その5
(クソどもの自慢はさておき、報告会といこう)
『クソどもって俺ら元々は同一人物だぜ?』
『つまりオリジナルもクソ』
(うるせえ、まずはエージから経緯とか目的とか報告しやがれ)
『ええー……まあ、いいか。既に言ってるように俺の場合は異世界への集団転移だったわけだが――』
寛大な俺の振りを受けたエージが呆れながらも経緯を語り始めた。
エージの話の半分はルミナスちゃんかわいいだったが、まとめると向こうの世界で馬鹿げた力を得てしまった悪魔が暇してたから異世界から人呼んで魔物蠢く無人島で生き足掻くさまを見ようと思ったらしい。
なんとまあひでえ理由でひでえことする辺り実に悪魔らしい。
そんな悪魔を神と崇めた俺の分身大丈夫かと一瞬思うが、ビジョンでのぞき見た感じその姿は笹倉さんが居ないのであれば十二分に神とするにふさわしい美しさなので特に問題はなかろう。
『――とりま、サーチアンドデストロイで神の祝福を勝ち取る予定ってことで報告は終わりかな』
(おい、サラッとこいつ人殺す宣言したぞ。倫理観どこいった)
『日本ではルールが大事。ここでは力が全て。郷に入っては郷に従えっていうじゃないか』
なかなかぶっ飛んだことを言うが本当にこいつ俺の分身か?
俺、普通に人殺すとか絶対いやだよ。
例えば笹倉さんに頼まれたら笑顔で殺すかもしれないけどそうでないかぎり人殺しとか絶対勘弁だし。
もしかすると、意識が分かたれた時に微妙な差異が生じたのかもしれない。
いや、そうに違いない。
まあ、あちらの世界でどう生きるかはあちらの世界に行った者の自由だし口出しはしないでおこう。
(うん、エージがいいのならそれでいいよ。ところで今更だけどなんでちゃん付け? 大人な色気たっぷりなお姉さんでしょ?)
『いや、皆の前で説明してた時の姿はなんか力持った存在に見せるための幻影らしくて、ホントの姿はロリ巨乳だったから』
ロリ巨乳か……うむ。悪くないな。
まあ、ロリ巨乳ならちゃん付けだな間違いない。
それに状況次第では大人な美女シチュも可能なわけでそれまた素晴らしい。
まあ俺には笹倉さんがいるからロリ巨乳も妖艶なお姉さまもいらんけど。
だが、そんな神と崇める美少女と行動を共にできるとかホント羨ましくて、ちょっと死ねばいいのに。
『はっ! 殺気!?』
(エージの演技はさておき、ビージの方はどんな成り行きだったんだ?)
『ああ。俺の方は勇者として召喚されたわけだが――』
エージが変なことを言うのを聞き流しつつ、今度はビージの報告を聞く。
そうして語られた勇者召喚の経緯もまた意外なものだった。
まず、勇者召喚というのは実はあっちの世界の神様としては非公認の術だという。
非公認な術なのに召喚された勇者に力が与えられるのはあっちの神様が異世界から拉致されてくる人を哀れみ、せめて死なないようにと加護を与えるからだ。向こうの人はそれを知らずに勇者を求めて召喚して……いるわけではない。
なんと全て分かっているうえで召喚しているのだ。神が慈悲から加護を与えることを見越して召喚を強行し、神はそれを分かっていながらも召喚された人に罪は無いため加護を与えざるを得ないわけだ。
凄まじくゲスい話である。
なぜこんな話をビージが知ることが出来たのかと言えば、お姫様から直接聞いたらしい。もちろんそんな裏事情を素直に話してくれるはずが無いのだが、そこは尿便意コントロールを悪用して「本当のところはどうなの?」と脅迫して吐かせたとのこと。
タイミング的には朝の念話で尿意我慢するお姫様かわいいとかほざいてた時にしていたようだ。
そんな色々と黒い感じで召喚されたわけだが、だからといって他国との戦争における戦力にしようとかそういう話では無く、50年に一度封印から覚醒める魔王の再封印あるいは完全討伐を期待されているらしい。
ちなみに送還魔法は確立していてそれは召喚時に普通に知らされたとか。
お姫様曰く「そうして誠意を見せれば、異世界に憧れを抱いた勇者が自主的に頑張ってくれるから」だそうで。
そうでなくても美しいお姫様を嫁に貰わされては、断るものも断れないというもの。
ほんとゲスい。
ちなみにそんなお姫様の名前はユナ・アラカナスタと言い、見た目はほわほわとしたおっとり系美女。
実際は計算高く、腹黒なようだが容姿は飛び抜けて美しいのでビージは神認定に迷わなかったらしい。
『別にこちらを蔑んでくるわけでもないしな。いろいろ計算高く腹黒いけどかわいいし政略とはいえ一定の愛情は既に向けてくれるしもう最高だね。今後はその愛情を真実のものへと変える予定だ』
と、ビージは言い切っていた。
でも多分異世界の神様は嘆いてる。
被害者だと思っていた異世界人が、腹黒美女をその正体を知ったうえで神と崇めている状況にきっと嘆いてる。
そんな気がします。
(うん、まあ。とりあえず死ね)
『ひでえ』
『醜いな』
報告を聞いて正直に思ったことを言えば、軽い感じで返事が帰ってきた。やれやれと首を降っている二人の姿が目に浮かぶようだ。
悔しいがこれ以上グダグダ言っても醜い嫉妬でしか無いのは事実。
分身といえどもはや俺とは別人と言っても過言ではないのだからこれ以上は気にしないでおこう。
ひとまずそう自分に言い聞かせて消化する。