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その65

 さて、先日約束した買い物デートを行う土曜日がやってきた。

 俺は家から多少遠いけど通える程度の距離にある大きめのショッピングセンターへと足を運び、センター内にある待ち合わせ場所へ向かっている。

 このまま行けば予定の時間よりも三十分ほど早く待ち合わせ場所に着きそうだが、笹倉さんもおそらくは予定時間前に来るだろう。

 もしかしたらすでに待ち合わせ場所に着いていて待っているかもしれない。そう思うと自然と早足になった。


 同棲しているのに今回こうして待ち合わせしているのは、彼女の提案で今日は別々のスタート地点からここを目指し合流しようってことになったからだけど、よくよく考えてみればなるほど世間一般の恋人はこんな感じなのか。

 こうして一人目的地を目指しながら歩いていると不思議とこれからのデートへの期待が高まりドキドキしてくる。

 そして期待と同時にもしも相手が来なかったらとかあり得ないことも考えて少し不安になってしまう。

 いやはや、なんとも言えぬこのドキドキ感は確かにこれからのデートを一層彩るスパイスになりそうだ。

 好きな人と一緒に買い物したり映画を見たりとそういう二人でいる時間がデートだと思っていたけれど、こうしてデートへ向かう一人の時間も含めてデートなんだなと思う。


 しかしこういうデートもすごくいいものだと思うし、これからも繰り返したい気もするけど、同じ家から一緒に出て一緒に目的地向かうというのもやはり素晴らしいもの。

 道中で着いたら何をしようか、どこから回ろうかなんて話しながら目的地へ向かうのもそれはそれは楽しいひとときなのだ。

 何よりもわずかではあるが一緒にいる時間が増えるという利点は無視できないだろう。

 今後のデートはどちらの方式を選択するべきか、これは非常に難しい問題だ。 


 それにしてもこうして普通に待ち合わせをするというのが逆に新鮮に感じるというのはというのはなかなかおかしな付き合い方をしているのだなと今更ながらに認識してしまう。

 ま、認識したところで今の同棲生活を手放すつもりはない。

 付き合い方は人ぞれぞれだし。


 そんなことを考えながら歩くこと数分、待ち合わせの場所までたどり着くとすぐに美しき女神様の姿を見つけた。

 ああ、やはり先に着いていたのかと思いつつ笹倉さんのもとまで小走りで近づこうとしたそのタイミングで彼女に近づいていく若い男が一人。明らかにナンパする気だな、あれ。

 笹倉さんもその存在に気づき冷めきった目でその男を睨み付けるところを見るに彼女はまともに対応する気も無いようである。

 だが男はその目に気づいていないのか、はたまた勘違いでもしているのか、軽薄な笑みを浮かべながらも尚も近づいていく。

 しかしそんな男の行動もそれまでだった。

 突然、顔をしかめたその男は慌てて周囲を見渡し、トイレへと駆け込んでいった。

 そんな男の行動を見た笹倉さんは何が起きたか正確に把握したのだろう、ゆっくり誰かを探すように動かした彼女の視線がこちらを射抜くと惚れ惚れするような満面の笑みを浮かべ、小走りで駆け寄ってきた。


「早いね?」

「いや、待たせちゃった以上は遅いから。待たせてごめん」

「相変わらずだなあ、もう。あ、さっきはありがとね」

「それこそ当然だなあ」


 あの場面に出くわして何もしないなんてありえない。俺は少しばかり独占欲が強いのだ。

 まあもちろん彼女がつい声をかけたくなるほどに美しいことは十分承知のことであるからして先程トイレへと消えた彼に使った尿便意コントロールも幾分手心を加えてある。

 15分以内にはトイレから脱することができるだろう。

 さてさっきの男はもう忘れるとして、そろそろ今回の買い物の目的を聞いてみることにする。


「それで、結局何を買うの?」

「海に行くって約束したんだから買うものは一つ! ってことで水着を買いたいの。当日でお披露目もいいけれどどうせなら新城くんに可愛いって言ってもらえるのがいいから選ぶの手伝って貰おうと思って」


 俺の質問にそう言って少し照れくさそうに笑う笹倉さんの姿に心臓が激しく動き血を全身へと送る。

 流石笹倉さんだ、俺の弱点を的確に射抜いてくる。この手の不意打ちも慣れてきたとはいえ、やはり心臓に悪いな。

 さておき、もちろんそういうことならば俺も全力で選ばせていただこう。

 ただ、問題点を上げるとするならば。


「どんな水着でもさ、多分俺は全部可愛いって心から言うと思うよ?」

「ふふ、もちろん分かってるよ。でも全部おんなじ反応ってこともないでしょ? あれはここがいいとか、こっちはこの部分がーってみたいにさ」


 俺が問題を言うとやはり笹倉さんもそれは理解していたようだが、それはそれで俺の反応自体を参考にするようだ。

 となれば俺は反応を隠さないでいたほうがいいだろうな。


「それと、多分結構な時間を拘束しちゃうから新城くんはちょっとつまらないかも……ああ、そんなことはないんだっけ」

「ああ、ない。いくらでも時間をかけて選んでくれて構いませんとも」


 もちろんどれだけ時間がかかろうと苦でもない。彼女の水着ファッションショーとなればいくらでも……いや、そもそも水着って試着可能なのか?


「どしたの、変な顔して」

「いや、水着って試着とかどうなのかなって」

「ああ、なるほど。試着できないところも多いけど、そもそも今日は試着とか元々しないつもりだったからどちらにしても、だね」

「なん……だと……」


 疑問に思ったことを聞いて返ってきた衝撃の事実に膝から崩れ落ちる。

 なんてことだ。

 試着どうこう関わらず笹倉さんの水着姿を拝めないだと……。


「もう、人前で恥ずかしいよ?」


 俺が一人絶望にくれていると軽く笑いながらそんなことを言ってくる。

 ちゃっかり周囲に認識阻害を掛けて俺の醜態を周りに見せないようにしてくれている辺りなんと心優しいのだろう。

 まあ、いきなり人前で膝を付く人と一緒にいるのが恥ずかしいって部分も多少はあるだろうけど。

 ともかく、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないとしてスッと立ち上がる。

 そしてふと思いついたことがあった。


「……認識阻害すればファッションショーも可能なのでは?」

「やらないから」


 むう、名案だと思ったが呟いた直後に一蹴されてしまった。

 どうやら今日は何を言ってもファッションショーには出来ないようだ。

 かなり残念ではあるがこれ以上ゴネては本当に迷惑だろうし諦めよう。

 そう思いつつも不満が少し顔に出ていたのだろう、笹倉さんは少し困ったように笑いながら、


「お披露目は海に行った時にね。そのほうが楽しみが増えるでしょ?」


 と、言ってきた。

 もう、本当にこの女神様ときたら。


「人を乗せるのが上手いなあ」

「新城くんを乗せるのは多分相当簡単だよ」


 そうかな?

 ……そうだな。うん、笹倉さんが言ったことならば大概どんなことでもあっさり乗るわ。

 これはもう反論できないと俺は両手を軽く上げて降参のポーズを見せた。

 彼女もそれに乗ってくれて少し胸を張って軽いドヤ顔を見せてくれる。


「んじゃ、そろそろ行こっか」

「そうしようか」


 それから俺たちは手を繋いでショッピングセンター内を歩き、水着ショップへと向かうのだった。

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