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その68

「え……は、え? 名前? 俺がつけんの? なぜ?」


 竜人からの思ってもみなかった頼み事に大いに混乱する。

 くっそ、帰ってきてから思考乱されっぱなしなんだけど俺が一体何をしたっていうんだ。

 名が欲しいはまだ分からなくもない。

 でもなんでそれを俺に頼むのか。勝手に好きなの名乗ってろよ!


「何をあたふたと……ああ理由を聞かないとというわけだな? うむそれはだな」

「おい、あんた! 回りくどい言い回しはやめて簡潔に言えよな!?」

「新城くん大分余裕なくなってきてるね」

「む? こういうのはしっかり説明したほうがいいと思ったが貴公がそういうのであればそうしよう」


 俺が混乱しているのを見てか竜人はまたまたくどくどと始めそうだったので言葉を遮って文句を飛ばす。

 ってかこいつの用がとりあえず自分じゃないってことを知ったからか、笹倉さんやけに落ち着いてますね!?

 

「貴公が私という存在を生み出した。だから貴公から名を貰いたいのだ」

「ごめん、さっぱり分からん。もっと詳しく」

「ん? 先程は簡潔にと……」


 それについては少し悪かったとは思うが、この竜人も色々極端だろう。

 あれで理解できる方がおかしいし、俺にはこんなのを生み出した覚えなどない。


「うーむ、この場合は何を詳しく話せばいいか……まず貴公らが先に言ったように私は他の魔物と同じように。そう、実に遺憾ながら奴らと同じように魔力と情報が集まったことで生まれたわけだ。だから直接的には私は貴公に生み出されたわけではない。しかし問題は私という存在が生まれるにあたって集められた情報にある。その情報こそ私に自我を与えるきっかけであり、貴公が私を生み出したことに繋がるものなのだ」

「集められた情報か……」

「どんな情報なんだろう?」


 それで俺に繋がるってことは俺に関する情報ってことか?

 まあ確かに他の人より多少奇抜な経験をしているしその情報は変わっているのかもしれないがこんな存在を作るほどとは思えないが……。


「おっと、そもそも異界にはあらゆる情報が流れ込むというのは……知っているようだな。その情報は何も実際にあったことだけではなく、人々が想像し作り上げた物語の情報すらをも集める。だがそれらの情報は所詮架空のもの。そんな情報が集まった所で生まれるのは精々形を真似ただけの存在に過ぎない。しかし私を形作るのに集められた情報は紛れもなく本物だった。確かに存在し、熱く血潮を滾らせて生きてきた者たちの本物の情報を元に私は生まれ、だからこそ自我を得るに至ったのだ。もちろん、それは本来この世界には無く混入するはずのないものだったわけだが」

「あー……私、分かっちゃったかも」


 と、笹倉さんが零した声をぼんやり耳に入れつつも竜人が言った事をゆっくりと咀嚼していく。

 いや……おい、ちょっと待て。

 本物の情報って、こいつは物語などの架空のものでなく現実に存在するドラゴンとかの情報から生まれたと?

 しかも本来この世界には無いと来た。

 えーっと、うん。

 いや、いやいやいやまさかそんな事無い、無いに決まってる。

 無いはずだけどその情報ってもしかして……。


「あんた、そもそもいつごろ生まれたんだ?」

「人で言えばおおよそ半月ほど前。そう、ちょうどどこぞの誰かが異世界への道を開いた日の二日後ぐらいであったな」


 わー、まだ生後十五日前後の赤ちゃんだー。

 などと現実逃避しつつも項垂れる。

 ヨウくんやカケルくんを異世界に送ったり呼び戻したりするためにゲートを開いたあの日から二日後にこいつは生まれたと。

 それならばその元になった情報っていうのがその時にこっちの世界に混入した向こうの世界のもの、ということなのだろう。


「じゃあ……その異世界から流れてきた情報を元に生まれたのがあんたってことか?」

「然り。まさしくその通りだ。あの日道が開かれたことで異世界の情報が混入し、その情報から私は生まれた。もちろんそれ以前にあった異世界からの召喚にもある程度情報は混入したが極めて短時間であることに加え、道を作るのではなくただ召喚するものであったが故にその時は大したものでもなかったが、貴公が作り出した道はこちらとあちらの世界を一時的にでも繋いでしまった。完全に繋がってしまったことによる情報の流入量は他の比ではない。それを貴公は数回に渡り繋いだのだからそれはもう凄まじいまでの情報が流れ込んだのだ。ついでに向こうの世界から強大過ぎる力の持ち主までやって来てしまったからな」


 ――ルミナスさん、何やってくれてるんですか!

 などと心の内で叫んでみるのものの、主原因はやはり異世界へのゲートを繋いだことにあるのだろう。

 つまり、このクソ面倒な状況はあの日俺が異世界への道を開いたせいで、自業自得ってか。

 くそっ、こんなことになるなんて誰が予想できるか!

 そんな不満をとりあえずグッと飲み込んで数回深呼吸して心を落ち着かせる。


「ふー……とりあえず俺が一応あんたが生まれるきっかけを作ったことはまあ、分かった。で、名前か。本当に俺がつけていいのか?」

「うむ。それが所詮きっかけに過ぎぬとしても私は自我を与えてくれた貴公にこそ名を付けて欲しいのだ。貴公に付けられるのであればそれこそ人がペットにつけるような名前でも構わぬ」


 思いの外こいつにとって名前は重要らしい。

 なら俺もいい加減覚悟を決めて現状を受け入れよう。

 この竜人は名を得られればいいらしくてその名前がどんなのでも構わないらしいけど流石にポチとかタマとかはいかんだろうな。

 

「そういや、あんたって一定の姿がないんだよな?」

「うむ、本来の姿というものは今の私にはない。まあ、比較的ドラゴンと呼ばれる姿は気に入っているが」


 なるほどドラゴンね。

 いやまあ、一応聞いてみたけど別にドラゴンに詳しくもないし……パッと思いついたのでいいか。

 よくよく考えたらこいつも異界の魔物と同じような生まれなわけだし、変に意味ある名前とか付けたらなんか名前の影響受けたりして大惨事になりそうだ。 

 だったらもう音の響きと直感で選んでしまったほうがよさそうだ。

 実のところ自身の事でもなければ笹倉さんに関することでも無いためかイマイチ心が奮わないというのはある。


「なあ、あんまりこれだっていうの思いつかないし、なんとなくで思いついたのでもいいか?」

「ああ、構わない。そもそも直感で決めるというのも別に悪いことではない。それはあらゆる情報や感じた事を無意識に言葉として紡ぐことに他ならないことだからな」


 一応そういう真剣になりきれないのは申し訳ないと思う気持ちもあり正直に直感で名付けようと思ったことを伝えたが、思いのほか好反応が返ってきた。

 というかこの竜人結構ポジティブで何言っても笑って受け入れそうな気がするな。

 まあともかく本人にも許可は取ったし直感で行くとしよう。


「んーと、じゃあ……ニュート。あんたの名前はニュートだ――って、なんだと!?」

「ひゃあっ?!」


 そうして直感で思いついた名前を気軽に告げたその瞬間。

 目の前の竜人を囲っていた絶界があっけなく解かれるとともに力が溢れかえり、部屋に暴風が吹き荒れた。

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