その9
笹倉さんに対して正直でいるために俺は口を開く。
まず聞くべきは先程の魔法がまだ効果を発揮しているかどうかだな。
「ねえ、まだ嘘探知の魔法は継続してますか?」
「あ、ごめんね。一度かけたら30分くらい効果が続いちゃうから……」
「いや、謝る必要はないよ。聞いたのはこれからいうことが嘘じゃないって分かってもらえたほうがスムーズに進むからその確認ってだけだから」
「ん?」
聞けば現在も俺の嘘は笹倉さんに筒抜けとのこと。
ならきっちり伝えることができそうだな。
「えっと、さっきの騒ぎなんだけどアレを引き起こしたのは俺で間違いないんだけど、魔法は一切使ってないんだよね」
「えっ!? でもあんなの……え、嘘じゃない? ホントの事? でも魔法もなしにあんなのって……」
「うん……信じられないだろうけどアレ、俺の素の肉体能力だけで引き起こしました」
「ええ……あ、でも思い返せばあの瞬間特に魔力を感じなかった……えぇー……」
さっきの騒ぎが魔法ではないことを伝えれば流石に信じられないのか動揺する笹倉さん。
まあ、あれは爆破テロでなければ魔法と言われたほうが納得できる現象だしな。
それを肉体能力でやりましたと言われても困惑するのは当然だった。
普通なら到底信じられることではないのだが、幸か不幸か笹倉さんは俺に嘘かどうか分かる魔法をかけているから信じるしかなく、それゆえに動揺せざるを得ない。
まあそれでも信じない方法、というか考え方はある。
「実は俺、女です」
「えっ!? あ、嘘だって反応が……ああ、魔法の不具合でもない……」
なので、先にそれを潰すようにわかりやすい嘘をついた。
案の定魔法からそれが嘘であることを即座に気づき、更には先程の発言もやはり間違いないことを聡明な笹倉さんは理解して頭を抱える。
うんうん、いいんじゃないか?
いい感じに赤の他人から知り合いレベルを向上できて今や秘密を共有する仲にまでなっている。
しかも目の前で普段見せない笹倉さんの表情とかを見せてくれているというのはそれだけ俺に心を開いている状況と言える。
それに今なら俺の正直な気持ちを嘘偽りなく伝えることができる。
間違いない。
今こそ告げる時!
「実は俺、笹倉さんのことが大好きです!」
「……え? は? ええ!? 今!? 今それを言うの!? なんで!?」
突然の告白に狼狽える笹倉さん。
ほんのりと頬を赤く染めて高速で手をバタバタとするその姿、いとうつくしきかな。
そんな慌てふためく笹倉さんの姿に、いくら相手がその言葉の真偽を理解できるからとはいえそれにかまけて気持ちを真っ直ぐ伝える努力をしていない自分を恥じた。
そうだ。
思いを伝えるのだからまずは自分の力で精一杯の誠意を見せなければならないっ!
それに気づいた瞬間俺は地面に膝を埋め、三つ指を地面に深々と刺し、頭突きで地面を砕く。
「笹倉さんのことが大好きです! 愛しています! 付き合ってください!」
「それ土下座!? 荒々しすぎるよ!? というか、ちょっと、突然そんなこと言われても困るよ!? 私は新城くんのことクラスメートってことぐらいしか知らないし!!」
なるほど一理ある。
確かにこれまでの関係はあくまでただのクラスメートでしか無かった。
俺は笹倉さんのことをそれなりに詳しく知っているが、笹倉さんはそうではない。
物事には順序ってものがあることを俺はすっかり忘れていた。
「じゃあ、友だちになって俺を知ってください」
「切り替え早いね!?」
「俺を知ってどうしても嫌だったらきっぱりと断ってください。その時は笹倉さんに迷惑をかけないようにスッパリ諦めて三途の川を渡りますから」
「へ!? うっそ、この人本気で言ってる!? 断ったら本気で死ぬ気だよこの人!!」
俺の覚悟の程を知ってもらうべく必死に訴えていると笹倉さんはこれ以上なく動揺していった。
実際はそんなことしたらそれこそ迷惑なので死にはしないがそれだけの覚悟はある。
覚悟十分に言えば嘘探知の魔法も反応しないようだ。
「友だちになりましょう。大丈夫です。俺、魔法とか魔術師とか派閥だとかについては一切口を開きませんから」
「何で今魔術師のこと言ったの!? さっき秘密だって言ったよね!?」
「そうだよ?」
笹倉さんは何を言っているのだろう?
俺はただ、笹倉さんと付き合いたくてその為にまずは友だちになりたいだけだ。
これは俺の勝手な思いだからこれと魔術師に関する秘密事項は別物で何があってもこれを漏らすなんてありえないのに。
このタイミングで言ったのはもしかしたら秘密をバラされるのではと疑っているのではないかと思って安心してもらうようにってだけで他意はない。
全く無い。
「あーーーーーもう! 分かったよ、とりあえず友だちになってあげるから! って何泣いてるの!?」
「いや、感激でつい」
とりあえず友だちにまで関係を縮められたことに俺は大いに感激し、涙が溢れ出ていた。
これまでは笹倉さんにとって俺はクラスメートのモブDでしか無かったのだからかなりの大躍進だ。感動するなというのが無理な話である。
思いを告げちゃった以上はもう引き下がれないし背水の覚悟だったからな。
尿便意コントロールを使うことなく友だちになることが出来てホッと一安心だ。
いや、もちろん端から使う予定は無かったけども。
「んじゃ、笹倉さんと友だちになれたしちょっと幸福で破裂しそうだから俺は帰るね」
「あ、うん……じゃないよ!? 今、体力テスト中だから! まだ一つも記録つけれてないから!」
あ、そっか。
体力テストの真っ只中だった。
こうして笹倉さんと話していられたのは各ペアでテストを受ける順番を決められる方式だからだが、そろそろちゃんと消化していかないといけない。
「えーとりあえず俺の50m走の記録はざっと1秒ぐらいかな?」
「いや、あんなとんでも記録をそのまま記録したら真面目にやれって怒られるからね?」
一応走ったみたいなもんだし、さっきの記録でもいいのではとも思ったがやっぱりダメらしい。
じゃあ程々に力を抜いて体力テストを受けていくことにしよう。
笹倉さんの前で手抜きでテストに挑むのは少々カッコ悪いが、既に友だちにまで関係性を縮められているし、彼女には俺の本気(肉体能力のみ)は既に見せているから何の問題もないし。
その後、俺は適度に力を加減してあらゆるテスト項目でギリギリ日本記録に届かない程度の記録を打ち立てて体力テストを終えた。
正直やり過ぎた感があったので結局、記録は全部平均より上程度に嘘の記録に改竄して提出することになったけど、これ真面目に全テスト科目受ける必要あったのだろうか。
大いに疑問である。
尚、記録の改竄は笹倉さんが魔法でやってくれた。
記録用紙に書かれた字がうねうねと形を変えていくのは面白く、それを見ながらなるほど魔法にはそういう使い方もあるのかと感心したが、そんな俺の内心を見抜いてか笹倉さんに冷たい目で睨まれながら釘を刺されてしまった。
彼女が俺のことを見てくれていることに喜びを感じてドキドキしながらも、神託に従い悪用しないことを神に誓いを立てて、体力テストは無事終了したのであった。