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その47

 どうやって帰ってきたのか、久保田くん自身分かっていないと?

 ってことは何らかの事故があったか……あるいは誰かの意図か。


「いや、流石に見当もつかないが……なあ、マジでどうやって帰ってきたのか分からないのか?」

「ああ……普通に夜寝て起きたらいつの間にか自分の部屋だったんだ。長い夢でも見てたのかとも思ったけど……」


 そこで区切ると久保田くんは周りを確認してから指先に水の玉を浮かべる。

 教室でも見た魔法だ。


「これが使えたからさ、とりあえず夢じゃなかったってことは分かったんだよね。あるいは日本の夢を見ているのかとも思ったけど、それも違うみたいだし」


 どうやら久保田くんはこうして戻ってこれた以上その原因についてはさほど興味はないようだ。

 まあ何かの事故であればラッキーであり、誰かの意図だとしてもなぜわざわざ他人を、そして事情も知らせること無く帰還させるのかという疑問がある。

 それを考えればある程度楽観視するのも当然といえば当然。

 見たところ久保田くんは日本に帰ってこれたことを喜んでいる様子。

 その辺りも原因にあまり興味を抱かないことに影響しているかもしれない。

 あるいは……。

 何か思い出したくない事情があり、無意識に記憶に蓋をして目を逸らしている、とか?

 いや、そうだ。

 誰かの意図という可能性を考えるならば、記憶を封印されている可能性だってあるか。

 そう思い、とりあえず解析用の魔法陣を瞳に作り出して何か異常でもないかと見てみるが、特に何もなし。

 彼自身が保有する魔力が見えるだけでその他に異常な魔力反応があるわけでもない。


(おい、エージや。久保田くんが帰ってきた原因知らんっていうし俺も見当つかないんだけど、なんか心当たりとかないか?)

『え、なんで当人が知らねえの……こちとらとっくに無人島からおさらばしてるからなあ。知らん』

(じゃあ、ルミナスちゃんに聞いてみてくれよ)

『おーけー少し待て……知らない、言われて今気づいたってさ。少し考える素振りを見せたけど、俺が感じた限り原因に心当たりがあるって風でもなかったぞ』

(そうか、あんがとな)


 一応、エージにも聞いてみたが空振り。

 召喚した本人であるルミナスちゃんも同じく知らないらしい。

 考える素振りはエージが言うのだからほぼ間違いなく別のことに対してのものだろう。

 神の御心を大きく読み違えるようなやつじゃないからな。


「……だめだ、全くわからん」

「そうか……色々知ってるっぽい新城ならって思ったけど、残念。まあ帰ってこれたんだし、それでよしとするよ」

「気楽だなあ……そういえば久保田くんが得た能力ってどんなの? もしかしたら能力がパワーアップして無意識にって可能性もあるし」


 そうして結局何も分からないことを久保田くんに伝えれば、存外気楽な返事が帰ってきた。

 どうやら当人はもう完全に原因に興味は無いらしい。

 反面、俺は面倒事の予感にもう疲れているというのに……まあ久保田くんはサバイバルからようやく解放されたわけで、日本に帰ってこれたことの喜びの程は到底推し量れるものじゃないしな。

 まあ、久保田くんの内心はともかく、なんとか答えが出ないかと能力について聞いてみる。


「いやあ、流石にそれは無いと思うぜ? だって俺の能力は水を生み出して操作するだけだし」

「……また随分と地味な能力を選んだもんだな」

「や、だってさ、命救ってもらって、その上厚かましく求めるのってなんかカッコ悪いだろ?」


 いや、残念ながらただの道楽で誘拐されただけですけど。

 そんでもって俺の分体のエージは厚かましく求めるどころか脅迫しましたけどね。

 もちろん説明する必要は無いのでしませんけど。

 夢を守るって大事。

 ま、俺が異世界に行ってないこととかからその神様の言葉は嘘っぱちだったって気付くかもしれないけど、自発的に気付くのを止めはしない。


「これから過ごす場所が無人島とも聞いてたしさ、サバイバルならとりあえず水かなって」

「もうちょっと疑ったりはしなかったの? 私ならそんなこと言われても怪しむけど……」

「だってすっげえ美人だったんだぜ!? アレで神様じゃなければ何だよってぐらいのさ! 信じるしかないっしょ、男として!」


 能力を決めた理由も笑って話す久保田くんに笹倉さんがもうちょっと疑うところではとツッコミを入れたが、それに対してなんとも分かりやすい回答が帰ってきた。

 アレで神様じゃなければ何だよって?

 悪魔です。しかもずば抜けた力を持つ大悪魔様です。

 おまけにその時の妖艶なお姉さまな姿は幻で、実態はロリで巨乳で小悪魔チックな美少女だ。

 ……うむ、久保田くんの夢は俺が守ろう。

 つまり。


「黙秘権を行使する!」

「え、なに、新城どうしたの?」

「気にしなくていいよ、いつもの発作みたいなものだから」


 辛辣!

 いや、まあ確かにどうでも良いことを考えてからの発言ではあったけども。

 俺ってそんなに頻繁にどうでもいいこと言ってるかな……?

 まあ、笹倉さんがそれにうんざりしているわけでもなさそうだし気にしなくていいや。


「ところで、他に何か気になってる事とか、気づいたこととかないの?」

「うーん……あっ、そう言えばさ、この制服なんだけど」


 笹倉さんの問いかけに久保田くんは少し悩んでから、制服を指す。

 制服?

 ……そういえば今気づいたけど久保田くん、普通にきれいな制服を着てるぞ。

 多少皺があったりもするけどそれは普通にあっておかしくない程度のものだから、全く違和感なかったが、考えてみればこれはおかしい。

 異世界に召喚されて、サバイバル生活を送ってきてその程度の皺で済むはずがない。


「……制服二着持ってたのか?」

「いや、普通に部屋に置いてあったんだよ……なんかヒントになるか?」

「……何かしら関わっていそうだけどさっぱりだな」


 明らかに不自然だが……だめだ、分からん。

 こうなると向こうの誰かの意図というのも怪しいような気がする。

 久保田くんを彼自身の部屋に送還し、制服も用意しておく?

 訳がわからん。


「あとは……もう無いかなあ」

「まあ、仕方ないか。また何か思い出したことがあれば気軽に言ってくれな。あ、あといい忘れてたが、日本への帰還、おめでとさん」

「あ、確かに言ってなかったね。日本へ帰ってこれて本当によかったね、久保田くん」

「っ! ああ、ありがとう、新城、笹倉さん! 新城、お前、案外良い奴だな!」

「案外は余計だ馬鹿野郎」


 ひとまず話せることは話したし、時間もだいぶ過ぎている。

 なので話を切り上げつつ、ついでに日本へ帰ってこれたことを祝福する言葉を笹倉さんと一緒にかけてやれば久保田くんは感極まったようにうっすら涙を浮かばせて、こちらの肩をバンバンと叩いてきた。

 社交辞令的なものであったが、まあそれで相手が喜んでいるのだから変に訂正することはないだろう。

 ただ、余計な一言を付け加えるのはやめなさい。

 そんなまるで仲のいい友達のようなやり取りは、まあ悪くはない。

 久保田くんはかなりしっかりとした人物だったしな。

 そんなことを思いつつもそのまま解散し、それぞれの帰路へとつく。 








 帰り道。


「久保田くん、最後は随分元気になってたね」

「ああ、突然の帰還に一番動揺していたのは久保田くん本人だっただろうしな」


 思い出すのやはり久保田くんの帰還についてだ。

 いやはや、まさか異世界から帰ってくるとは驚きである。

 しかも久保田くんの意思ではなく何らかの要因によって強制的に、だ。

 とりあえず事故とかではないだろう。

 事故なら、そのまま日本での生活を再開できるかのように準備されているはずがない。

 同時に別のサバイバーによるものという可能性も薄い気がする。

 何らかの実験やら観測などの理由で久保田くんを送還したと考えても、自宅にピンポイントで送還し制服を用意することが可能とは思えないしそんなことをする意味も分からないからだ。


 つまるところ原因は不明。

 そしてそれは今後さらなる帰還者の登場の可能性を示唆している。

 久保田くんはかなり良識的な人物であったが……。

 もし他にも帰還者が現れるのなら是非ともおとなしくしておいてほしいものだ。

 もちろんそれに関わったりなんとかしたりという義理は俺にはない。

 だから基本的には無視するが、能力を悪用して大事件起こすようなやつは流石に無視していられないだろう。


「何事もなきゃいいけどね」

「そうだね」


 とりあえず今できることは、ただ平穏を祈るのみであった。

エージに聞かないのは不自然という指摘を受け、実際その通りだと思ったので加筆修正。


冒頭に近い辺りにエージとの会話を入れました。

エージもルミナスも原因に心当たりは無いという感じで大筋は変わりありません。

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