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その58

 サッと部屋の中へと飛び込んだ俺たちは部屋に入ると同時にすぐに窓を閉めると部屋の中を確認。するとベッドの隅で目を鋭くして窓のほうを睨んでいる子供を発見した。

 特に震えているということもなく、怯えているというよりはすごく警戒しているといった感じだ。

 認識阻害で俺たちのことは見えなくても、彼からすれば窓が突然開いて再び閉まった状態だからそれも無理もない。

 そんな彼の様子を見つつ笹倉さんにアイコンタクトで合図をして認識阻害も解除してもらう。


「っ!! 誰!?」


 瞬間、俺たちに気づいたその子は即座に視線をこちらへと転じて声を荒げる。

 子供ながらに鋭い目で睨んできて、おまけに彼を中心に小さく風が渦巻いているのを見るに戦闘態勢にすら入っているようだ。

 あちらからすれば俺たちは突然部屋の中に現れた不審者ってところだが、少しの怯えも見せないどころか即座に戦闘態勢?

 異世界の経験があるからか随分と逞しいというか殺伐というか。

 とりあえず能力の使用は確認できたしこの子がヨウくんで間違いはないだろう。


「あ、ごめんな。ちょい待って」

「なんで私も流されちゃったかなあ、もう。恥ずかしい……」


 そんな状態でも一応攻撃は踏みとどまってくれているのは多分俺たちが宙に浮いたまま靴を脱ごうと四苦八苦しているからだろう。

 いやはや、着地のために足元確認したらバッチリ靴履いてるのに気づいて慌てて脱ごうとしてるんだけど宙に浮かびながら部屋を荒らさないように脱ぐのって慣れないせいか難しいんだよね。


「っと、脱げた」

「私も。はい、パス」

「ほいっと」


 苦労の末ようやく脱げた靴を笹倉さんのも一緒に倉庫へと放り込みようやく部屋の床へと足をつけて改めてヨウくんへと向き直れば一連の騒ぎで毒気を抜かれたのかポカンとした顔を晒していたが、俺たちと目が合ったことで正気に戻ったようで再び警戒心露わに身構えてしまう。

 だが、先程よりかは幾分それも和らいでいるようで、少々判断に迷っている様子。

 ええっと……うん、まあ作戦通りだな。

 先程の行動はただ飛び込んでは相手を警戒させるからとわざと馬鹿らしい姿を晒して相手の気を削ぐという作戦だったのだ!

 ……次からはもっと考えてから行動しないとな。

 さて、ここからどうやって話をしていこうか悩みどころだな。


「……なんなんだ、あんたたちは」

「ああ、俺たちは……えー……俺たちは……」


 そう考えていると、向こうから切り出してくれたので好都合とばかりに、早速それに答えようとして言葉に詰まる。

 はて、正直不審者な登場をしておきながらなんて答えるべきだろうか?


「私たちは君を助けに来たんだよ」

「……そういうこと。俺たちは君の、君たちの事情をある程度知ってるから」


 俺が悩んでいるのを見かねてか笹倉さんが言葉を継いでくれた。

 なるほど確かにここは目的から話しておくのが順当だろうと俺もそれに言葉を重ねつつ、カメラを取り出し、病室で撮ったカケルくんの写真を表示してヨウくんに見せる。

 最初は何の写真だと訝しんでいたヨウくんだったがそれがカケルくんだと気づいたようで目を見開いた。


「っ! それ! いつの!?」

「ここに来る前だから1時間くらい前、かな?」


 慌てるヨウくんにいつ撮ったのか説明しながらも刺激しないようにゆっくりとカメラをヨウくんに渡す。

 こちらを警戒しながらもカメラを受け取ったヨウくんはジッとそれを見てしばらくすると目に涙を浮かばせる。


「そっか……やっぱりカケルくんはいたんだ。夢でも……幻でもなかった……! そして僕がしてしまったことも……僕はっ」

「んん?」


 そうして、少し安心したような、そしてそれ以上に酷く辛いような何とも言えない表情でいくつか言葉を呟くと壁に寄りかかりゆっくりと崩れ落ち放心してしまう。

 涙を見せるのはともかくその後の言葉や態度は予想外であり、その反応にこちらも困惑して身動きが取れない。

 やっぱりいた?

 それに夢とか幻とか……何の話だ。

 異世界からの帰還組には認識改変はされないという予測が間違いだったのだろうかとも思ったが、カケルくんのことを認識はしているみたいだからやはり改変はされていないはず。


 彼の反応が何から来るのか手がかりでもないかと部屋の中を見渡すと、部屋の隅にある机の上に放り出されている1枚の写真に目が止まる。

 背景には学校……の校門か。

 それを背景に右腕を横に伸ばし、反対の手でカメラにピースして写っていたのは今よりもさらに幼いヨウくん。

 校門前で撮るとなると入学式の時辺りに撮った写真だろうけど何でそれが机の上に……いや、これは。

 ピースして写っているヨウくんが随分と写真の左に寄って写っている。

 右腕のポーズも些か不自然でまるでそこに合った何かに腕を回して……って、まさかその写真ってカケルくんと一緒に写ってたのか?


「ねえ……カケルくんの写真を持ってたってことは……もしかしてお兄さんたちがカケルくんを消したの? だって僕が持ってたのは勝手に消えちゃったのにカケルくんの写真を持ってるっておかしいもんね……僕が、僕が悪いことしたから……それで今度は僕を消そうって、そういうことなの?」

 

 これはマズい。

 まさか写真からも消えるとは……俺が持ってたカメラのデータは未修正なのはその瞬間は倉庫内だったからか。

 おかげで放心から目を覚ましたヨウくんは色々と洒落にならない勘違いをしてしまって大変不安定だ。


「僕は、いいんだ。仕方のないことだと思うから……でも! カケルくんは関係ない! 僕が全部悪いんだから、だから! カケルくんを!」

「あー待て! 待ってくれ! 落ち着け! カケルくんは無事だし、君を消そうとかも考えてないから!」


 精神安定を促進する魔法も、その魔法陣が許す限りの魔力をつぎ込んで使いつつ、取り乱し訴えてくるヨウくんへと言葉を投げる。

 それで多少は困惑した様子を見せるもやはり信じてくれないのか「僕を、僕だけを」と言ってくるので今度はカメラをヨウくんから魔法で回収して倉庫へと放り込む。


(カケルくんの元気な姿、動画で至急!)

『ん、分かった!』

「違うんだよ。俺たちは一時間ぐらい前にカケルくんのところに行って彼の怪我を全部治してきたんだ。さっきの写真はそれで元気になった姿を君に見せようと撮ったんだよ!」

「それが本当だとして、どうして写真からカケルくんの姿が消えるの……僕が持ってた写真からは消えたのにどうしてあなたが持ってたのには残ってるの……お願いだから……消すなら僕だけにしてよお……っ!」


 エージにカケルくんの元気な姿を撮ってもらうように頼みつつ、何をしてきたのかを説明するが信じて貰えず一層涙を流して消すなら僕だけをと懇願される。

 子供にそんな懇願をされるなんて色々最悪で笹倉さんと目を合わせてお互いに眉を顰めてしまう。


『撮ったぞ!』


 いよいよ困ったと対応を考えている所でエージからのお待ちかねの連絡が来た。

 あっちも随分急いでくれたようだ。

 その連絡を聞いて即座に倉庫を開き再びカメラを取り出すと動画データのほうを再生する。


『え、なに……ヨウくんにメッセージ? えっと急に言われても……その……よ、ヨウくん、ぼく元気になったんだよ、ほら! 君の目の前にいるおにいさんとおねえさんに綺麗に治してもらったんだ! あと、異世界のこととかアレが事故だってことも教えてもらって……だけど、その、何があったのかちゃんとヨウくんから聞きたいんだ。だから、えっと……仲直りできないかな?』


 そうして再生されたのは色々と急かされながらもヨウくんへと元気な姿を見せようとするカケルくんの姿だった。

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