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53/112

その53

 え、は……いや誰!?

 ビージの声でもないし、それをいうなら女の人の声だったぞ!?

 と、予期せぬ介入者に思考を大幅に乱されたが、それが誰なのかという答えはエージによってすぐ明らかとなる。


『おま、ルミナス、どうしてこの会話に入ってこれた!?』

『なに、念話してることは以前から聞いておったからの、戯れに傍受したまでよ』

(……もしかしてエージを召喚したっていう悪魔のルミナス、さんです?)

『そうとも。そういうお主が此奴の元になったという人間か……いやはや、話には聞いていたが魂を分かたれて尚それぞれが安定して存在しているとは実に面白いの』


 会話を聞いてまさかと思い呆然と尋ねればあっさりとそれは肯定され、なんとも楽しそうな笑い声に次第に止まっていた思考が解れていく。

 介入者はエージ含む複数の人間を召喚した悪魔ルミナス。

 どうやら異世界から人を数十人まとめて召喚し、あまつさえ能力を与えるほどの大悪魔ともなれば俺たちのテレパシーに介入することも可能だったらしい。

 いや、しかしまあエージはよくこの悪魔をちゃん付けで語れたものだ。

 こうして直接――というのもおかしな話だが――テレパシーで聞こえてくる声には何か途方もない力が籠もっていて彼女の声を聞くほどに気圧されそうになるほどだ。

 とは言え俺的に最上位の存在とは笹倉さんであり、彼女こそが女神様なので変に畏まったりはしない。

 ま、今後思い浮かべる時はちゃん付けではなく、さんを付けるぐらいでいいだろう。

 

(いやあ、まさか介入されるとは……それにしてもエージってルミナスさんのこと実際には呼び捨てで呼ぶんだな)


 とはいえ、テレパシーに介入されたことと聞こえてきた声の圧力に未だ動揺抜け切らぬことは否定できないため、一旦心を落ち着かせる意味でも他愛のないことで話を繋ぐ。


『……ちょっと何言ってるのか分からんなあ。俺はいつだってルミナスのことはルミナスって呼んでるし? 適当なこと言っちゃあ困るぜ』

『ふむ、実に興味深い。確かユージと言ったか? 詳しく話せ』


 俺にとってはどうでもいい疑問もエージとルミナスさんからしてみると割りと重大な問題だったらしい。

 エージはしどろもどろに、ルミナスさんは威圧感たっぷりに言葉を口にする。

 しかしあれだ。

 意識も完全に別れ、もはや別人とすら言えるエージでも俺にとっちゃ親友というか身内というか、とにかくかけがえのないそんな存在だ。

 そんなエージの不利になるような発言を俺がすると思っているのかね。


『てめええええええ! だろうなとは思ったけど、思ったけど! もうちょっと躊躇するとかさあ!

『――ほう、我をちゃん付けで呼んでいたと? ……ふむ、エージよ試しに呼んでみよ』


 まあほぼ躊躇なく、あっさり情報は引き渡したけど。

 売られたことに喚くエージだが一方でルミナスさんの反応は意外にも穏やかだった。

 その提案を受けたエージは俺に聞かれないようにこっそり呼んでるのか、しばし沈黙が続く。


『……うむ、悪くない。これはこれで未知の経験といえるか。だが、赤面して目をキョロキョロしておったエージは正直、見ていて気持ち悪かったのう』

『なんで、そういうことわざわざテレパシーの方で言うかなああああああもおおおおおお!』


 実に機嫌の良さそうに面白がるルミナスさんの言葉にエージが嘆いているが、そこに心の壁はほとんど無いように聞こえるし、エージから聞いていたよりも二人はずっと仲がいいようだ。

 しかしまあ、いざその時に赤面してしまうというのは理解できなくもないのでそれを聞いても苦笑する程度だ。


(……ま、二人の仲がいいのはわかった。ところでルミナスさんはわざわざ会話に入ってきたってことは何か言いたいことがあったのでは?)


 何にせよここまでのやり取りで完全に緊張感も解れたので、ルミナスさんがテレパシーに参加してきた目的について尋ねた。

 すると別に隠したりもったいぶるということもなく、うむと肯定される。


『半分は道楽にお主らを驚かせてやろうという理由だが、もう半分はお主らが随分と興味深い話をしていたからでな、こうして介入した次第だ。なんでもそちらの世界の人間が、世界間を移動すると認識やら記憶やらが改変されるという話だったか』


 先程までは何処かおどけていた様子だったのが一変して真面目な様子でルミナスさんは話し始めた。


『世界からいなくなれば、そのものの情報を綺麗さっぱり消して、そのくせ戻ってきたら手厚く都合のいい過去が用意される? そちらの世界の神……あるいはただの法則に過ぎぬかも知れんが、便宜上ここは神としておこう。ともかくそちらの神は随分と人間に過保護らしい。世界から消えたものなど放っておけばいいものを』

(過保護、ですか?)

『わざわざ一人のために世界のあらゆる情報を改変するなど相当な手間であるはず。それもある程度とはいえ当人に配慮して行われるというのだから、過保護といって然るべきであろうよ。しかしこれで我が召喚したものたちが突然帰還を果たした理由も分かるというものよの』


 改変を行う何かについて独自の見解を示すルミナスさんは、最後に驚くべきことを口にした。

 異世界からどうやって帰還できたのか、その理由が分かるだって?

 話の流れから察するなら……。


(その過保護な何かによって帰還を果たした、と?)

『うむ。奴らが帰還し始めた時期は我がエージとともに大陸へ渡ってから後のことだな? ならば、おそらく我の力が鎖となって奴らをこの世界に縛り付けておったのであろうよ。そしてそれが離れたからこれ幸いにとそちらの神が呼び戻したといったところか』


 確信した様子でそう言い切ったルミナスさんの言葉には説得力があり、なるほどそういうことだったのかと納得してしまった。

 言われてみれば初めて異世界からの帰還者を確認したのは久保田くんであるが、あれもエージとルミナスさんが島を出た日よりも後のことだったわけで、そこに関連性があることを疑うべきだったかもな。

 ……ん、久保田くんと言えば、彼の帰還理由についてルミナスさんにエージ経由で聞いた時はわからないって話だったがどういうことだろう。


(大体納得できたけど、なぜ以前聞いた時はわからなかったんです?)

『我は決して全知全能なのではない。突然「サバイバーが帰還したらしい、理由分かるか?」などと聞かれても答えられるわけがなかろう』

『やー、だってあの時はさほど興味も無かったし、しゃあねえべ』


 その疑問に対する答えはなんとも簡単なことだった。要するにエージの聞き方が悪かったのだ。


(ま、仕方ないか。ところで帰還が召喚された人たちの誰の意思でもないならエージもこっちに戻ってくる可能性もあるかね)

『あ、それどうだろうな。帰った場合ユージと統合されるかもしれないし、俺としては絶対帰りたくないんだけど』

『統合については心配無かろうよ。これだけ魂が分かれた状態で安定しているのだから、今更元の世界で出会ったところでどうこうなるとは思えんし、お主の認識が弄られていない以上は強制送還等も対象外だ』


 悪魔として何か感じるところがあるのかそう断言するルミナスさん。

 悪魔ってなんだか魂に詳しいイメージあるし、彼女はその中でも最上位に位置する力の持ち主だから、その言葉は頼もしく、安心感があった。


『万が一でもエージはもう我のモノ。そちらの世界にもユージ、お主にもみすみすくれてやるなどありえん。幸い、我の力で強制送還は防げるらしい。であるならば、一層強い楔を打ち込むことでこの世界に繋ぎ止めればいいだけの話よ』

『楔? また能力付与したり、あるいは何か紋章でも刻むのか?』


 それから続けられたエージはもう我のモノという言葉は何というか告白じみていた。

 だがもはやそれは向こうの間では当然のことらしく、エージはそれに動揺するでもなく別の点について疑問を口に出す。

 外野からするとなんだか話が変な方向に向かってる気がするが……そんな俺の戸惑いを他所に二人は会話を続けていく。


『……ふむ。確か人間は恋人だとか夫婦(めおと)という関係に拘るのだったか。前に恋人になってとエージに迫られた時は何の必要がとも思ったが、こうなると丁度いいやもしれん』

『え……あの? え?』

『よし、では恋人……は温いの。この際、さっさと夫婦ととなるとしよう』

『……え? マジで? ってか何言ってるか分かってる?』

『もちろん本気だ。人の価値観に疎い我でも知識ぐらいはある。ええと確か夫婦になるというのは肉体関係も伴うのであったか? まあ、それもエージとなら問題はあるまい』

『ッ――――!?』


 と、ルミナスさんがなんとも大胆な発言をしたところで声にならない悲鳴をエージが上げて、ぷっつりとテレパシーが切れた。

 元は俺だから何が起こったのかはおおよそ予想が付く。思わぬ展開についていけなかったエージが気絶したのだろう。


 一方俺は、あんな会話を聞かされてどうしたらいいのだろうと途方にくれていた。 

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