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その36

 降伏勧告をした後、後ろから笹倉さんに軽く背中を小突かれる。


「ちょっと、軽すぎない?」

「その方がなんかガチでやりそうな危うさあるかなって」

「んー……あーそれはある……かも?」


 あんな軽い調子で良かったのかと小声で聞かれるが、一応あれも考えあってのことだと説明すれば首を捻りながらも一応納得してくれた。

 まあ、この状況でそんな小芝居が必要だったのかは疑問であるのだが、そこはツッコまれなかったので問題はないのである。

 さて、そんな軽い降伏勧告が凶と出るか吉と出るか。

 彼らにはこれからも異界浄化に励んでもらわなければならないので言葉通りに本気で放つわけにはいかない。故に、ここで断固拒否の態勢を取られた場合は「フッ、見上げた根性だ。それに免じて殺すのは勘弁してやろう」だとかクソ恥ずかしい台詞を言いながら火球を消さなければならない。

 それは嫌だなと思いつつ、反応を窺っていてもなぜだか反応がない。

 攻撃が飛んでくるでもなく、降伏の知らせがくるでもなく静まり返っている。

 一応魔力が壁のように広がっていくのは感じられたが、はたして何をしているのやら。

 徹底抗戦の構えとかじゃないといいが。


 しばらく待って、もう一度勧告したほうがいいのかと首を捻ったところでようやく動きがあった。城からぞろぞろと魔術師たちが出てきてこちらへ向かってくる。

 その足取りは重く、何人かが協力して障壁を作りながらの行進だ。

 やがて、声を多少張り上げれば届く位置まで来ると、一人の男が前に出てきて、大きく口を開いたかと思えば慌てた様子で喉に手を当てる。

 それでもなんとか声を出そうとするのが見えたので、笹倉さんとアイコンタクトで相手の声を聞き取れるようにお願いする。


「……降伏、する……だから……早くそれを……消し……て……」


 そうして聞こえてきたのは酷く掠れた声。

 よく見れば魔術師たちのほとんどがフラフラで、露出した肌が火傷している。


「げっ!」


 っと、これはやばい。

 慌てて火球の属性を火から水へと変化させ弾けさせる。

 するとそれは雨として周囲に降り注ぎ、一帯を冷やしていった。

 状況から察したのだろう笹倉さんも俺が火球を水にするのとほぼ同時に冷たい風を周囲にばらまいていた。

 それで安心したのか魔術師たちが張っていた障壁が消えると、一人、また一人と地面に倒れ伏せていく。

 魔力の反応も各々小さいのでまさかとも思ったが、うめき声を上げつつなんとか立とうともしているから意識はあるようだ。


「……手分けして死んでないか確認しよう」

「そう、だね……」


 数が数なので俺は外に出てきた魔術師を。笹倉さんには城に残っている者ものがいないか、そして死んでいないかを確認してもらう。

 注意しつつ生命探知の魔法を使って、生命反応の無い肉体があったりしないかを確認していけば一応全員生きていた。

 近づいて確認すれば火傷の深度は見た感じ軽度の様子。

 だが、露出していない部分も火傷しててほぼ全身やけどの状態の酷い有様だ。


 笹倉さんも城から戻ってきてその後ろには空中に持ち上げられた魔術師が5人。

 魔力の反応からして笹倉さんが念動力のような魔法で運んでいるようで、こちらも生きているようだ。


「どうだった?」

「うん、調べた限りではこの5人だけ。多分他にはいないと思う。生きてるのも死んでるのもね」

「そっか。こっちも死人はなし。ただどいつもこいつも全身に軽度の火傷があって魔力も体力も著しく消耗してるな」


 おそらくはそれぞれで熱波を防ごうとはしたのだろう。

 だが小型太陽とも言うべき火球が放つ熱波は彼らの想定を遥かに超えており、その分大量の魔力を消費し、おまけに全身に火傷を負ってその痛みに耐えるため体力と気力も消耗したってところか。


「このままじゃ話も進められなさそうだし、火傷も軽度とは言えその範囲が広すぎる……治しておくか」

「なんだか微妙な顔してるね」

「気持ち的には嫌いな奴らだし、正直なんで治さないといけないのかって気持ちはある。でもこう生々しい姿を見るとね……そういう笹倉さんも何とも言えない顔をしてるけど」

「私も積もり積もった恨みは簡単に消せないから。でも人が苦しむ姿を見て喜ぶような人間にはなりたくは、ね」


 俺も笹倉さんも、この惨状に気が滅入っていた。

 辺り一面から火傷の痛みに悶え苦しむ声が響いていて、それなのに皆一様に大きく動かずに耐えている。

 なにせほぼ全身を火傷しているのだ。

 火傷の深さは軽度でもそれだけ広範囲を火傷していては下手に動くと余計痛みに襲われるのだろう。


 ……さっさと治そう。

 魔術師たちの大体中心まで移動して、気合を入れて魔法陣を作り出す。

 あっという間に広がったそれは直径約50m程。

 それで概ね殆どの魔術師が陣の内に収まったが数人捉えきれていない。

 これ以上大きくするのは制御面で厳しいので、それは笹倉さんに運んでもらいいざ魔法を発動する。

 すると魔法陣が淡く緑色の光を放ち、一帯に緑の光が浸透していった。


「これは……」

「痛みが……引いていく……」

「…………」


 それはゆっくりと魔術師たちの火傷を治していき、近くの魔術師たちから歓喜の声が聞こえてくる。

 それから魔術師たちは自身の火傷がすっかり治っていることを確認してふとこちらへ視線を向けてくる。

 その視線に……敵意はない。

 だがなんだか非常に嫌な予感がしてひとまずこいつらの中心から出て、少し離れた場所から様子を伺う。

 隣に笹倉さんも来るが、彼女も何かを感じてか非常に嫌そうな表情をしている。


「ああ……なんと恐ろしく、なんと慈悲深い……」

「私たちはこのようなものに歯向かったのか……」

「俺は……なんて愚かだったのか」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

「ハ、ハハッ……生きてる! 生かされた! ハ、ハハハハハッハッ!」

「うぅ……ひっぐ……うぇ……」

「……!」


 しばし様子を窺っていると、魔術師たちはそれぞれに行動を取りはじめた。


 両手を組み、涙を流し気持ち悪いほどに目を輝かして見てくる者。

 恐れを含んだ目で見てくる者。

 何が起こったのか何をしたのかを理解し呆然とする者。

 壊れたように謝り平伏する者。

 天を仰ぎ、笑う者。

 ひたすらに嗚咽を漏らして泣いている者。


 などなど、それぞれの取った行動は様々だ。

 だが行動の違いはあれど、共通してそこにあるのは生への喜びと、俺たちに対する畏怖であろう。

 どうやら先程の小さい太陽は彼らに取ってよほどの衝撃を与えていたらしい。


「なに、この……カルト?」

「これは……いろいろな意味で関わりたくないよ……」


 そんな魔術師たちの状況に俺も笹倉さんも盛大に顔を顰めて引いていた。

 まさかこんな状況になるなんて思っても見なかった。

 戦って相手のプライドを折るつもりではあったけど、精神まで壊すつもりは無かったのだが。


「どうする、これ」

「どうしようか、ホントに」


 笹倉さんと顔を合わせて途方に暮れる。

 本当にこれ、どうしたらいいのだろう……。

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