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38/112

その38

 連盟とのいざこざを解消して早一週間。

 もう、毎日が幸せすぎて時間の流れが猛烈に早く感じてしまう。

 なにせ柵から開放された笹倉さんの笑みがもう最高にかわいすぎて、さらにその魅力を跳ね上げているのだ。

 連盟のことなんでどうでもいい、無視すればいいんだと開き直っていたときも彼女の笑顔に影はなく最高の笑顔だったと思っていたが、まさかその上があるとはと驚愕の日々。

 なによりもその笑顔はいつも俺にだけ向けられているのだから、これで幸せを感じないものなどいるわけがない。

 たまに不意打ちでその笑顔を向けられるともう恋人関係にも慣れてきたと言うのに赤面してしまう。

 どうも笹倉さんは俺のその反応が好きなのか、赤面したときは嬉しそうのこちらの目を覗き込んでくるのだがその時の目はいつも妖しい光が宿っていて、妖精のような美しい笑みが、一瞬で妖艶なものとなるのがまた堪らない。

 そんなわけで幸せな日々を送り、今日は休日だ。


 折角だし遊びにでも行こうかと笹倉さんを誘ったが、今日は一緒にのんびり映画見たいってことなので映画鑑賞会と相成った。

 そんなわけで適当にレンタルショップで映画を幾つか選んで借りてきて、家に帰ると二人身を寄せ合ってさあ映画を視聴しようとしたところで玄関の呼び鈴が鳴った。


「んー? 友達はいないし、セールスはドアのお断り装飾で近寄らないはずなんだけど……」

「今更だけどすごい寂しいこと言ってるよね」

「え、笹倉さんがいるから全然寂しくないよ?」

「嬉しいけどちょーっと違うんだよねー」


 はて、彼女が何を言いたいのか俺にはわからない。

 昔はただ笹倉さんの表情とか思い出しているだけで何も寂しくなかったし、今は笹倉さんが隣にいるから寂しくない。

 つまり笹倉さんさえ存在すれば俺は世界のどこに居ても寂しくないし、笹倉さんが存在するだけで俺は幸せになれる。


「うん、新城くんは幸せものだね」

「おうともさ」


 俺が全く理解していないのを察してか諦めたように言われた言葉に大きく頷いて見せる。

 と、そこで再び呼び鈴が鳴らされる。


「っと、なんにせよ出ないとか」

「無いとは思うけど連盟の刺客かもしれないんだから気をつけてね?」


 任せろと軽く手を上げつつ玄関へと向かう。

 あの場には連盟のほとんどのメンバーが揃っていたがそれでも来なかった者はゼロではないからな。

 一応、開けた瞬間魔法が飛んできてもいいように少し警戒しつつ扉を開けるとそこに居たのは70前後のおじいちゃんだった。

 髪は白髪交じりで皺は深く、体格は中肉中背といったところ。

 目つきは鋭く厳格な人物と思わせるが、それに反して口元に優しげな笑みを浮かべていてそれがその人物が穏やかな気質であることを伺わせる。

 よくよく見れば鋭い目つきに隠された瞳には極めて理性的な光が見えた。

 向こうも俺のことを観察していたようで、目を細めると、


「ほう……お主が愛しい孫を救ってみせた男か……なるほど、凄まじい力を持っておるようだ」


 と、関心したようにそう言うのであった。






 人生山あり谷ありとはよく言ったものだ。

 連盟とのいざこざも解消してこれからは平穏に笹倉さんとの日々を謳歌できるかと思っていたが、まさかの来客である。


「お、お祖父様? きょ、今日はどうしてこちらに?」

「これこれ、由美よ。家族なのだ。そう緊張することも無かろう?」

「そ、それは……」

「ふむ、何故かお前はいつも儂に畏まる。それは今も変わらずか。男を捕まえたと聞いていたからそのあたりも変わったかと期待したがやれやれ残念だの」


 目の前では和気藹々とした家族の会話が繰り広げられていた。

 どうしてこのような状況になったのかといえば、それはつい先程のこと。

 あの後、我が家を突然訪れた笹倉さんのお祖父さんを俺は快く家に入れて案内した。

 それから本人には黙ってもらいつつ、リビングの扉を開いて笹倉さんの背後までいくとトントンと肩を叩いて振り向かせ身振りだけでお祖父さんが来ていると示すと、彼女は驚きのあまりクッションから落ち、それから慌てて正座し始め今に至るわけだ。

 最近じゃめったに見ない笹倉さんの驚く姿と慌てる姿の二つを見れて俺は大いに満足です。

 ありがとう笹倉さんのお祖父様!


「そ、それよりも! どうしてお祖父様がこちらに?」

「うむ。それはこちらの……っと、すまんな。名を聞くのを忘れていた」

「雄二。新城雄二、それが私の名前です」

「雄二か。儂は笹倉茂治(しげはる)と言う。もう分かっておろうがこの子の父方の祖父になる」


 名を聞かれたので丁寧に答えれば、向こうも名前と笹倉さんとの関係を教えてくれる。

 まあ、それは分かりきっていたことですけどね。


「それでな。儂が来たのは雄二、お主にお礼と謝罪を言うためなのだ」

「お礼……は分からないでも無いですけど謝罪とは?」

「それは……ああ、いや。先に礼を言わせてくれ。此度は孫をあやつらから解放してくれて本当にありがとう。儂ではなんとか悪意から守るだけで根本的な解決には至れなかった。今日少し会話しただけでも孫の心に平穏が満ちているのはよくわかるというもの。孫を解放してくれて救ってくれて、本当にありがとう……!」


 笹倉さんのお祖父さん……茂治さんはそう言って頭を床につくほどに下げて感謝の意を伝えてきた。


「お、お祖父様!?」

「……お気持ち、しかと受け取りました。ですから頭をお上げください。これまで笹倉さんを守ってきた人に頭を下げられていたのでは逆に困ってしまいますので」

「ああ……本当にありがとう」


 まさかの行動に笹倉さんが驚くが、礼を言われた俺は極めて真剣にこれを受け止めた。

 彼が一体どれほどの思いで笹倉さんを守ってきたのか、守りきれないことにどれだけ悔しい思いをしたのか。

 それは想像こそすれども完全に理解することは難しい。

 だが、少なくとも彼が笹倉さんを深く愛していたということはハッキリと伝わってきた。

 ならばその礼はしっかりと受け取るのが俺の役目である。


「それから、お祖父さん。謝罪は不要です。こればかりは何と言われても絶対です。私はただ笹倉さんの幸せを望みます。彼女が幸せであるためになら面倒は面倒になりませんし、苦難もまた苦難になりえませんので。ですから謝罪などよりも一緒に彼女が柵から解放されたことを祝いましょう?」


 礼を受け、そのまま先を制して謝罪はさせない。

 彼も笹倉さんの幸せを望み、出来る限りのことをしてきた尊敬すべき人なのだ。

 この人が居たからこそ、あの環境でも笹倉さんは快活でいられたのだろう。

 そんな人に謝罪させるような、愚か者にはなりたくない。


「謝罪よりも共に祝おうと……ハハ……ハッハッハッハ! これはよい。実に気持ちのいい男だの。のう、由美よ。随分といい男を捕まえたではないか」

「え、と?」

「なんと素晴らしい人格の持ち主か。お主なら愛しい孫をきっと幸せにしてくれるだろう。雄二よ、孫をよろしく頼む。これからもこやつを守ってやってくれ。そしてどうか幸せにしてやって欲しい」

「ええ、それはもう。約束しますよ。大好きな人を幸せにするというのは当然のことですから」


 俺の言葉に笑い声を上げたお祖父さんに戸惑う笹倉さんを置いて、俺と彼との間でトントン拍子に話が進む。

 直接の保護者ではないがそれでも発言力高そうなお祖父様から二人の関係の公認を得る。なんと素晴らしい。

 もちろん何か言われても彼女と離れる気など毛頭なかったけれど、やはり円満に解決するに越したことはない。

 これで笹倉さんの両親にはお祖父様経由で話を通しやすくなったといえる。


「なんか、すごい勢いで二人が仲良くなってる……そしてこれは何かの拷問なのかな……」


 その後は笹倉さんの呆然とした呟きを聞きつつも、如何に笹倉さんが可愛いか、愛らしいかをお祖父様と話し込む。

 さすが長年笹倉さんを守り愛してきた相手なだけあって彼女の多くの愛らしいエピソードをお持ちであった。

 俺は目を輝かせつつそんな彼女のエピソードを真剣に傾聴するのであった。

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