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73/112

その73

 夏休み入って五日後の水曜日。

 その早朝に俺と笹倉さんは約束通り海へと来ていた。

 早朝といえども今は夏真っ盛り。すでに日は完全に顔を出し、海で泳ぐ人もまばらに存在している。

 日は出ているとは言えこの時間は水もやや冷たいと思うのだが平気なのか?

 などと思うも、俺は海についてはド素人。もうすでに十分温かいかもしれないし、もしくはそれも気にならないほど海は魅力的なのかもしれない。

 ふと空を見上げれば雲ひとつ無く、太陽から離れるほどに濃い青へと変わっていくその様は今日一日の天気が快晴であることを示していた。

 これだけ天気が良ければ……まあ水もそれなりの温度にはなっていそうだな。


「んー海風が気持ちいいね」

「後々この風のせいでベタつくらしいけどな」

「もう。そういうこと言っちゃダメなんだよ!」

「それは失礼しました」


 横から聞こえてきた声にわざとデメリットを言ってみれば、これまたわざとらしく怒られてしまったので芝居がかったように頭を下げれば二人して笑ってしまう。

 うむ。

 どうやら俺も海に来てテンションが上がっているみたいだ。

 なにせようやく笹倉さんの水着姿を拝めるのだから否応なしに期待が高まるというもの。


 ちなみに夏休みに入ってすぐ海に行かなかったのは最初の数日は笹倉さんと一緒に悪しき風習である大量の宿題を片付けていたからだ。

 問題自体は簡単であっても如何せん量が多いのと、結構合間合間に休憩を挟んでいたこともあり、全ての宿題を終えるまでたっぷり四日ほどかかってしまったのである。

 何故夏休みの宿題というのはこうも多いのか。

 一日ごとに分散すれば大した量ではないとはいえ、提示される全体量のインパクトが如何せん強すぎると思う。

 そのインパクトのせいでやる気を無くす人は少なからずいるはずだ。

 まあ今回はスキルのお陰で学力は向上し、スラスラと問題を解ける感覚が楽しいのと傍に笹倉さんがいたことでそう苦でもなかったけども。


 宿題を片付けていった日々を思い返し、その分遊び尽くすと一つ決意を固めていざ砂浜へ。

 サンダル越しに踏む砂の感触は不安定だがそれがまた海へ来たことを実感させてくれる。

 その隣を一歩一歩跳ねるようにして笹倉さんがついてくる。


「さて、こうして海に来たらまずなにすればいいかね」

「んー、パラソルとレジャーシート敷いて荷物置き場兼休憩する場所の確保とかかなあ? 荷物はまあ新城くんのお陰で必要ないけどね」


 そういって苦笑する笹倉さんに俺も苦笑を返す。

 無限倉庫はこういう時に便利で俺も笹倉さんも手ぶらだった。

 食べ物とかが砂で悲惨なことになることもないし、お金を盗まれる心配をする必要もない。


 それでも休憩する場所は必要だろうということで海の家でパラソルを一つ借りて適当な場所に差し、その下にレジャーシートを置いておく。

 それらの設置も大した手間でもなく人手が必要というわけでもなかったのでその間に笹倉さんにはパーカー等を渡し、この海水浴場に用意されていた更衣室に着替えに行ってもらった。

 俺は見た目普通のハーフズボンにも見えるタイプの水着なので上だけ脱いで終了だ。

 笹倉さんも水着は家で着用してその上から服を着ていただけなので脱ぐだけでも別に問題は無いといえば無いのだが、やはり例え水着であっても服を脱ぐ姿はいらぬ妄想を抱かせる。

 そんな姿を周りの男に見せるなんてとんでもない!


「おまたせ、新城くん!」

「おっと、結構早かったね」


 かけられた声に振り向けば右手に先程まで着ていた服を持ち、肝心の身体の方はパーカーを羽織って隠している笹倉さんが軽く手を上げている姿があった。

 てっきり振り返った瞬間死なないように覚悟を要する素晴らしき水着姿が目に入るかと構えていたから少し拍子抜けだったが、このパーカー姿も結構攻撃力があった。

 なにせパーカーが少し大きめなお陰で太もも半ばまでしっかり隠れているのだ。

 そうして隠された部分からチラリと見える太ももに、スラリと伸びた綺麗な足。

 視線は上から下へ、そしてまた上へと戻り再びパーカーが隠すその場所へと辿り着きその向こう側がどうなっているのかと妄想が止まらない。

 見ようによっては穿いていないようにすら見えるそれは十分に魅惑的だった。

 結局彼女が購入した水着がどんなものなのかは未だ不明であることも妄想が止まらない理由の一つだろう。

 そうしてジッと見ていたからか笹倉さんがパーカーの裾を掴みグッと下に引っ張って伸ばして太ももを完全に隠してしまう。

 その動作にハッとして顔を上げれば、少し恥ずかしそうに頬を染めた笹倉さんと目が合った。


「……見すぎ」

「いやあ……ははは……」


 何も言えずに笑って誤魔化しつつも、ふと思う。

 そうしてパーカーを下に伸ばす動作によって穿いてない感が増すなあ、と。

 そんな邪な感情を敏感に察知したのだろう、彼女は一層険しい目を向けたかと思うと一度ため息を吐いて裾から手を離す。

 伸ばされていたパーカーは不意に離されたことの反動で跳ね上がり隠れていた部分が露わになる。


「……黒!」


 俺のつぶやきに呆れた様子を目線に込める笹倉さんだったが、特に何も言わずに胸元まで手を持っていく。

 そしてそこにあったファスナーの金具をつまむとゆっくりと下ろし、少しずつパーカーが開かれていった。

 それから彼女は両手でそれぞれパーカーの裾を掴むと左右に広げ内に隠されたものを曝け出す。

 俺は息をするのも忘れて見入っていた。


 まず目に入るのは彼女の美しい素肌だ。

 彼女の程々に細く締まった綺麗なお腹を隠すものは何もなく余すこと無く露出している。

 それから一瞬の迷いの果てに視線を上へと動かし、彼女の胸元へと向ける。

 彼女の胸を隠すのは極々普通のビキニタイプのもの。

 際どいデザインでもなくそれなりに布面積も確保したそれは、しかし彼女が身につけることで強烈な色気を放っている。

 左右で柄も異なり、左は無地の白で右は黒と白の横縞模様になっていてそれぞれで受ける印象が変わる。

 無地の白は色のイメージと彼女の肉体美が合わさり一層柔らかそうに。

 黒白の横縞模様は彼女の胸の形にそって線がゆるくカーブを描くことでより強調していた。

 そしてそれらを同時に見ることで大層柔らかそうに見える胸が強調され、おまけに胸元に出来た谷間が一層理性を壊さんと殴りかかってくるようだ。


 その衝撃にグッと耐えて一度視線を下ろせばこれまた極普通のビキニタイプの水着が目に入る。

 先程チラリと見えたが、こちらは黒色一色だった。

 フリルも何も無いそれはその色のおかげか彼女の綺麗な肌と水着の部分とをクッキリと分けていて、思わず水着と太ももの境界線辺りへと目線が固定されてしまいそうになる。


 そうしてじっくりと水着姿を眺めた後、惜しみながらも視線を上げて彼女の顔を見れば真っ赤になっていた。

 それでも彼女は俺の不躾な視線を咎めるでもなく、


「そ、それで感想は……?」


 と、聞いてきた。

 その問いに俺は思ったままのことを高らかに宣言する。


「――――さいっ……高に、かわいいです!!!」

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