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51/112

その51

 手の上に作り出された魔法陣と光の球を見てカケルくんは目を見開き口をパクパクとして声を失っている。


「どうだ? 少しは信じてくれるか?」

「……うん! すごい、すごいよ、おにいさん!」


 放心したカケルくんに声をかければ、ようやく衝撃から立ち直ったようで目を輝かせてはしゃぎだす。

 ちょろっと光の球をカケルくんの近くに移動させてやればそれを恐る恐る触ろうとしてすり抜ける手に驚いた様子を見せて何度も手を光の球に当てて遊び始めた。


「ちょっと、新城くん」

「ん、どうした?」

「安易に魔法を見せるのは……」


 それを見て思わず頬を緩ませていると、脇腹を笹倉さんに小突かれた。

 どうやら話があるようなのでちょっと屈むと、小声で安易に魔法を見せたことを咎められる。

 はて、カケルくんを治療する際の説明で必要になるからと一時的に魔法について教えることは事前に手筈を相談した際に了承していたはずだけど。


「カケルくんが何で怪我をしたか私たちは予想してたはずだよ」

「何で怪我を……あっ」


 笹倉さんに言われた言葉に、ハッとしてカケルくんのほうを見れば相変わらず触れぬ光の球に興味津々な様子で手を翳したり引っ込めたりしている。

 ひとまず魔法に対して恐怖を感じている様子は見られなかった。


「ごめん、ちょっと迂闊だった」

「トラウマになっていないのか、怪我と魔法を関連付けられないのか。幸いにも騒ぐことは無かったけど気をつけないと相手を無駄に傷つけることになっちゃうんだからね?」

「ああ、気をつけるよ」


 彼は見えない何かによって腕を切られたが、それは状況的に異世界から帰ってきた子が持っていた能力、あるいは魔法によるものであることはほぼ確実。

 目に見えるという点で事件のものとは違うかもしれないが、そういった魔法を安易に見せることがトラウマを刺激しかねない可能性に言われるまで気付かないとは我ながらなんと配慮に欠けることか。

 だが、反省するのは後にして先に光の球を消しておこう。

 今平気でも、不意にそれが刺激することだってありえるだろうからな。


「わあ……! すごい! 本物の魔法使いだ!」


 とはいえただ消すというのも芸がないということで、光の球を弾けさせてまるで花火のような光の軌跡を残すようにしてから消せばカケルくんも満足してくれたらしく、高揚した様子で俺たちを見てくる。

 ひとまずこれで魔法に対して事実を知っても怖がらないでくれたらと願うばかりだ。


「さて、カケルくん。どうだろう、君の腕を治させてはくれないか?」

「っ……本当に治るの? 代わりにすごい痛いとか……」

「治るし痛みも無いよ」

「……じゃ、じゃあ。お願い、します」

「おう、任せろ。じゃあ、ひとまず包帯を取るぞ?」


 俺の言葉に頷いたカケルくんは左腕をゆっくりとこちらに差し出してきたので、慎重に傷を刺激しないように包帯を剥がしていく。

 そして包帯を全て剥がし、その下にあったガーゼも全て取り除けばついにカケルくんが受けた怪我の全貌が露となる。

 前腕部を縦に切り裂かれたようで、手首から肘の近くまで一直線の傷があり、それが何針も縫われているのがありありと見えて酷く痛ましい。

 カケルくんも流石にその光景には不安を覚えるのか目を逸して少し震えている。


「安心しな。治すのに数秒もかからないから」


 そんなカケルくんを安心させるように努めて平静に声をかけつつ、さっと治癒魔法を使いその腕の傷を癒やしていく。

 万が一にも感染症とかで苦しめるわけには行かないので浄化魔法も併用だ。

 ある程度治ったところで一旦治癒魔法を止め、一応痛覚を遮断してから無限倉庫の入り口を開け、そこに腕を通すことで傷を縫っている糸を除去。

 後はもっと効果の高い回復魔法で一気に治せば、そもそも怪我すら無かったのではないかと思うほど綺麗に傷は無くなった。


「ほら、もう終わったぞ」

「え……わ! すごい、本当に治ってる!」

「本当にこんな綺麗に治っちゃうのはすごいよね」


 素直に怪我が治ったことを喜ぶカケルくんを見て笹倉さんも優しげな笑みを浮かべつつ感心した様子を見せる。

 こっちの魔法だとここまで効果の高い回復魔法というのは存在しないらしいからな。

 欠損した腕すら治せるのだからその効果の高さはまさしく格が違う。


「さて、怪我も治ったところで……実は君に聞きたいことがあるんだ」

「うん、治してくれたんだもん。ぼくに分かることならなんでも聞いて!」


 腕を治したことでもはやこちらに対する信頼度はかなり高いようで、即答でかまわないと頷くカケルくん。


「そうか。その心意気はありがたいけど、聞きたいことっていうのは……怪我したときのことなんだ」

「え……」

「ああ、言いたくなければ別にいいんだ。今日ここに来た一番の理由は君を治すことでそれはもう終わったからな」


 怪我したときのことを聞きたいと言われてそれまで明るかったカケルくんの顔に少し影がさす。

 それを見て、努めて優しく声をかけつつもいつでも精神的安定を促す魔法を使えるよう構えたが、幸い取り乱すということはなく。


「ううん……でも、わからないんだ。ヨウくんを怒らせちゃったかと思えば、強い風が吹いて、いつの間にか腕が痛くて、切れてたんだけど……あれも、もしかしてあれも魔法、だったのかな?」


 少し暗い表情で、けれども震えたりはすることなくどんな状況だったか説明したカケルくんは、どこか確信した様子でこちらに尋ねてきた。

 もっとトラウマになっててもおかしくないと思うが……超常の現象過ぎてトラウマ以前に理解が追いつかなかったというのはあるかもしれないな。

 そんなことを考えつつもカケルくんの問いかけにゆっくり頷きつつも、誤解がないように補足を入れる。


「多分、な。でも相手の子、ヨウくんだっけ? その子も大怪我をさせるつもりは全く無かったと思うよ」

「……うん、なんとなく分かる。あの時、ヨウくんはすごい怯えてたから……でも、どうして?」

「どうして、そんな魔法を使ったのか、ってこと?」

「それもだけど……なんであんなに怯えてたのかなって」


 大怪我を負った状況で相手の子が怯えていたことをちゃんと見ていて、それを憂う様子を見せるカケルくんは想像以上に優しく敏い子らしい。

 トラウマになってない感じなのは理解が追いつかなかったというよりも、その状況で周りをよく見ていて、相手にも悪意がなかったことを悟ったからか?


「それはもちろん君のことが心配だったからだろう。そして怪我させちゃったことが酷く怖かったんじゃないかな。多分、魔法を使うつもりは無かったんだよ」

「そう……かな」

「うん。その子、ヨウくんはあの日からずっと怯えて誰も近寄らせないようにしてるようなんだ。どうやら近づいたらまた誰かを傷つけてしまうかもしれないって考えてるみたいだね」


 現状ではそれは推測に過ぎないがそこまで的を外したものでもないと思う。

 それを聞いたカケルくんは黙り込み何か考え込んだ様子を見せる。


「ま、外野がこんなこと言うのは身勝手だけど、できれば二人には仲直りしてほしいって思ってるんだ」

「……仲直り……うん……ぼくも、ヨウくんと仲直りしたい」

「そうか、少なくとも君がそう言えるというのはいい知らせだ。とはいえ今はとりあえず君の無事をヨウくんに伝えるだけに留めておこう」


 カケルくんは本当優しい子だ。

 その心は素晴らしいが、それでもカケルくん自身が気づいていない心の傷もあるかもしれないし、ヨウくんのほうの問題もある。

 なのでやる気に満ちたカケルくんにそれとなく時間をおこうと言えば、素直に頷いてくれる。

 よしよし。

 素直に納得してくれたところで話を進めようと、ポケットからカメラを取り出す。

 正確にはポケットから取り出したかのように無限倉庫から取り出した。


「よし、じゃあ写真だな。写真を撮ろう。怪我が治ったとよく分かるように左腕でガッツポーズしてくれるか?」

「え、えーと、こう?」

「じゃあ次は笑顔だ。いぇーいって感じで」

「いぇ、いぇーい!」

「ダメダメ、もっと大きな声で!」


 部屋にこっそり遮音結界を張りつつそんなやり取りを交わす。

 笑顔がなかなか難しかったが、色々指示を出して何度か繰り返せばいい感じの笑顔の写真を撮ることができた。

 完璧だとサムズアップをすれば、カケルくんも笑ってサムズアップを返してくる。

 そのまま二人で笹倉さんの方をジッと見れば、彼女も苦笑しながらも両手でサムズアップを作ってくれる。

 さて、ひとまずはこの写真を見せればヨウくんも多少心を軽くすることができるだろう。

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