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その29

 さて、部屋を出たからといって別にソファで寝ようっていうわけではない。

 同じ部屋でと持ちかけられたのだから、今日は同じ部屋で寝ることはもはや決定事項だ。

 それを曲げるつもりは毛頭ない。


 じゃあ何のために起きたのかと言えばちょっとした作業のためだ。

 幸せ過ぎる状況に心が追っつかないため、ひとまずそれをを解決するために作りたいものがある。

 幸い布団に入ったのはかなり早い時間で、時計を見れば現在時刻は21時を少し過ぎたくらい。

 これいくらなんでも早すぎる気がするけど、笹倉さん相当疲れてたんだな。

 それに気づけなかったとかちょっと反省。

 ま、それは後にして時間は十分にあるし作業に入ろう。


『おう、撮ってきたぞ』

『つか、その状況で一時撤退とか贅沢すぎ……ヘタレめ』

(うるせえ、お前らもいざ時が来れば同じ反応をするだろうさ)


 そんなわけでエージたちにも資料提供の面で協力してもらいつつも作業中暇なので適当にテレパシーで雑談を交わす。

 人のことをヘタレ呼ばわりするけれどもお前らだって元は俺。

 きっと同じ反応になるだろう。


『確かにそうかも……でもなあ元は一緒でも、なんていうかアレだアレ』

『経験は違うんだから、反応が違っても不思議は無い』

『そうそう! それよ、俺が言いたかったのも』

(ああー……その可能性はあるか)


 何だか歯切れの悪いエージの言いたいことをズバリ言い当てたビージになるほどと、俺も頷く。

 言われてみれば元は一緒で性格も一致しているとはいえ、それぞれの経験は全く別物である。

 ならばその経験の差異の分だけ物事への反応も変わってもおかしくはないと、俺は撮ってきてもらった写真をパソコンへ移しながらも納得し、必要な画像だけを表示するため少々そちらに集中して口を閉ざす。

 


『まあ、雄二はここ三日での急展開だろ? つまり、その分心の準備時間が無かったってことで仕方ないかもしれんね』

『その点、俺なんかはユナ様とじっくり心を通わせてきたからな。いざその時が来ても逃げたりはしないぜ』


 俺が黙ったから気でも回したのかエージが慰めの言葉をかけてきた。

 だが、そのエージの言葉にビージが自分のことだけ持ち上げるような発言を被せてくる。


『おや? ビージさんや、それは未だ恋人にもなれない俺に対する当て付けか?』

『いやいやいやーそーんなことなーいよっ、ぐぅ……!!』

『お、その反応は……ナイス雄二』

(なんかいらっとしたのでついやった。後悔はしていない)


 どこかわざとらしい反応を返すビージに尿便意コントロールを使って黙らせてエージとハイタッチする。

 もちろんハイタッチはイメージだ。

 そんなことをしている間にも画像表示の調整は終わり、三つの画像がパソコンの画面いっぱいに表示されている。


『……ったく、ちょっとした冗談なのに』

(だからブツはなしの一瞬だけの便意に抑えただろ?)


 それを見ながら作業を進めつつ俺とエージが仲間意識を固めているとすぐに復活したビージから文句が飛んでくるが本気で言っているわけではないことは知っている。

 ここまでのやりとりは全部仕組まれた茶番みたいなもんだしな。


『にしてもやっぱり勿体無いよな。そんなおいしい状況から逃げるとか』

『喜んでその幸せを謳歌すればいいのに、とは思うわな。まあ、実際隣で大好きな人が寝てる姿ってすげえ心臓に悪いってのは俺も実感したことだけど』

『俺も最初の日はすごいドキドキしたなあ……ルミナスちゃん睡眠必要なくてすぐにドキドキは消えちゃったけど』

(うわあ……なんだかんだでエージが一番難易度高い感じ?)


 なんだか聞けば聞くほどエージが不憫に感じられるな。

 やはり種族の壁というのは大きいものなのだろう。

 少しエージには優しくしてあげよう。


『なんだかんだで一番順調な雄二が羨ましい』

『エージは種族の壁、俺は魔王をぶち殺すまでおあずけ。まさかこんな展開になるとは思わなかった』

(まあ俺自身、驚いてるよ)


 特にここ三日は展開が早すぎてやばい。

 それも今やってるこれが完成すれば一応多少の余裕ができるとは思うが。


(ところで魔王倒せばビージはもうあれなんだろ? それなりに強くなってると思うんだがまだ倒せないのか?)

『魔王がどれほど強いのかがわからんからな。実際に見たことがある人もいるけど50年前の記憶だし……そもそもユナ様にもまだ勝てねえのにって感じ?』

『ずっと思ってたんだが、ユナ様って本当に人間か?』

『普通に人間の美少女様だぞ。世界最強ってだけで。おまけに今なお強くなり続けてて、こちとら神の加護で成長補正あるのにユナ様に全然追いつけないでやんの』


 世界最強って時点でもう普通ではないと思う。

 それにしてもユナ様マジやばいな。

 成長補正スキルは俺も授業とかで恩恵を受けているが、その効力は本当に強力だ。

 そのスキルを持ってしても追いつけない成長速度とかユナ様本当に武の天才なんだな。

 戦闘でバーサーカーになるのはその成長速度の代償なのだろうか。

 あるいは成長してるのは勘違いでビージの成長速度を持ってしてもなかなか追いつけない程の遥かなる高みにいるだけという可能性もある。

 それはそれでやばいけどね。

 以前聞いた話だともうユナ様としか訓練にならないとか言ってたから他の実力者との力量差どんだけだって話である。


(そう言えば昨日笹倉さんに壁ドンされたんだけどさ)

『された?』

『したのではなく?』

(された。とても激しい壁ドンをされた。でな……)


 ユナ様の強さに想いをはせているとふと思い出したことがあったのでそれを切り出してみる。

 すると予想通りの反応が返ってきたのでされたことを念押ししつつ詳細を説明していった。


『……え、まじで?』

『認識できない速さで動いたの? 笹倉さんが?』

(笹倉さん相手だから戦闘用に意識を切り替えてなかったのはあるかもだけどな)


 あの壁ドンの瞬間、俺はいつ笹倉さんが距離を詰めたのか分からなかったし、壁に叩きつけられるまで吹き飛ばされたことに気づけなかった。

 恐らく肉体強化魔法によるものなのだろうけど、それにしたって凄まじい。

 確かに魔術師として相当な実力を持っているのだろうとは思っていたけどあれほどとは思わなかった。

 それで結局何が言いたかったかと言えば。


(女の子って考えていた以上に強いな)

『……そうだな。ルミナスちゃんも集団で召喚して能力付与しちゃうしな』

『普通こういうときの強いって心の強さとかそういうことを言うところなんだろうけど……単純に強いよな』


 それぞれの神が秘める想定外な強さを改めて認識しいろいろと考え、それに比べて俺はと、現状にヘタレて逃げた自分が一気に情けなく感じてしまう。

 だからといって緊張と興奮と幸福に突然耐えられるようになるということはなく、完成したコレにしばらくは縋る必要があるだろう。


(じゃ、ひとまず目的のやつは完成したし、寝るわ。魔法薬貰ってくぞ)

『あいよ』

『俺もルミナスちゃんとそうなれるようもっと頑張るか』


 作業も終わり、話も一応の区切りがついたところで夜のテレパシー雑談会を終える。

 とりあえず今日は相部屋で寝るつもりなので部屋に戻ると、俺はビージの世界にある強力な眠りの魔法が籠められた魔法薬を服用して布団に入る。

 その後は数分ほど笹倉さんの可憐で優雅で美しい至高の寝顔を眺めていたが、やがて抗えぬ眠気にまぶたが重くなってきた。

 ……あれ最初からこれ飲めばよかったんじゃ、と思いつつ俺は夢の世界へと旅立つのであった。

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