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75/112

その75

 しばし海中鑑賞を楽しんでいると不意に笹倉さんがあるものを見つけて指で指し示す。


「ん、あれ……あの黒いのなんだろう」

「ああ、あれねー。あそこだけ透過の魔法が効いてないだよね」


 示されたところを見れば確かにそこだけぽっかりと黒くなっている場所がある。

 黒くなっていると言っても不自然に色がついてるとかではなく、この深さの水深であればむしろそれが普通ってぐらいのものであるのだが。

 だが今は魔法によって周囲の景色をかなり遠くまで鮮明に見れるようにしているのでそういう部分があることのほうがおかしいわけで。

 つまりはその黒い部分には魔法の効果が及んでいないということになる。

 実のところその黒い部分については俺も海底に来た時点で察知しており、正体についても彼女が寝ている間に大体の目星はつけていたりする。

 彼女も俺の言った言葉にすぐにある可能性に気づいたらしく険しい表情になっていた。


「もしかしてあそこに異界の入り口が?」

「多分そういうことなんだろうな……」


 ため息を吐きつつ、この偶然を呪う。

 なんで俺はピンポイントでこんなものを見つけてしまったのだろう。

 まあ、見つけてしまったものは仕方ないとしてどうしようか。


「魔術師ってさ、異界の入り口の場所って探査とかできるのかね?」

「うーん……異界からは遠ざけられてきたからなあ。ちょっと分かんないや」


 もし、魔術師が異界の入り口を何らかの方法で見つけられるなら別にここは放っていてもいいだろう。

 そのうち魔術師がきてせっせと浄化に励み魔物が外に出てくるのを防いでくれるはずだから。

 しかしその辺りのことを笹倉さんは知らないみたいなので実際どうなのかは不明だ。

 探査する手段もなく、あの異界の入り口が未発見のものでもある場合は魔物が溢れ出してくるかもしれない。それなら……。


「……ん?」

「噂をすれば、かな?」


 そんなことを考えていたらふと直上で魔法が使われ、周囲一帯に魔力が広がり戻っていくのを感じとった。

 流れからみて今のはソナーのような仕組みの探査魔法だろう。

 どうやら目前にある異界の入り口は未発見のものではなかったようだ。

 とりあえず一安心ではあるがこの状況はこの状況で面倒なことになりそうだとため息を吐いてしまう。


「おっ、来たか」


 少しして先程魔法を使ったであろう人物が見える位置まで降りてきてその姿を確認する。

 どうやらやってきたのは女性だったらしく、チューブトップタイプの水着とデニムっぽいショートパンツを着ていた。

 日常的に海に出ているのか肌は小麦色で髪も黒毛混じりの茶髪となっているその女性はまあ、世間一般では美人とされる整った顔つきをしている。

 今はその整った顔も目を見開いて驚いた表情をしているので少々台無しであるが。


「……あなた達、ここで何をしているのよ」

「えーと……海中ウォッチング?」

「としか言えないよね」

「わざわざ異界のすぐ傍で? 真面目に答えてくれないかしら」


 少しして驚きから立ち直ったその女性が魔法で声を伝えてきたけれど思ったよりもずっと女性らしい口調だ。

 いや思ったよりってのは失礼か。


 ともあれ俺たちの回答はお気に召さなかったようで厳しい視線が向けられる。

 まあわざわざ異界の傍でするものでもないし当然の反応だろう。

 うーむ、説明に困るなあ。


「真面目も大真面目なんだが……なんなら嘘探知の魔法を使ってくれても構いませんよ?」


 肩を竦めつつ言葉を零し、ふと思い付いたことをそのまま提案してみる。

 笹倉さんと初めて会話したときも使っていたし、魔術師なら当たり前に使えるものだろうと期待して。


「……そうまで言うなら使わせてもらいましょうか」


 そして期待は外れることなく、俺の提案を受け入れた彼女が魔法を発動し、微量の魔力が体の中に染み込んでいく。

 どうやら無事嘘探知の魔法を掛けられたらしい。

 それを確認したところで俺は一つ咳払いをすると、口を開く。


「俺、実は女なんですよ」

「あ、それ懐かしいね」

「……なるほど、しっかり掛かってるみたいね」


 俺が口にした明らかな嘘に呑気に懐かしがる笹倉さん。

 それをみて茶髪の女性は呆れた様子を見せながらも魔法がしっかりと発動したこと確認したらしい。

 となればいよいよここからが質疑応答の本番だ


「それじゃ、あなた達はどうしてこんなところに?」

「海中ウォッチング」

「……なんで異界の傍でそれをしようと思ったのよ」

「いや、偶然ピンポイントで来ちゃっただけです」

「そもそもどうしてこんな海底に来ようと思ったのかしら」

「デートの一貫ですかねえ」

「なら……」

「それは……」


 それから矢継ぎ早にされる質問に答えていった。

 やましいことなど一つもないので全ての質問にすんなりと答えていくと、そのたびに女性の顔に疲労が浮かび、最後には大きくため息を吐くともういいと手を振って肩を落とした。


「はあ……変に警戒して損したわね……」

「はは、なんと言っていいやら」

「えっと、お疲れ……さま?」


 まるで重しでも乗っているかのごとく大きく肩を落とし、ゲンナリとしながらため息を吐くその姿から察するにとてもお疲れのようである。

 俺たちは普通に質問に答えたり時折惚気けたりしていただけだから多分、海中にずっといたことによるものだろう。

 きっとそうに違いない。

 いやはや異界浄化のお仕事も楽ではないようだ。


「ふう。とりあえずあなた達はここの異界に干渉するつもりも、何か悪巧みをしてるってわけでもないようね」

「もちろんです。場合によっては俺たちでってくらいには考えてはいましたけどこうして対応する人が来たなら後は任せますよ」

「未発見だと危ないよねって、さっき二人で話してたんです」

「なるほど……それで異界の傍に居続けたのね。異界のことをよく知らないわりに責任感は強いのね」


 いや、責任感というより諦めというか。

 比重としては誰か対応する人さっさと来てほしいって考えのほうが大きかったけどそれは言わないでおく。

 誰が好き好んで海水浴デートの最中に異界と関わりたいとか思うのか。

 それはさておき。


「異界のことをよく知らないってどうして?」

「異界から魔物を溢れさせないために私達魔術師がいるのよ? 当然異界が何処にあるか。どこに発生したかなんてのを調べる術はもっているわ。それを知らないならあなた達は異界については素人ってことになるわよね」


 ああ、やっぱり異界を探知する術はあるんだな。

 となれば今後も偶然見つけた異界はスルーしていいだろう。


「まあ見たところ高校生ぐらいだし、それなら知らなくてもあまり気にしなくていいわよ」

「生涯に渡って関わる気ないんですけど……」

「それはあなた達の自由ね。私だって正義感からとかじゃなくて小遣い稼ぎに請け負ってるだけですもの」


 そんな魔術師としてはかなりマイナスだろう俺の発言も気にすること無く、その女性はあっけらかんと問題ないと答えた。

 異界浄化も別に絶対というわけでもないらしい。

 それにしても……。


「小遣い稼ぎ、ですか?」


 なんとも気になる情報を聞いてしまったぞ。

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