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その28

 そんなこんなで笹倉さんとの同棲生活初夜。

 俺が住むこのアパートは学生が住むには少々贅沢な1LKの部屋なので笹倉さんにはプライベートを確保できる個室で寝てもらい、俺はリビングのソファで寝る予定……だったのだが、笹倉さんの強い要望で同じ部屋に布団を敷いて寝ることとなった。尚、布団は異世界の王族御用達のものを拝借した。

 初夜で同じ部屋で寝るとかいよいよもっていかがわしい気がするが、特に何事もなく笹倉さんは早々に眠りにつき俺は夜の時間を独り占めだ。

 正直期待してなかったといえば嘘になり残念ではある。

 だが、同じくらいに安心してしまった俺がいて複雑な心境だ。


 というか緊張して眠れないのだが、よく笹倉さんはあっさり眠れたもんだなと感心する。

 いろいろ空回りしたり、我が家に着いてからの荷解きでクタクタになったからというのはあるだろうけど、家族でもない男と二人きりな状況でいくらなんでも無警戒すぎる。

 とりあえず自身に契約魔法を用いて同意なく襲ったりしないと制約を設けることで俺は理性を保っていた。

 そんなことしなくても彼女を傷つけるような真似をするわけないのだが、念には念を入れるのは当然だろう。


 チラリと横を見れば笹倉さんの寝顔がある。

 小さく寝息も聞こえてくるし、ゆっくり上下する布団の動きすらも俺を惑わす危険な光景だ。

 ああ、なんと幸せで心臓に悪い状況か。


(一体どうしたらいいんだ!)

『死ね』

『右に同じ』


 緊張して眠れないので軽く状況を説明してエージとビージに相談すれば、なんだか酷く短い言葉の祝福の言葉を頂いた。

 やれやれ、流石に三度目はないと爆音テレパシーは控えたのになんとまあ酷い扱い。

 まあ、そんな反応も実のところ予想はしていたのだが。


 報告によれば、悪魔であるルミナスちゃんを神に崇めるエージは当初こそ奇抜な能力の要求から気に入られ、共に行動を取るようになったがそこからなかなか進められていないらしい。

 一緒に行動し笑いもするし、軽いスキンシップなんかも取ったりするがそれでも恋人のような関係にはなかなか進めず、そもそもルミナスちゃんは悪魔であり価値観が違いすぎて恋人であったり夫婦であったり、そういう関係になる必要性だとか求める感情を理解していないようだ。

 それでも食べたものに毒があって苦しんでるところをずっと看病してもらったり、無事快復したときは心から安心した様子を見せたりと、ところどころ情を覗かせる面もあってゆっくりと信仰(親交)は深めているらしいが。


 一方、勇者として召喚された初日からお姫様を嫁に頂いていたビージはといえば、こちらは関係こそ一気に縮め、その後も順調に愛を育んではいたのだがどうにもこうにも生殺しの状況にあるようだ。

 なにせユナ様はあちらの世界では最強の実力者。

 魔王を相手にできる貴重な戦力であり、結果子作りはご法度であった。

 ビージとしてはユナ様には安全な場所にいて欲しく、実際それをいったそうだが、


「王族として、この世界に住まう者として、異世界から呼びだした勇者(あなた)に全て押し付けて安穏と暮らそうなど思いません。共に戦い一緒に死ぬか、共に事を成し一緒に生きるか。二つに一つ、その先にしか私の幸せはありませんよ?」


 と、一蹴されたらしい。

 ただ否定するだけでなく、神の幸せこそ絶対という俺たちの信条を持ち出されればビージもそれに頷くほかなかったようだ。

 結果ビージは魔王を何とかするまで純潔なままである。


 そんな状況なのに、この三日で怒涛の勢いで話が進み、同棲する段階にまで来た俺のことを嫉妬するの仕方のないこと。

 寛大な俺は二人の言葉を広い心で受け止めてやるのだ。


 しかし、そうか。

 考えてみれば今の状況は本当にそういうこと(・・・・・・)になる可能性はかなり高い。

 俺は笹倉さんが好きで、彼女も俺に好意を抱いてくれていて、それは同じ部屋で寝る事を望む程のものなのだ。

 もしかしたら頼めばあっさり、なんてことだってあり得ると思う。

 何だか一気に攻めに転じた笹倉さんの様子を思えば、逆に求めてくることすらあり得るのではないか。


 仮に笹倉さんにそういうことを求められたら……俺は正気を保てるか?

 正直、自信は全くないし最悪喜びの感情が振り切って気絶する可能性すらある。

 事実、土曜日に家に来て私を貰ってと言った笹倉さんのあまりのかわいさと喜びから気絶した過去があるのだ。

 つい二日前のことなのだからそれはもう鮮明にあの時の事は覚えている。

 頬を赤く染めた笹倉さん……滑らかで暖かくてとても柔らかい太もも……体温……いや、今それは思い出すことではないか。

 あれ以降は喜びで気絶したりはしていないが、意識が飛びそうにはなっていたことを考えると少々不安だ。

 求められて気絶してしまえば、一気に冷めて愛想をつかされてしまいかねない。それだけは避けねば。


 うーむ考えてたら余計に眠れん。

 要するに俺はどうしたいのだろう。

 ……この際、ハッキリとオブラートに包まずに自分の気持ちの正直なところを心の中で宣言してみるか。


(せっかく笹倉さんと恋人になれたのだからぶっちゃけえっちなことしたいな)

『『念話でそういう生々しいこと言うのやめろ』』


 おっと、うっかりエージたちに宣言してしまった。

 それはさておき、こうして改めて俺の欲望を宣言してみれば俺の望みは極めて単純だ。

 ずっと笹倉さんのことが大好きで、恋人になれたのだからそれも当然だろう。

 だからこそ笹倉さんに対して抱くこの欲望になんら恥じることはない!

 とはいえそれを馬鹿正直に実行したらドン引きだろうし何より傷つける可能性が大きい。まずはムードを作ってそれから……って完全に煩悩が溢れ出ているな俺。


 やはりどこか冷静ではないようだ。

 ひとまず同室で寝るのはやっぱりやめよう。

 このままでは悶々として精神的に死ぬ。

 とはいえ笹倉さんから要望されての相部屋なので、今別室に行くと目覚めたときに傷つけてしまうかもしれない。

 だから明日の朝に相談してからだ。

 決してこの瞬間を楽しみたいわけではなく、あくまでも傷つけないためである。

 そう言い聞かせて目をつむり眠ろうとする。


「新城……くん……」

「っ……!」


 眠ろうとしたところに聞こえてきた小さな声に思わず声が出そうになった。

 チラリと確認してみれば、起きた様子はなく口元には軽く笑みが浮かんでいる。

 先程の声は寝言だったらしい。

 笹倉さんの安眠を妨げなかったことに安心し、俺は今度こそ眠ろうとした……のだが。


「好き……だよ……」


 んんっ! 無理!

 寝言でそんなこと言われたら普通に眠るの無理!

 一旦、部屋を出て心を落ち着かせなければ。そうしなければ。

 いや、落ち着け俺、慌てずゆっくりと、笹倉さんの眠りを妨げないように布団を抜け出して……ん?


「……気のせい、か?」


 部屋を出ようとしてふと視線を感じた気がして振り向くが、笹倉さんは静かな寝息を立てていて何もおかしなところは見当たらない。

 しばらく部屋の様子を伺うも異変も見当たらないので、変に緊張して錯覚を起こしたのだろうと肩を竦めて俺は部屋を出るのだった。

???「……ヘタレ」

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