その13
その後、どんな魔法が使えるのか適当に抜き出して説明していった。
なにせ三人で分担して作ってるから結構使える魔法の数が多いからいちいち全部説明はしていられないのだ。
いや、別にすればするだけ笹倉さんとの会話を続けられるのだからしてもいいんだが、それで笹倉さんを退屈させてしまったら本末転倒なので程々に自重した次第である。
中には本当に何の役にも立たない、作れるから作った魔法とかもあるし。
納豆の臭いを再現する魔法とかね。
「――まあ、とりあえず分かりやすいところだとこんな感じかな?」
「すごいんだね、新城くんって……ごめん、ちょっと整理するね」
俺の話を聞き終わりそう感心したように告げると手を前で組み、そこにおでこを載せて何か考え込む様子を見せる。
確かにそれは一見俺の話を必死に整理しているようにも見えるが、なんとなくそれは違うと感じた。
いや整理しているのは嘘ではないが、同時に何か別のことを考えているといったところか。
その考えていることが何なのか一応一つ当たりをつけている。
「さて。とりあえず大体の俺の力は分かったんじゃないかな? 掃除魔法だとかを見せた時の反応から察するに及第点は貰えたんじゃないかなって思うんだけど」
「……何のことかな?」
だから考えこむ笹倉さんを見てそろそろいいだろうとその予想に従って切り出したのだが、彼女は一瞬言葉を詰まらせつつもすぐに首を傾げて知らんぷりをする。
どうやらビンゴだったらしい。
まさか俺に気づかれるとは思わなかったのだろう、とぼけるには少々稚拙な演技だった。
「どうもね。エージやビージが好きになった相手の特徴を考えると俺は内に黒いものを抱えているような、そんな女の子が好みらしいんだ」
「へえーそれで私もそうだって? 考えすぎだよ」
それからそんなことを言ってみれば、今度は俺がそういう冗談を言っていると思っている女の子をうまく演じて自然な笑みを浮かべているが、目が全く笑っていないのがはっきりと分かる。
こういう笹倉さんも可愛いなあ。
「あの日……」
「あの日って?」
「俺が人ならざる力を見せた体力テストの日。俺に魔術師だったんだと問い詰めてきた時は人が変わったみたいに冷たい目をしてた。あれはちょっと意識してできる目じゃないと思う。すぐに嘘探知の魔法を使って尋問するのも手慣れてたし、考えこむ姿はいつものほんわかとした笹倉さんとは完全に違ってたし」
「……」
そんなことを考えつつも話を続けていくと次第に笹倉さんの目が鋭くなってきた。
その反応が俺の考えを裏付けとなるので、俺は構わず語り続ける。
「俺が少々強引に迫って友だちになった割にはマメにメールもくれたし、流石にちょっと怪しいなってこの五日間考えてた。一人じゃ気にならなかったかもだけど幸い俺にはエージとビージっていう相談相手がいたからな。あいつら、腹黒美人との付き合いで言えば俺より経験豊富だから実は笹倉さんには何か裏の考えがあるんじゃないかって示唆してくれたのさ。確信したのは今朝俺の家に来たことだけどね。笹倉さんに住んでる場所は言ってないし、携帯のプロフィールにも住所は書いてないから何らかの手段を用いて探ったってことでしょ? だから、そういう計略を考えられる人なんだって納得したんだ」
そう言って俺はこの後どう動くかなと笹倉さんの様子を伺う。
既に笑みは無く、鋭い目でこちらを睨んでいる。
普段のほんわかとした笹倉さんとは思えないその姿に俺は興奮する。
大好きな人の隠された一面を知ることが出来たのだからそれも無理はなかろう。
眼福、眼福。
貴重な笹倉さんの姿を写真に収めたいところだが流石に我慢だ。
やがて、笹倉さんの目付きがふっと緩む。
どこか愉快なものを見るようなそんな笑みで、
「はあー、まさか新城くんがこんなに洞察力に優れていたなんて思わなかったな」
と、大変失礼なことを言ってきた。
「まさかとは失礼な。まるで鷹のように鋭い目をしているだろう?」
「それは無いよ。新城くんは動物で例えるならナマケモノかな、ははっ」
一応抗議すれば、さらに酷い言い草が返ってきた。
おまけに何かツボに嵌ったのか笑い始める始末。
でも笹倉さんが楽しそうに笑っているから俺はナマケモノでも構わないかな。
「それで? 新城くんは私の本当の姿を暴いて何をして欲しいのかな?」
ひとしきり笑って、一息ついた笹倉さんがどこか観念したように頬杖をついてそんなことを聞いてきた。
何を思ってそんなことを聞いてきたのかわからないが聞かれたからには正直に答えよう。
「別に何も」
「ええ?」
俺の返答に笹倉さんは困惑した様子だ。
「強いて言えば彼女になってほしいけどそれは笹倉さんがそうなりたいと思ってくれたらの話だから」
「ほんとに? 散々人の本性暴いて、あんな力を見せつけて来たのに何もないの?」
「本性っていうか別の一面でしょ。普段のほんわか笹倉さんもあれはあれで本性だと思うし。俺が笹倉さんについて語ったのは、事情はそれなりに察しているから気楽にしていいよーっていう気遣いだったんだけど」
「……新城くんって実は結構バカなんじゃない?」
俺の言葉を何度も確認してしばらく信じられないものを見るような目で俺を見たかと思うと、笹倉さんはふっと我に返り呆れた顔で的はずれな疑問を投げかけてきた。
俺がバカだって?
流石に笹倉さんの言葉でも見当違いすぎて笑ってしまう。
俺がバカとかありえない。むしろ俺はまれに見る天才だと自負している。
だが、なんとなく下手に反論するのは良くない気がしたので返事は肩を竦めるだけにしておいた。
「でさ。話を戻すけど、どうだったかな? 俺の力は及第点は貰えた? 笹倉さんにとって俺は利用するに値すると評価されてたら嬉しいんだけど」
「……まるで利用されたいって言っているように聞こえるんだけど」
「え、されたいよ? だってそれって言いかえれば笹倉さんに必要とされるってことだから。俺は笹倉さんの力になりたい。だって笹倉さんのことが大好きだから」
それこそ当然のことで、大好きな笹倉さんに頼まれれば大概のことはやってみせる。それは確認されるとこっちが困惑してしまうぐらいに当たり前なことだ。
誰だって大好きな人のためならそういう覚悟は持っているものだと思う。
だというのに、笹倉さんは呆然としていた。
「……ふ、ふふっ」
しばらく呆然としていた笹倉さんは突然吹き出してお腹を抑えながら大きく笑い声をあげる。
笑いすぎてその目の端には涙の粒が浮かんでいるが彼女はそのまま笑い続けて悶えていた。
そうして、たっぷりと笑ってなんとか落ち着いてきたのか大きく息を吐きながらようやく体を持ち上げて、こちらをジッと見つめてくる。
「……ねえ、新城くん。私の話も聞いてくれるかな?」
「もちろん」
何か彼女の中で決心がついたのだろう、酷く真剣な様子で話を聞いてほしいと告げてきた。
当然、それを断るわけもなくすぐに返事をして俺は笹倉さんの話を真剣に聞く体勢を取る。
それを受けて、それじゃあと前置きして笹倉さんは語りはじめた。