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40/112

その40

「いや、孫娘の様子を確認するだけのつもりが随分長居してしまったな」

「いえ全然構いませんよ」


 話も一区切りついたところで言われた言葉に、問題無いと首を振る。

 実際なかなか楽しい時間だったからな。


「そう言ってくれるとありがたいが、あまり好意に甘えるのも問題であろう……だがのう。どうしても一つ気になることがあるのだが、いいかね?」

「ええ、何かありました?」

「いや、玄関のアレ……お主が作ったのだろう? 大丈夫なのか?」


 何を言いづらそうにと思えば、異界のことか。

 そりゃ魔術師であるお祖父さんなら気づいて当然だよな。

 そして異界を知っているからこそ、あんな場所に異界への入り口を作って大丈夫なのかと思うのは当たり前の反応だろう。

 なにせこの家には愛しい孫娘である笹倉さんも寝泊まりしているのだ。


「ああ、大丈夫ですよ。安全対策はバッチリです」

「そうか……一度この目で確かめても?」


 まあ、安全と言われても自分で確かめたいよね。


「もちろん。笹倉さんはどうする?」

「んー……あまり乗り気はしないけどいざってときに動けるように慣れておかないとだから、行くよ」


 別に見るのは構わないので気軽に案内することを約束する。

 それに過去に幾度も異界へ赴き、浄化してきたお祖父さんから直接異界の話しを聞くいい機会だしね。

 笹倉さんも知識である程度知っているだけで実際にどんなものなのかは詳しく知らないし、俺も異界のことは何も分かっていないようなものだ。

 だから笹倉さんも誘えば、若干顔を顰めながらも行くとのこと。

 その様子からやはり前に見せた時の反応は魔物を見て恐れていたようだということがわかる。

 あの時は本当に申し訳なかった。


「む? 安全なのだろう?」

「安全、といえば安全、ですよ?」

「ふむ、一応警戒はしておいたほうが良さそうだな」


 そんな俺と笹倉さんの会話にお祖父さんが眉を寄せるが、笹倉さんの微妙な返答にどうやら気を引き締めた様子。

 まあ、安全だ。

 実際この一ヶ月とちょっとの間で問題は起きてないし、異界の部屋を守っている結界も一度も破られていなければ、破られそうになったこともないことを考えれば十分信用性はあるだろう。

 だが、それでも魔物はいるのだから微妙なんだよね。


「ま、百聞は一見に如かずといいますから、早速行きましょうか」


 そう言って、お祖父さんを引き連れて現在は物置と化している異界部屋へと足を運んだ。

 異界部屋に着くなり、お祖父さんは身体に薄く魔力を纏い何があってもすぐ対応できるようにしていた。

 その行動は恐ろしくスムーズに行われ、さらに纏っている魔力は近いからこそ感じ取れるが、その気配が非常に希薄。

 おそらくは魔力の制御力が高いために無駄に周囲に魔力を放射していないからなのだろう。


「ふむ……とりあえず入った瞬間にということはないようだな。しかしこれはもしや本部と同じか?」

「一応この部屋はそういうものと固定化してありますね。だからなのか部屋の中で魔物が湧くということはありません」

「……それはまさか、この外では魔物が沸いておる……いやそもそも部屋の外があると?」

「ええ、見ますか?」


 辺りを見渡し、ひと目でこの部屋が本部の城と同じように作られていることを察するお祖父さんはやはり、高い能力を持っているのだろう。それは俺みたいな力押しとは違って豊富な経験と研鑽にかけた時間からくるものなのだろう。


 そんなことを思いつつも部屋について説明すれば、お祖父さんは目を見開く。

 やはり本部と違って一応魔物が湧くという状況はよろしくないのだろうか。

 外を見るかという俺の言葉に、厳しい表情になったお祖父さんは一つ頷いて一層警戒を強めた。

 それを確認しつつリビングの窓へと向かい、向こう側が見えるだけであちらからこちらは見えないはずなのでと注意して結界を透過モードへと変更する。


「こ……れは……っ! これは、小異界ではなく完全な異界ではないか!?」

「え? そりゃ異界ですけど……?」

「お祖父様?」


 そうして窓の外の光景を見た瞬間お祖父さんはこれでもかと言うほど目を見開いて表情を固まらせて大声を上げる。

 音は遮断してあるので外の魔物に気づかれることはないが、何をそんなに驚いたのか理解できず思わず素の言葉遣いで疑問を口にしてしまう。

 笹倉さんも首を傾げるばかりだ。

 はて、ここが異界だということは扉を通った時点で分かりきっていたことだったはずなのにどうして今更驚くのだろう。

 しかも驚き方が普通ではない。

 笹倉さんのときとは違い、事前に魔物がいるなどの情報も与えていたから不意打ちというわけでもなかったはずだ。

 なぜ、そうまでしてお祖父さんは驚いたのか。

 小異界とか完全な異界という単語がカギなのだろうが……。


「二人とも知らんのか!? いや、由美はあの環境では当然か……だが、雄二よ! お主がなぜ知らぬ!?」

「えーっと……私ある事情から最近魔法を扱えるようになりましてですね。それまでは魔術師とか知らないただの一般人だったので、何か魔術師なら知っていることみたいなのはさっぱりなんですが」


 慌てた様子で問い詰められるも、こちとら魔法に触れて二ヶ月も経っていないのだ。

 もちろん異界だって全く知らないし、何が言いたいのかちっとも分からない。

 おそらくは異界を浄化する魔術師であれば誰もが知っているべきことを俺が知らないのだろうとは思うが。


「……由美よ」

「お祖父様、新城くんの言ってることは本当です。嘘偽りのない真実です。それよりもこの異界は何かおかしいのですか?」


 流石に俺がまだ魔法に目覚めて新しいというのは信じがたかったようで、視線を笹倉さんに向けて問いかけるが、彼女は俺の言葉を保証し何があったのかと逆に問う。


「そう……か……ああ、いや失礼。随分取り乱した。長く生きていれば色々あるというが、ここまでとはの。そう、落ち着いてみれば確かにここは安全らしい。魔物がいる光景をここまで近くでのんびり見られるだからそれは間違いないのだろう」

「ええ、彼女に危害が及ぶなどありえないことですから」

「やれやれ……存外クセの強い男であったな。さて、ひとまずは有望な若者に老いぼれから軽く知識を与えるとするかの」


 笹倉さんの言葉でようやく落ち着きを取り戻したのだろう、疲れた様子でここが安全なことを認め傍にあった椅子へと腰掛ける。

 少し疲れた様子を見せつつも、どうやら異界について教えてくれるらしい。

 俺も笹倉さんも適当に椅子を持ってきて座り、聞く体勢を取る。

 お祖父さんはそんな俺たちの様子を見て頷いて口を開く。


「まずは……そうだな。異界について流石にある程度基本的なことは知っているな? 異界が各地で発生し、放置しておけば魔物が現世に漏れ出る可能性があることも? よろしい。それでだ。それを防ぐために各地に発生した異界へ赴き魔物を倒すのが我々魔術師の基本的な役目となるわけだが、ここで勘違いをしてはいけない。そもそもな、異界とは――――」


 お祖父さんは俺たちがどの程度知っているかを確認しつつ説明を続け、一度区切るともったいぶるようにして俺と笹倉さんに視線を巡らせ十分にこちらの興味を引いてからその続きを口にする。


「――――複数あるものではない」

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