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その41

 お祖父さんからのありがたい異界講義が始まり、耳を傾けていたのだが最初っから意味がわからず首を捻ってしまう。

 異界が複数あるものではないとはなんぞや。


「え、でも異界って各地に発生するのでは?」

「……いや、各地に発生するという異界。これは厳密には異界が発生しているのではなく、異界への入り口が発生しておってな。儂らはそれを小異界と呼んでおる」


 疑問に感じたまま聞けばなぜだか残念そうな表情でより詳しくそして、単純に説明してくれる。

 はて、残念そうにしたのはできの悪い生徒に?

 もしくは求めてた反応が違ったか。もっと驚いた感じの方がよかったのだろうか?

 それはともかく今度の説明はなかなか分かりやすかった。

 なるほど、入り口が発生。それであれば確かに複数ではなく異界は一つと言えるかもしれない。

 それなら個人で作ったにしては馬鹿に広いこの異界も説明がつく。

 一人でさっと作った割にはやけに広かったからな。勇者の馬鹿みたいなスペックのせいだろうってことで深く考えてなかったが。

 だが、少しおかしくないか?


「連盟本部はどうなんですか? あれはなんていうかあれだけで独立した場所って感じでしたけど」


 感覚的なものでしかないが、あの異界は本当に本部があるだけで広がりのない場所だった。

 一般的な異界が、入り口でしか無いのであればこれはおかしいのではないか。


「あれも結局入り口にすぎぬよ。ただ、それをこちら側に寄せて切り取っておるがの」

「寄せて……」

「切り取る……?」


 笹倉さんと一緒に首を捻る。

 結構広い空間である連盟本部も入り口にすぎないらしいが、寄せて切り取るとはどういうことだろう。

 いや、そもそも入り口ってあの鳥居ではないのか。

 だが、ここまではっきり言うということはあの連盟本部のある空間そのものが入り口なのだろうけど……。


「ふむ、混乱させてしまったか。ならば、別のものに置き換えて説明するかの。まず、門と庭を有する屋敷があるとしよう。それで、屋敷の中が異界とする。この場合門が連盟本部のある場所への入り口、即ち鳥居だ。ここまで聞けば分かるであろう? つまり、その門から庭を通り玄関までが……」

「ああ、なるほど」

「それが異界への入り口ですね」


 聞いてみれば単純なことだ。

 入り口といえば扉みたいな内と外をキッパリ分けるものだと思いこんでいて、そういう発想が出てこなかった。

 となると連盟本部は門は通れるけど玄関前にバリケードがあって通れなくなっていて、城は庭先のオブジェだと。

 なんかしょぼくなった気がする。

 ん、でもここだって玄関前を結界で塞いでいるだけみたいなものだけど。


「それならここも部屋の中が異界への入り口、つまり小異界で、外が異界っていうだけでは?」

「違うな。連盟本部は小異界をこちらに寄せて異界とは繋がりを断ち切って固定したものだ。で、こちらは異界のど真ん中に安全地帯を作っているにすぎぬ」


 ふむ。

 どうやら連盟本部のある小異界は思った以上に完全に隔離されていたらしい。

 玄関前を封鎖するとかそういうレベルではないようだ。

 対して俺が作ったここは無理矢理屋敷に乗り込んでその一画を占拠した状態だ。

 でも話しぶりから小異界の先に異界はあって行くこともできるようだからそこまで変な話でも無いと思う。

 なのにお祖父さんがあそこまで驚いたのは……小異界を経由しなかったからか?


「つまり、異界がおかしいのではなく異界に直接繋がっているのがおかしい?」

「ん、そっか。新城くんが作ったのは異界じゃなくて、入り口。それも異界に直接繋がる扉なんだよ」


 考えて、思わず呟いた俺の言葉に笹倉さんも閃いたらしくそういってきた。

 入り口を……そうか。

 そもそも作るのに参考にしたのは召喚と送還の魔法陣。

 つまり地点間を繋げるものだった。


「あー、なるほど。なら、自然に発生する入り口は少し不安定で、だからこそ異界との間に小異界が生まれるのかもな」

「じゃあ新城くんが作った入り口はずっと高度なものかも」

「……二人とも随分と察しのいい。それよりも作っただと? 異界への入り口を何もないところから?」


 そうして笹倉さんと意見を交わすのを聞いていたお祖父様がやや落ち込んだ様子で口を開き、それから信じられないといった様子で異界への入り口を作ったのかと聞かれる。

 もちろん嘘をつく理由もないので頷くとお祖父様は数秒固まり、すぐに弛緩する。


「……いや、確かにそうなのだろう。自然に発生したと考えるほうがおかしかったか」

「はあ、なんかすいません」

「いや、儂の考え方が固かっただけなのだろう。気にせんでくれ」


 どこか疲れたように、どこか諦めたように呟くお祖父様に思わず謝れば、彼は必要ないと手を振って体勢を整える。


「しかしこれは墓場まで持っていかねばの。連中が聞けば欲を出すやもしれん。お主らも迂闊にこのことは話さんほうがいいだろう」


 それから真剣な眼差しでされた忠告に俺も笹倉さんも何度も頷いて意思を伝える。

 面倒は、特に魔術師関係の面倒事はごめんだから異界部屋のことは今後話題にしないでおこう。

 異界に直接行ける扉を作れるなら、新たに小異界を隔離できるだろうとか期待されても困るからな。


「それともう一つ。異界は思念の影響を強く受ける、それはお主もよく分かっていよう。だが思念の影響はこの部屋のように物体を生み出すだけではない」

「と、いいますと?」

「魔物にも影響が出るのだ。そして異界には現世からあらゆる思念と情報が流れ込む。それをごちゃ混ぜにするから異形の魔物が多いわけだが……稀に形の整った魔物も存在する。はっきり獣の姿をしていたりあるいは人の姿をしていたりな。それらは大概他の魔物よりも遥かに強い。留意することだ」


 最後にかなり重要な情報をいただいた。

 どうやら魔物も異形ばかりではないらしい。

 そして現世の情報やら思念やらが流れ込んでいるというのならばまさかとは思うがゲームや小説でお馴染みの魔物だっている可能性は0ではない。

 ドラゴンとかいたらどうしよう……。

 いや、待てこの考えが既にやばいのでは。


「あの、通常でも思念は流れ込んでるみたいですけど直接異界、あるいは小異界に来る魔術師の思念って一層強く影響するのでは?」

「うむ。ここは……外の魔物が反応を見せんからそういうのも漏れないように守られているようだが、外であれば思念に影響されて目の前の魔物が突然強力になることすらある。まあもちろん対策はある。さっき儂がしてたように魔力を纏えばいいのだ」


 なるほど、魔力を纏っていたのはそういう理由だったのか。

 笹倉さんも戦闘態勢を取った時よく魔力を滾らせ身にまとうのはそういうものとして一応教えられてたからだろう。


「纏う時はどれぐらいの魔力を纏えば?」

「とにかく隙間なく纏えばいい。むしろ強い魔力には強い思念も混ざりがちだから出来る限り少ない魔力を纏ったほうがいいだろうな」

「あっ」


 それから纏う魔力について聞いてみれば、その強さには関係なく全身を纏うことが大事らしい。

 そんなお祖父さんの言葉に笹倉さんが声を漏らす。

 うん、以前外の魔物に気づかれたのはつまり魔力だけでなく思念も感じ取っていたんだろうね。

 いや、これ異界はうんざりする場所という認識で外には出なかったけどでなくてホント良かった。

 もしこのことを知らずに外に出ていたら、辺り一面強力な魔物で溢れかえっていたかもしれなかったからな。


 そんな感じで異界への認識を改めたところでお祖父さんもひとまず満足したのか講義は終了となり、もうこれ以上邪魔するのも野暮だろうとお祖父さんは家を後にしたのであった。

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