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その61

 思っていたよりもあっさりとゲートへ飛び込んだヨウくんに感心しつつ、そのまましばらくゲートを維持しているとエージから無事にヨウくんも異世界にたどり着いたという連絡を受けた。

 ひとまず安心してゲートを閉じようとしたその時。


『エージ、それにユージよ。しばしゲートを維持しておけ』

(は?)

『ちょ、ルミナス!?』


 俺とエージとのつながりにルミナスが介入してきた。

 同時にエージの慌てる声も届き、一体何事かと首を傾げるよりも速くにゲートからただならぬ気配が迫るのを感じとる。


「って、まさか」


 事前に聞いた声とその気配にようやく何事かを理解して思わず声を漏らしたのと同時にゲートから飛び出してきたのは小学生のように小さい体格でありながらも一部は豊かな体つきをした、シックな黒のドレスを身に纏う少女だった。


「ふむ……ここがエージの元居た世界か」


 ゲートから飛び出してきたその少女は朱色の長い髪を揺らしながら辺りを見渡してそんなことを呟く。

 周囲を見渡す彼女の目は白目の部分が黒くなっていて瞳は紅く輝いていた。

 やがて、ひとまず観察することは満足したのか一度目を閉じたかと思えば、俺の方を向き彼女の紅い瞳がこちらを射抜く。

 ゲートから飛び出してきてずっと空に浮かんでいるのでこちらを見下ろす形だ。


「それで、お主がユージと。なるほど確かに瓜二つだの」


 整った顔に楽しげな表情を浮かべながらそういう彼女は、些か目が怖い部分はあれども間違いなく美少女だ。

 そしてその身から感じられる途方もない力の気配は、彼女が只者ではないことを誰であっても直感することだろう。

 というか放たれる力の圧力が半端ないのだが笹倉さん大丈夫か、と様子を確認すれば多少緊張している様子だが大きく取り乱している様子はない。

 それでも戸惑ってはいたのだろう、不思議そうに首を傾げて彼女は疑問を口にした。


「えっと……誰、この人」

「んっと、以前にも軽く話したけどエージを召喚した張本人の悪魔のルミナスさん……ですよね」

「如何にも。まあ、すぐに帰るのでな。あまり気にすることもあるまい」


 俺の確認に頷いた少女、ルミナスさんはそう言って肩を竦めて害意がないことを示した。

 いやはや、こうして直に対面するとその力は凄まじく、仮に暴れられたら俺でも対処できるかどうかと不安だったので特に害意がないのなら俺にとってもありがたい。

 それにしてもすぐ帰るって?


「ええっと、ルミナスさんはどうしてこちらに?」

「おお、話してる場合ではなかったの。いやなに我も少しだけ手助けしてやろうと思ってな」

「手助け?」


 どうやらルミナスさんは手を貸すためにこちらへとやってきたらしい。

 しかしながらルミナスさんは悪魔だし気まぐれに人を召喚してサバイバルさせるような存在だ。

 そんな存在が本当にそんな簡単に助けてくれるものだろうか。


「その様子だと半信半疑か? エージなら少なくとも我の言葉を疑うことはしないが……これがお主らの個体差というわけか。ま、そう疑うでない。実のところ手助けというよりも結果的に助けになるだろうというだけの話だからの」

「結果的ってどういうことです?」


 そんな俺の内心を見抜いてかおかしそうに笑うルミナスさんは、再度の問いかけに答えることもなく片手を身体の前に持ち上げ、手のひらを上に向けて開く。

 何をしているのかと見ていると部屋の外から青白い光の球がいくつも現れては壁をすり抜けて、ルミナスさんの手のひらの上へと集まっていく。

 それに驚きながらも見守っているとやがて光の球も飛んでこなくなり、彼女は集まった光の球を握りつぶす。

 瞬間、彼女から感じる力の気配が一段と強まった。


「よし、これで我が力はすべて回収できたの。これで今後我が与えた力で事件が起きることもなかろうよ」


 どうやら彼女の目的はサバイバー達に与えた力を回収することにあったらしい。

 たしかにそれは結果的に能力を使った事件が起きる可能性もなくなるし、そういう力が存在するという事実も消え失せるので認識改変の誘導にしてもいろいろと手助けになることは間違いなかった。


「ああ、力の回収の為だったんですか」

「そういうことだ。さて長居もこちらの世界にどんな影響をもたらすか分からんからの、さっさと帰るとしよう」


 それからルミナスさんは満足気に笑うとあっさりとゲートへと飛び込み元の世界に帰ってしまう。

 その去り様は全く心残りを感じさせず、彼女が言うとおりただ力の回収が目的だったのだと納得したが、それであればもっと早くから回収すればよかったのにとも考えつつゲートを閉じる。


「あれがルミナスさん……凄まじい人? だったね」

「多分、アレでも力抑えてるんだとは思うよ。世界への影響とかもある程度考えてたようだし」


 ゲートが閉じたのを見てしばらくして笹倉さんが零した言葉に頷きつつも、対面していた時に感じた力の大きさを思い出してもし暴れられていたらと、少し怖くなる。

 そうして直接肌で感じた力に思いを馳せているとエージから連絡が入った。


『おーっす、なんかルミナスから伝言だ。えっと、与えた力を回収出来ぬまま持ち帰られたせいで自力では世界を超えられなかったから本当に助かった、だそうだ。どうやらそれが今回の行動の理由らしい』

(ルミナスさん、この会話に介入できるんだからそれこそ直接言えばいいのに)

『あーなんか顔赤くしてるし珍しく照れ、う゛!? いった、ちょ、脇腹抉れるうう!』


 それからルミナスさんからの伝言を伝えてきたエージだったが、俺の素朴な疑問に迂闊に答えた結果なんだかひどい目に合ったらしく苦痛の叫びを最後にテレパシーが切れてしまった。

 ルミナスさん俺たちの会話傍受できるからなあ、バッチリ聞いていたのだろう……南無。


「さて、ひとまずは……ってこれまた随分とスッキリと改変されたな」

「ベッドと机があるだけの空き部屋に……やっぱりこうして見ると改変って怖いね」


 エージのことはさておき、ひとまずできることも無いから帰ろうとしてカケルくんのときと同じようにいつの間にか改変されていた部屋の様子に気づく。

 ゲートを閉じる前は確かにあった教科書などの私物はなくなってしまって妙に小綺麗な空き部屋が広がっていた。

 何よりこれだけの変化を全く感じ取れないのが一層不気味である。

 だが、もう迷わない。

 俺は絶対にうまくいくと信じると決めたのだ。

 とりあえずここに居ても仕方が無いので、来たときと同じように窓から失礼して俺たちは我が家へと帰宅した。

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