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その4

 そうして、なんだかんだで一日を楽しく過ごして何事もなく帰宅した。

 仕送りを貰いながらの独り暮らしで同居人はいないので適当に冷蔵庫にあったもので夕食を作って腹を満たし、さっさか宿題を終わらせるとお気に入りのクッションへと身を預けてエージとビージにテレパシーを繋いだ。


『おっ?』

『繋がったか』

(おいすー)


 向こうも慣れたのかテレパシーが繋がったことに気付いたようだ。

 俺がなにか言うよりも早く声が響く。


(では、報告会といこう。ちなみに俺の場合は成長補正のお陰か授業の内容が面白いほど理解できたってのと、尿意を我慢する笹倉さんは最高に可愛かったことくらいだ)

『貴様! 笹倉さんのレアシーンを独り占めだと?』

『万死に値する』


 報告会を開始して取りあえず俺の方で報告できることを報告すれば双方から激しいブーイングを貰った。

 ふはは!

 こちらは日本に取り残されたがその分笹倉さんと学校で会うことができるのは日本の俺のみ!


『だが、まあ仕方ない。笹倉さんという癒しは日本残留のオリジナルの特権だもんな』

『ああ、エージの言う通りだな』


 自分の分身相手に優越感を振りかざしていると、どういうわけかエージもビージも急に寛容な態度を取り始めた。

 おかしい。

 俺にとって笹倉さんとは神にも等しい存在だ。

 そんな笹倉さんのレアシーンを独り占めされてすぐにそんな態度を俺の分身が取れるはずがないのに。


『疑うのも無理はない。だが俺は笹倉さんに代わる俺の神をこちらで見つけているのさ』

『俺もな。この世界には俺を召喚したお姫様がいる。これは雄二も見たと思うが彼女は笹倉さんに負けず劣らずの神だからな』

(ぐ……)


 優越感がしぼんでいく。

 考えてみれば相手は俺の分身だ。

 神に会えなくなれば、すぐに受け入れて別の神を探し崇め奉るのは分かりきっていたことだった。

 けして浮気性な訳ではない。

 むしろ超一途だと自負している。

 ただ切り替えが早いだけだ。


 相手に手が決して届かない状況にならない限りは思い続けるが、手が届かなくなればすぐに相手の幸せを願いつつ別の神を探し崇める。

 ただ、それだけ。


 だから異世界に転移し、日本にはオリジナルの俺がいて元の世界に戻る必要もないとなれば新たな神を崇めるのは当然だった。

 実際、ビージのビジョンを覗き見て確認済のお姫様は笹倉さんに匹敵する美しさであった。

 きっとエージの方も同じく美しい神を見つけたはずだ。

 っとそういえばエージの神については詳しく知らないな。


(ビージの言う神はもう知ってるがエージのほうは? 一緒に転移した人か? それとも現地人?)

『どっちも違うな。俺の神は今回集団転移を招いた張本人の悪魔、ルミナスちゃんだ!』

(は?)


 まさかの悪魔を神に認定したのか?

 そのルミナスってどんなだっけ……ああ、最初にビジョンが見えたときにチラッと見えてたな。

 確かに妖艶な大人の女性を思わせる素敵な美女だった。

 だが神とするには条件外ではなかろうか。


(神にするには手が届かなくないか?)

『ふっふっふ、心配ご無用! なんと俺、能力付与の流れからルミナスちゃんとすっかり意気投合して異世界で行動を共にすることになったのだ! 天界だとか魔界から声が聞こえるとかでなく目で見て手で触れられるのだから僅かにでも手が届く可能性があるのは確定的に明らかである!』


 なるほど。

 なら問題はないな。

 ちゃんとそこにいて一緒に行動をしているのだ。

 エージが言うとおりそれは手が届かない状況ではない。

 いや、 待て。

 一緒に行動?


(おい、行動を共に? それってたまたま向かう先が一緒だとかそういう……)

『いやいや、互いに話し合ったりして行動し寝食を共にしながらの楽しいサバイバルだぜ』


 なんだと!?

 神をただ崇めるだけでなく話をして笑ったりして、寝食を共にしていると?

 俺は遠くから見て癒されているだけなのに!

 ぶっちゃけ笹倉さんに名前覚えられているかも怪しいのにエージはもうその段階まで信仰(親交)を進めていると言うのか!

 くそっ、羨ましい!


『心中お察しするぜ雄二』

(ビージ……!)


 悶える俺の脳内に声が響く。

 そうだ!

 ビージがいるじゃないか!

 ビージの神はお姫様だ。

 いくら召喚された勇者とはいえ、まだ功績を挙げてない状況だろうからまだまだ遠い存在のはずで、今の俺と分かり合えるはずだ。


『ちなみに俺は世界に繋ぎ止めるためにとお姫様を頂いていたりする。もちろん(お姫様)祝福()はこれから得られるように尽力するが、形式上は既に神は我が手中にあると言える』

(ちくしょおおおおおお)

『ちっ、ビージのほうが一歩先か……』


 俺の嘆きに同調するようにエージがなんか言ってるが嫌味にしか聞こえない。

 こうなれば俺も距離を縮めねば……どうやって?

 接点もないのに突然話しかけても意図が見え見えで最悪ストーカー扱いになりかねない。

 それは最終手段なので、なにかきっかけが欲しいところだ。


 例えばこんなのはどうだろうか?

 まずなんとか笹倉さんと二人きりの状況を作る。

 これは外でも何でもよくて周囲に人の姿がいなければいい。

 むしろ密室で二人きりは逆にまずい。

 で、尿便意コントロールで尿意を極限まで引き上げ動けなくなった笹倉さんを手助けする。

 こうすれば俺はクラスメートのモブから助けてくれた知人へとジョブチェンジできるのではなかろうか。


 ……いや、それはクズい。

 実に汚く卑劣な行為で、そんな方法で笹倉さんと近づけても素直に喜べない。

 やはり正攻法で考えよう。

 でもそれは後だな。今は異世界に転移した俺の分身の話を聞こう。

 なにせ俺は寛大だからな。

 分身が幸せに近づいたとしてもそれを妬むことはなく祝福してやるのだ。

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