その2
あれから電車は予定通りの時間で学校最寄り駅へと到着し、道中でも異世界に召喚されることもなく無事学校へとたどり着いた。
「俺も異世界に行ってみたかったな……」
見慣れた校舎を見上げながら小さく呟いてため息を吐く。
まあ、過ぎたことは気にしてもしょうがないし、どういうわけか異世界にいった俺の状況を知ることができるようだしそれで我慢しておこう。
そう考えて気持ちを入れ替えると校舎の中へと進み下駄箱で靴を履き替えて教室へと向かった。
「ん……?」
教室にたどり着き、扉を開けたのだがなにやらその教室の景色に違和感を覚えた。
なにかがいつもと違うような……と考えて気付く。
机と椅子が少なくなっているようだ。
今日は特別な行事はなかったはずだが……。
「なあ、俺の席ってどこだっけ?」
「は? あんたの席はあっこでしょ? 馬鹿じゃないの?」
「はは……どうも」
「ちっ」
俺の席がどこなのかも分からなかったから近くにいた携帯を弄ってるギャルっぽい女子に聞いてみれば辛辣な言葉で教えてくれた。
適当に誤魔化しつつ礼を言えば舌打ちされる。
泣きたい。
でも、彼女はなんだかんだで俺の席の場所を教えてくれたってことはクラスメートとして認識してはくれているようだ。
そんなことを考えながら俺は告げられた席へと向かう。
告げられた席は俺が普段座っていたところよりも二つ分ほど前の位置にあったが、なるほど。よく見慣れた机だし全体的に席が少なくなっているから、配置的には窓際一番後ろのままである。
不思議に思いつつも席に座るとどういうことなのか考え始める。
どうも、この状況にクラスメートたちはなんの違和感も覚えていないらしい。
この様子だと消えた席の数だけクラスメートも消えてそうだ。
じゃあどうして消えたのかって話だが、幸いにも俺には心当たりがある。なんせ俺は二つの異世界に召喚されながらも取り残された人間だ。
ようするにあの時、クラスメートが同じ車両にいたのだろう。
で、この世界から消えてしまった人たちについては不可思議な修正が働いて誰も疑問に思わないようになってるとかそんなところか。
とりあえず、この事を伝えておくか。
(集団転移した俺へ。クラスメートが何人か混じってるっぽい)
『その声は日本の俺か? で、そのクラスメートって笹倉さんだったりする? だったら俺超頑張るんだけど』
(いや、笹倉さんは相変わらず天使の笑みを浮かべて友達と談笑してて、相変わらず俺を癒してくれてるぞ)
『ちぇ、じゃあそこまで気にしなくていいか』
集団転移した俺の言葉に教室を見渡して、件の人を見つけて報告すれば少々ガッカリした様子の返事。
なんとも俺らしい反応だな。
実際、消えたクラスメートを確認してみたが特に仲のいいやつもいなかったし、消えた奴らは総じて常日頃から異世界に行きたいと騒いでた奴らだから問題なかろう。
尚、女子で転移したものはいないようでこのクラスの男女比が3対7ぐらいの割合で女子が多くなっていた。
『あっ日本の俺に聞きたいんだけど、今教室ってことはあのあと電車は何事もなかったのか?』
(うん? 普通になんもなかったけど。強いていうならがらがらの車内に乗り込んできた客が驚いたくらいだ)
『そっか、じゃあやっぱり自称神の言ってたことは大嘘じゃねえか』
嘘?
電車がどうたらってのを考えると……。
(あなた方の乗っていた電車は不幸な事故でほにゃらららみたいな?)
『流石俺! まさにその通りで、死ぬはずだったあなたたちを助けてあげます、だとか恩着せがましく言ってたぜ。よっしこれをネタにちょっと脅は……お願いしてみよっと』
(それ、大丈夫? 殺されるパターンだろ)
『ああ、さっき勇者の俺と話してたんだが、どうやらオリジナルは日本の俺で、異世界にいる俺たちは所謂分身体らしい。ようするに日本の俺さえ生きてればなんか問題ないとか』
はあ?
(どういうことだ?)
『それには勇者である俺が答えよう。あれから俺は色々説明を受けてな。まあ、お約束的にあったわけだよ、あれが』
あれ、といえば。
(ステータス確認か)
『さす俺! で、それで確認したところ俺は分身体でオリジナルが日本のお前だってことが分かった。それを理解させられても「へー、ふーん」ぐらいにしか思わなくて、別に何の忌避感も抱かなかったっていうのがその情報をすんなり信じた理由だな』
なるほど。
自分が自覚もないのに分身体なんて言われたら普通は驚く……いや、どうだろう。
(仮に実はあなたはコピーでオリジナルじゃないんですとか言われても軽く流しそうなんだけど)
『……いや、うん。同じ俺だからその気持ちは分かる。まあ、そんな性格な俺たちだから結局誰がオリジナルでもいいんだけど概念的には日本の俺がオリジナルっぽいからそういうことで』
なんて軽いやつなんだ。
オリジナルかそうでないかってかなりの重要事項だろ。
ほらクローンを取り扱う映画でも俺が本物だ、いやいや俺がって争うのが定番だぞ?
(おら、本物は俺だって喚き立てろよ)
『え、やだよ面倒くさい』
『勇者の俺に同じ』
(かーっ! こちとらオリジナルだってのに一人日本なんだぞ!? 少しはクローンSF映画みたいな体験させろよ!)
あれだけ期待煽る魔法陣を見せられて日本に取り残された俺の気持ちが分かるか?
どれだけショックだったことか。
『まあ、そんなわけでなんか俺ら必死に生き足掻く必要性を感じないからさ、適当にやろうってわけよ』
『俺は勇者っぽいから多少まじめにやるけどな』
(まあ、そうだなあ。つーか死ぬかもしれないことの忌避感とかないの? オリジナルが俺とはいっても俺が操作してるわけじゃないんだし)
『『全くこれっぽっちも』』
俺の嘆きはスルーされ、仕方なく二人の話を聞いてふと思った疑問を投げかければ、声を揃えて返ってきた異世界組の言葉に、俺もああこいつら分身だわって納得できた。
さすがの俺も死は怖いし。
そして同時にやっぱり俺なんだなとも思う。
死に対する恐怖とかなければふざけた事したり、ネタに走ったりとそういうやつだよ俺は。
(で、いい加減日本の俺だとかなんとか面倒じゃね?)
『超面倒』
『面倒だけどなんとなく誰が誰に言ってるのか分かる不思議』
そう、こうしてテレパシー会話にも慣れてきてなんとなくどの発言がどの俺なのかは分かるようになってきていた。
だが、それでも◯◯の俺だとか◯◯した方の雄二だとか面倒である。
何か呼称を考えたいところだが、いくらオリジナルが俺だってことは全員納得していてもこの辺りはなかなか決まらないかもしれない。
だが、流石俺の分身体なだけあって、
『じゃあ集団転移した俺は雄二Aってことでエージ』
『じゃあ勇者な俺はビージだな』
と、あっさり決まった。
(ふむ。となると俺はシージか)
『『お前は普通に雄二でいいだろ!!』』
なんとなく流れに乗ってみたら期待通りのツッコミをされて嬉しい。
エージもビージも俺だから求めているものを把握しているからな。
でも、これ自分のボケに自分でツッコミを入れるのと同じじゃ……いや、やめよう。世の中考えてはいけないことはたくさんある。
『っと、そろそろ脅迫してくるからテレパシー切っとくわ』
『俺もそろそろ活動するか』
と、そんな感じでエージもビージも向こうの世界で動こうとしているらしい。
つーか、エージの方普通に脅迫って言い切りやがった。
俺の方もそろそろ朝礼の時間なのでテレパシー会議を打ち切ることにする。
ちなみに、意識すれば無駄にビジョンが混ざったり声が漏れたりとかはしないようだ。
なので、朝礼での連絡もその後の授業もちゃんと集中して聞くことができて少しホッとした。
割りとこういうところは真面目なタイプなのよね、俺。