記憶をなくした青年
ちょっと調子も戻って来たという事で4作目!!
新しく、久しぶりにオリジナルを書いてみました。
今後の活動のためにも、ぜひ感想などあったらtwitter→@kesigom00997738かこのサイトまで!
宜しくお願い致します^^
彼が自ら命を絶ってから一ヶ月。
いまだに指ひとつ動かさず私はただただ日に日に痩せ細っていく彼の姿を呆然と眺めていた。
彼の喉には人工的に呼吸ができなくなったために呼吸器がつけられていて、そのせいで彼は苦しそうな表情をしながら目を固く閉じていた。
「まだ、起きないの?」
私が訪ねても彼はビクともしない。ただ、生きていると確認できる機械が波打つだけだ。静かな空間は彼を着々と死に追い込んで、私は何度もその場から離れてドアの近くで荒い息をしながらしゃがみこんだ。
息苦しい空間。病院の廊下は狭く、少し薄暗い。
私は冷たい廊下にしゃがみこむと声を殺して嗚咽を漏らした。目が赤く腫れて、涙は止まらず、まるでひねったままの水道の蛇口のようにぽたぽたと私の頬を大量の液体が流れ落ちた。
彼はいつになったら目を覚ましてくれるのだろう。泣いている私よりも彼のほうがずっと辛くて苦しいのに、まるで私自身が悲劇の主人公のように泣きじゃくっている。
涙も出さず、苦しそうに目をつぶっている彼とは大違いだ。
やっと止まった涙を拭って、また彼のいる病室のドアを開ける。
―――彼の元に行きたい。目を開けて苦しくても笑って話しかけてくれる彼に。
叶いもしない欲望に胸に刃物が突き刺さったように痛く、彼の寝ている病室の窓ガラスに写る、自分のつかれきった顔にいっそのことすべて投げ出してしまえたらいいのにと思った。
彼を見る。
まだ、彼の目は閉じたままだ。
いつになったら、楽になれるのだろう。
彼のことを忘れて、笑えるのだろう。
きっと、全部彼のせいだ。
全部、全部彼のせいでこうなったのだ。
―――彼のところにつれてって。
私は、静寂と孤独から作り出されたもう一人の私にそっと静かに問いかけた。
いつの間に、寝てしまったのだろう。真っ白な世界にぽつんと取り残された私がいた。足はいつの間にか裸足になっていて、いつもより体が軽い。
歩き出すと、それは宙に浮いたかのようにふわふわとしていて少し心地よかった。
歩き続けると、一人の男の人の後姿が見えた。
その人の名前を私はいつの間にか叫んでいて、私はその姿が誰なのかすぐに分かった。
少し、苦しそうに彼が笑う。その姿で涙が出そうになる。
「佐伯君?」
私は、まるで泣き笑いをしているかのような表情になって彼にもう一度問いかけた。
でも、なぜか返事がない。まるで何もない空間に精一杯の声で話しかけているのにその声は空回ったように響く。
もう一度、彼の名前を呼んでも、彼は笑い掛けるだけで私の名前さえも呼んでくれない。
恐る恐る近づいて、恐怖に襲われながらも私は彼のほうに近づいた。
世界は本当に真っ白で、なにもない。まるでその世界だけはみ出してしまったかのようにシーンと静まり返った静寂が続くだけだった。
「佐伯君。。。」
もう一度、名前を呼んでも彼は笑うだけ。冷たくて、じんわりと広がった感情は私の体を縛り付けるように彼に近づく歩みを止めようとする。
歩く感覚が薄れていき、私は怖さのため立ち止った。息を荒くしてしゃがみこむ。息ができなくて、私の目からはまた止まらない涙の滴が頬を流れた。
彼に見せつけて困らせよう。
そうしたらきっと彼は私に反応してくれる。そう思って大げさにもがいて見せた。
静寂な空間に私の泣く声が響き渡る。今、目の前に彼がいるのにまるで彼は存在していないんじゃないかって思ってしまう。響き渡る私の涙声にだんだんと近づいてくる足音が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
彼の声。かすれた優しい声。
私は、そんな彼の声に不安が徐々に薄れていくのがわかった。久しぶりに感じて、私は泣きわめいてぐちゃぐちゃになった顔を彼に向ける。涙は止まっていて乾ききって、目は擦ったためにひりひり痛かった。
彼にどんなことを話しかけよう。ここは、もしかしたら彼の心の中なのかもしれない。この真っ白な世界は誰も必要としない彼の心の現れなのではないだろうか。そう思うと少し怖くなった。
彼を見る。
彼の瞳は真っ暗で光り一つ見当たらない。彼の着ている白いシャツの袖は赤く汚れていてそれが彼の血だということを理解するまで時間がかかった。
「ねぇ―――」
私は、彼に問いかける。
戻ってきて―――。
そんな言葉を言おうとした時、彼が口を開いた。
「すいません。どちら様かわからないですが、僕の知り合いですか?」
時間が無理やり止まったかのように感じる。いや、本当は時間なんてこの世界には存在しない。私は夢を見ていて、もしかしたら彼のそばで寝てしまっているかもしれない。
私の心臓をえぐるように発した彼の声に、私は耳をふさぎたい気持ちでいっぱいだった。
彼は、私のことを忘れてしまったのだろうか。そしたら彼を現実に戻す方法がなくなるじゃないか。どすることもできない現実を突きつけられ、私は足の力が入らず立つことができなくなっていた。
最後まで読んでいただいて嬉しいかぎりです!!