

『シャラーーーーーーップ!!!!』


 余計な事を言うんじゃないよ!

 多少落ち着いただけでそのことはまだまだデージの中で渦巻いてんだからな!

 いや、まあ俺が言えたことでも無いんだけどさ。


『『ああ、把握』』


 幸い相手はエージとビージ。

 俺が口を挟んだことである程度察してくれたらしくその後は迂闊なことを言わぬように口を閉ざした。

 念話だからそもそも開いちゃいないけど。

 デージも一瞬だけ顔をしかめたが頭を軽く振り何度か深呼吸して落ち着いたようだ。


「さて、念話もできるし能力も共有されてるわけだけども……デージってなんか能力得たのけ?」

「俺のステータスにも能力とかは表示されてないけどさ、こうなんとなくだけど特有の能力があるってわかるんだよな。多分、ドッペルゲンガーとしての本能みたいな感じなんだとは思うけど。ってことで能力はある」

「そうか……そうなるとまた一段と俺たちは強化されるわけだな」

「いや、それはどうだろうなあ」


 デージもまた新たな能力を得て爆誕したようだから、能力共有によってまた強化が進んでしまうのだろうと思ったのだが、デージはそれについては否定的な様子。


「例えば……こんな感じで姿を変えられるんだけどさ」


 そういったデージの姿が瞬時に久保田くんの姿になる。

 しかし何故久保田くんをチョイス?


「多分、雄二には無理だな。久保田くんを殺して魂を奪えば別だけど」

「いや、なにそれ怖い」


 やたらバイオレンスな話をしつつ元の俺の姿に戻るデージ……ってややこしいなおい。

 ともあれ、デージがそうして変身できるならこれまでの経験を鑑みるに普通に俺にもできそうなもんだが。

 そう思い愛しの笹倉さん……の姿はデージの傷を抉ることになるから順当にニュート辺りを思い浮かべ変身しようとする。

 すると魔力の消費と共に何かしら能力が発動した感覚があった。

 ほらみたことか、と思ったところで実際には何一つ変わっていない自分に気づく。


「……?」

「だから言ったろ? 無理だって。俺が自由に変身できるのは種族が異界の魔物ってのとドッペルゲンガーの要素を取り込んでるからなんだよ」

「ああ、能力は使えるといえば使えるけど実際に発動するには前提条件が足りてないのか」


 確か異界の魔物は魔力が集まり実体化したものだ。

 それ故に実体化した姿に固定されているわけでもなく、容易に形を変えることができるのだろう。

 その点俺は普通の……少なくとも肉体は普通の人間だから能力を使っても変身できないわけか。

 魂どうこうは確認できないし今後するつもりもないから置いておく。


「しかし、生後間もないのによく分かるなそんなこと」

「まあな。ドッペルゲンガーとしての本能ってのもあるんだけど、二つ目の能力である異界情報へのアクセス権による部分も少しはあるな」


 ニュートにも備わっているあれか。

 確か元々異界の魔物には程度の差こそあれ備わってる能力だったはず。

 基本的にはそれの扱い方が下手すぎるから異形ばかりなわけだが。


「異界に漂う情報を読み取れるって便利そうだよな」

「まあ個体によって向き不向きとかあるけどな。ニュートだって異世界に関する情報は簡単に集めてくれるけどこの前の淫魔とか……がああああああああああ! 知らんわ! 淫魔とか何? はっ、そんな記憶無いし! 無いし!!!!!」

「どうどう……」


 落ち着け。

 気持ちは分からんでもないけど自爆して発狂するのやめてくれ。

 しかも瞬間的に発狂されたから糞びびったわ。


「ふう……ああ、えーっとすまんな。ちょっと取り乱した」

「いや、構わんけど」


 ちょっと、ねえ?

 とは思ったけど俺は賢いのでそれには触れずに流した。


「で、アクセス権な。まあこれはあくまで異界に漂う情報に対するものだからエージ達には無用の産物だし、雄二はまた別の理由で使わないほうがいい」

「使わないほうがいいってことはなんだ、一応これについては俺は使えるのか」

「多分な。だけど絶対に使わないほうがいいって俺の第六感が訴えてくるからさ、やめとけ……って言ってもやるんだろ?」

「あ、わかる?」


 デージが相当俺の身を案じて言ってくれていることはわかる。

 わかるのだが、やはり一度は確認してみたいという気持ちを抑えることは難しいのだ。

 元々同じ存在みたいなものであるデージもそれは分かっているのだろう。

 注意しろ、覚悟しろと言いつつも俺が試すのを無理やり止めようとはしなかった。

 そんなデージの言葉に俺も少し慎重になりつつ覚悟を決めて異界に漂う情報を読み取ろうと意識した。


「っ――――――――!? いッ……てえ!?」


 瞬間、頭のなかに光が溢れ音が響き匂いや様々な物の感触を感じ全てを混ぜ込んだカオスな味を味わい、頭が割れるかのような激痛に苛まれた。

 もう、情報を読み取ろうとしたその瞬間にやばいって感じてすぐ読み取るのを中止したのにこれだ。

 簡単に言えば情報量が凄まじくてパンクしそうになった、というだけなのだろうけど情報に繋がったか繋がってないかぐらいの僅かな時間でこれなのだからさらなる時間あの情報量に触れていたらどうなっていたかと背筋が凍る。

 おまけにこれだけの苦痛の末、情報の密度が高すぎて得られたものは何一つ無い。


「あーくそ、まだいてえ……何、情報の対価に命をとかそういうの?」

「単純に処理がおっつかないだけ」

「ほんと単純だな」


 しかし、実際に体験した身としてはそれが正しいのだろうと納得せざるを得ない。

 あんな情報量を処理するなど人の身には過ぎた行為にも程がある。


「デージは平気なんだよな?」

「脳みそとかねえからな」


 ああ、ここでもそもそもの部分が関わってくるのね。

 なるほど、能力は使えても効果が現れなかったり、耐性がないのならいくら能力を共有したところで何も変わりはなく、強化には繋がらないわけだ。

 まあ、別に強化されても困るのだが。


「しかし、これからどうするよ。なんならゲート繋げるけど」

「それなあ。俺も考えたけど、エージの世界にいったら悪魔絶対殺す教団にエージと間違われて狙われそうだし、ビージの方は腹黒お姫様にこき使われそうな予感がする。姿を変えればいいかもだけど俺にとってこの姿が普通だからできれば避けたいし」


 能力の確認も終えたところで問いかけた俺の言葉にデージはそう返してきた。

 たしかにどっちの世界も色々と面倒事を抱えることになりそうだ。

 というかそもそもデージにしてみればいきなりの話すぎて、これからどうするかなんて判断できるはずもない。

 それはある意味では自由になったとも言えるけど、いきなり自由になっても何をしていいか迷ってしまうのが人間だろう。


「まー世界中旅でもしてみるかなあ」


 ふと、デージがそう呟く。

 とりあえずといった口調のそれは独り言で返事など期待してもいないものだとすぐわかった。

 しかしそれに返事をするものが居た。


「であれば、わらわがその伴をしてやるとするかのう?」


 それは小さくとも不思議と耳に届くとても、とても澄んだ女性の声だった。

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