表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/112

その71

 その後一旦それぞれ別行動となり、食事の片付けや歯磨きなどの雑事を各自済ませた後、俺たちは再びリビングへと戻ってきていた。

 位置も食事の時とは違い同じソファに並んで腰掛けて肩を互いに預け合う形だ。

 その状態で何をしているかと言えば、海へ行くという約束の具体的な計画について話をしていた。


「まずは……日帰りか泊まりか、かな?」

「んーまあ、私達高校生なわけだし日帰りでいいんじゃないかな? 移動は別に空飛んでいけば時間もかからないわけだし」

「ああ、確かに俺と笹倉さんなら別に日帰りでも十分な遊び時間は確保できるか」


 やっぱこういう時に魔法が使えると便利だよなあ。

 それに異世界と道を繋ぐゲートの魔法もある。

 あれの繋ぐ先を変えれば離れたところにも一瞬で行くことだって可能だろう。

 なにせ異世界まであと半分といったところまで道は届くのだから、同じ世界であればもっと簡単に、そして一人でも繋がるはずだ。

 それを言えば、笹倉さんはズルいよねと苦笑していた。


「まあ、でも。それを考えたらさ、別に近場の海でなくてもいいわけだよな」

「そうかもだけど、例えば?」

「国内なら沖縄とか? 海外ならグアムとかハワイとか」


 詳しくないからホントに有名所しか出てこないけど、考えてみたらそれらに行くことも可能だ。

 折角の海ならそういうところに行ってもいいのでは?


「わあ、一気に遠くに……でも沖縄はともかく海外って言葉とかさ」


 その提案に笹倉さんも軽く驚きつつも忌避感を見せる。

 しかし、俺がまさか何も考えなしに海外案を出すと思うてか。

 無論、海外へ行こうとも現地でのやり取りについては万全だぞ、と俺はドヤ顔晒して自身を親指で示す。


「んー? ああ、そっか。新城くんて外国語でもなんでも分かるんだっけ?」

「イエース! どんなトラブルでも完璧に対応してみせましょう!」

「でも、私自身は言葉わかんないからなあ。そういうのって結構ストレスになっちゃうと思うしパスかな」

「なるほど、確かに……海外の男たちが目をハートにして群がる姿が容易に想像できる。うん、無しだね」


 言語理解という影の薄いスキルは今尚健在で、海外であってもコミュニケーションには全くの問題が無い。

 このスキルのお陰でかなり行動の幅が広がるからビージがこのスキルを得てくれて本当に良かったと思う。

 ただ、いきなり海外は俺という通訳がいても物怖じしてしまうということで見送りということになった。


「あと、沖縄もいいとは思うんだけど初めて一緒に海に行くならさ、むしろ近場でもっと普通な感じの方がいいと思うんだ」

「そう? どうせなら綺麗なところが良くないかな」

「んーほら、遠くの有名所だとなんというか非日常的な感覚が強くなっちゃうかなって。だからまずは普通の海で遊んで、次はもっといい場所に行けばまた新鮮な気持ちで経験を重ねられるでしょ?」


 笹倉さんの言葉になるほどと頷く。

 海でもなんでもそうだが別に一回行ってそれで終わりってわけじゃないんだ。

 気に入ったなら何度でも行けばいいし、前回と別の場所に行けばまた感じられる楽しさも変わってくるだろう。

 それから細かい部分を詰めていき、着実に計画が立てられていく


「じゃあ近場の海水浴場で日帰りってことでいいかな?」

「いいともー!」


 そして最後に俺がそうまとめると笹倉さんはノリよく答えてくれた。








 ひとまず海への計画も立てたところで一旦話題も途切れしばらく静かな時間が流れる。

 なんだかんだで同棲も長くなってきて、最近だと話題が尽きてしまうことも増えてきた。

 けれどそれは不思議と気まずい沈黙ではない。

 最初は話題が途切れた時に訪れる沈黙が恐ろしくも感じたものだが、今では自然とそれぞれぼーっとテレビを見たり、ちょっとした遊びなんかで思い思いに時間を潰すようになった。

 そうしてそれぞれ別なことをしてても肩を寄せ合ったり背もたれにされたりで、静かな空間でも確かに傍にいるその感覚をゆっくりと楽しんでいられる。

 そうして安らかな時間をぼーっとしていると笹倉さんがふいに呟く。


「……バイトしようかなあ」

「え、バイト?」


 呟かれた言葉に即座に反応しつつ彼女の方へ顔を向ける。


「うん、実はこの前の水着で持ってたお金はほとんど使い切っちゃったんだよね。でもあの人達に小遣いを求めるのは……嫌だから」

「あー、それはそうだろうなあ」


 彼女からしたら殆ど縁切りした気持ちだろうし。

 向こうも今日まで特に何も言ってこないしな。

 だからこうして当たり前のように同棲生活を送り続けていられるわけだが。

 まあ、何も言ってこないのは俺の存在がトラウマになってるせいかもしれないけども。


「まあお金が必要なら別に俺が出してもいいんだけどね」

「いやあ、それは申し訳ないよ……。そういえば、新城くんってバイトとかしてないけどお小遣いとかどんな感じなの?」


 どうやらお金を俺に出してもらうのは遠慮したいらしい。

 それからお金繋がりで俺の懐事情について聞かれた。


 そう言えばそのあたりについては話したことなかったっけか。

 実のところ、現状の俺は高校生にしては多分かなり多めに小遣いを貰っていたりする。

 正確にはここ3ヶ月で一気に小遣いが増えた。

 というのもそのあたりのうちの仕組みが月々一定額を仕送りとして頂きそこから食費や光熱費などの生活費を自分で支払い、それで使わず残った分を全て自由に使っていいというルールだからだ。

 以前は普通に贅沢もせず過ごした場合でも精々月3000円程度しか残らなかったが、それは俺が魔法とかを覚える前の話。

 魔法を覚えてから俺の生活環境は一変し、その殆どを魔法で代替するようになった。

 さらにエージとビージから食料の提供も加わって家計の支出は極端に少なくなり、結果自由に使えるお金は以前と比べれば段違いなものとなっていた。

 そんなわけで懐にはかなり余裕があったりするのだ。


 それを笹倉さんに伝えれば彼女はかなり驚いた様子を見せる。


「新城くんのお父さんすごいね……。よくそんな思い切りのいい方法を取ったものだよ」

「まあな。俺も感謝してるけど……ただなあ。うちのこれは何ていうか父さんと母さんがイチャつくのに邪魔だからって理由が大きいんだよね」

「イチャつくって……ご両親いくつ?」

「どっちも四十二歳。結婚して二十年以上にもなるのに仲がいいことこの上ないんだよね」


 なにせ一人暮らし自体を勧めてきたのは他ならぬ父なのだ。

 まさか、母さんと二人きりの時間が欲しいから社会勉強ついでに一人暮らししろなんて言われるとは思ってもみなかったぜ。


「わー、すごく新城くんの親って感じだね」

「まあ、確かに両親の影響は受けてる……かなあ」


 笹倉さんにそう言われて微妙な返事をしてしまう。

 多少思うところもあるが長く一緒に居てもすごく仲よさげな両親のことはわりと尊敬している……でもなんかこっ恥ずかしいなあ。

 そうして照れつつも久々に両親のことを思い出しているとふと思いつく。


「そういえば、父さんたちの話してて思ったんだけど笹倉さんさえ良ければ俺の親に紹介したいんだけど……いい?」

「あ、うん。問題ないよ」


 まだしてなかったなと気づき、それを尋ねれば殆ど考えることもなく笹倉さんはそれを快諾してくれた。

 それだけ受け入れてくれていると思うとすごく嬉しくなる。


「んじゃあ……それも夏休みにってことで」

「うん、夏休みにだね」


 そんな会話をしてお互いに笑顔を作って、夏休みへと思いを馳せた。

 こうして夏休みの予定がまた一つ決まった。

 その後は折角だからと他にも色々行きたい場所とか、夏ならではのイベントを挙げてはその計画を立てていった。

 一つ予定が決まるたびに夏休みがすごく待ち遠しくなってしまう。

 そうして、俺の心はかつてないほどに夏休みへの期待で満たされていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ