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その49

 しばらく笹倉さんと考えるもそうそう簡単に解決案など出るはずもなく。


「とりあえず……怪我した子を治すか」


 ひとまず、できることからやっていこうという考えで怪我した子を治そうと思う。

 それも後遺症どころか傷跡すらない完全な状態でだ。

 相手に怪我を負わせてしまった子にしても、相手の怪我が完全に治ったのなら多少は安心できるだろうし。


「治したらそれこそ大騒ぎになりそうだけどね……と、この病院みたいだよ」


 俺の言葉に苦笑して、治すことに一応の忠告をしながらも反対する気はないらしく、事件について調べていた笹倉さんが被害者がいるであろう病院を教えてくれる。

 確かどこの病院に送られたのかは報道されていなかったと思うが、それなりに衝撃的な事件であるし昨今の世の中だと案外簡単に分かってしまうものであるらしい。

 嫌な時代ではあるがお陰で会うことはできそうなので今はよしとしよう。

 それに伴う騒ぎについてはどうしようかね。

 とりあえず会うのは認識を阻害したりしてこっそり会うとして、問題は治した後だ。

 被害者側の子に協力してもらってちょっと演技してもらうか、こっそり治して幻影で治ってないように見せておくか……?

 だがそれだといずれバレて結局大騒ぎになりかねないか。


「ここだね」

「えーと……それなりに近いな。まあ加害者側の子は俺と同じ電車に乗ってたはずだからそれも当然か」

「ここからなら……電車とバスを使って1時間ぐらいだって」


 対処を考えていると笹倉さんが病院の場所をネットの地図で表示してくれたので、それを確認すれば結構近い場所のようだった。少なくとも行こうと思えば十分行けるぐらいの距離だ。

 まあ、召喚されたのは俺と同じ電車に乗っていた人たちなわけで、自然と帰還者はこの地域一帯に集まるということだろう。

 ともあれ、幸いにも今日は休日。

 そして見ていたニュースは朝のものであるために時間はあった。

 この事件については行動できるなら限りなく早いほうがいいと思うので早速行動開始しよう。

 なに、その後の対処はまたその時になってから考えても遅すぎるということはないだろう。






 そんなわけで行動を決めてから30分後には俺と笹倉さんは件の病院へと到着していた。

 残念ながらここまで来ても結局うまい対処は思いついていないが、何はともあれできることをしよう。

 さて、病院の屋上は高い柵に囲まれており、どうやら一般的に開放されているようで数人の看護師や医者の姿と外の空気を吸いに来た患者の姿がいる。

 そして、そこにいる誰もが当たり前のように屋上に降り立った俺たちに気づいていないのはそういう魔法を笹倉さんが使っているからだ。

 何を隠そう、俺たちは電車などを使って1時間かかるところを空を飛んで文字通り真っ直ぐここまでやってきたのである。

 空の旅はまあ快適だったなと、グッと両腕を上に伸ばして少々張った筋肉を解す。

 そんな俺に対して横から呆れた様子で声を掛けられる。


「新城くん、なんで走ってたの? 普通に飛べるよね?」

「いやあ、たまには思いっきり身体動かしたいなって」


 そう、笹倉さんに言われたように俺は走ってきた。

 とはいっても、空中に結界を作ってその上を走ってきたのだから実質空を飛んできたようなものである。

 常人ではありえないほどの速度で走れ、そしてこの程度では全然疲れないというスタミナも完備しているからこその行動なので問題はない。

 いやはやこの肉体能力はなかなか楽しく、常人ならば到底感じ得ないレベルでの風を切って走る感覚はなんとも素晴らしい。うまく説明できないのがもどかしいが、同じ速度で飛ぶのとはまた違う楽しさが走るという行為にはあるのである。

 だが、素晴らしい肉体能力も普段は使う場面も少なく封印気味でなんとなく窮屈さを感じてしまうので、こういった機会でそれを活かすのは精神衛生上必要なこと。決して道楽で走ってきたわけではない。


 そして今回は笹倉さんの協力により、姿を隠し人に見られないようにして貰えていたからこそこうして力を発揮できたわけだ。

 俺も認識阻害などの魔法を鋭意開発中ではあるのだが、如何せんそもそも魔法陣というのは目立つ。

 そして、一応作った認識阻害の魔法はどうにもこうにも魔法陣の内に対象を入れるか、対象に直接刻むなりしないと効果が出ないというのだから困ったものである。

 こうなると隠蔽については魔法陣は不適切なのかもしれない。

 それに比べてこっちの世界で発展した魔法は凄まじく隠密性が高い。

 高すぎて、あれだ。


「魔術師ってさ。泥棒とかに向いてるよね」

「そんな悪用する魔術師は……きっと多分ほとんどいない……かな。うん、ほとんどいないと思う」


 俺のふとした考えに、遠い目をしながら笹倉さんは一応の弁護を計った。

 ほとんどいない、ほとんど。多分それが答えなのだろう。

 ま、今は深く突っ込むことはせず苦笑するにとどめて本来の目的を果たすことにしよう。


「さて、件の被害者はどの辺りにいるか」

「名前は分かんないから病室の名札で探すのは無理だね……ちょっと分かる人に聞いてくるね」


 そういって丁度屋上にいる医者のほうへと駆けていく笹倉さん。

 いやはや彼女も行動が早い。しかしながら世の中守秘義務というものがあるわけで、聞いたからといって素直に答えてくれるものではない。

 ただし、それは一般人ならという但し書きが付く。つまりは魔術師の前には守秘義務というものは存在しないのだ。

 笹倉さんが一人の医者へ声をかけると同時に何かしら魔法を使い、一言二言言葉を交わして早々に戻ってきた。


「302号室だって」

「泥棒、インサイダー取引、データ改竄。なんでもできそう」

「あはは……」


 あっけらかんと被害者のいる病室を告げてくる笹倉さん。

 そんな手際の良さを見てしまうとやはりその魔法の危険性とかを考えてしまい、ざっと思いついた犯罪を挙げれば彼女も今度は弁護すること無く乾いた笑い声を上げる。


「ま、まあ一応、魔術師専門の警察みたいな組織もあるから本当に悪事を働くような人は極少数に収まるとは思うよ」

「流石にその辺放置されてることはないか」


 まあ魔術師がいるのだからその対策にそういう組織があるのも当然なのかもしれない。

 ただ、それなら今現在俺たちは一応犯罪を犯しているようなものだけどとも思ったが、それを聞けば「この程度なら咎められることはないし、そもそも気づかれるようなヘマはしてないよ」と笑顔で告げられた。

 それはつまり笹倉さんならそういった組織の眼を掻い潜ることも可能と?

 おお、怖い怖い。

 ま、彼女はとても良心的な美少女なので何も心配はいらない。

 だからふとした闇からは目を逸して、当初の目的である「被害者の子の治療」を完遂すべく、302号室へと向かうことにしよう。

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