プロローグ
「ねぇー どうすんのー?」
横から間延びした呑気な声がしているが朝霧透こと俺はその声を完全無視していた。
「早くしてよー。こっちもずっと君の相手をしてる時間なんてないんだからさー」
「うるさいな!こっちは人生最大の決断をするところなんだから黙っていてくれよ!」
そして俺にずっと話しかけてきているこの声の主(幼女)はなんと神なのである。まぁいわゆるロリババアってやつだ。
「むっ!君、今失礼なこと考えていたね!」
「いいや、まったく。歳を化粧で誤魔化しているちっちゃいおばさんなんて全く思っていませんから。」
「それがそうなんだよ!もう、まったく君はこんな可愛いレディーのことをなんだと思っているんだよぉ。」
「プッ」
「笑ったな!それじゃあ君もうゴキ〇リで決定でいいよね。はーい決定。」
「あーー!悪かったって!謝るからごめんね!」
と、まぁどうして俺がこんな状況に陥っているか説明したいと思う。
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俺は日本在住の何の取り柄もない高校2年生だった。頭は良いわけでもなく悪いわけでもなく、顔だって普通。父親は早くに死に、母親も男をつくって出ていってしまった。今は父方の祖父母の家に居候しており、大事に育ててもらっている。だから俺は毎日を穏やかに過ごせばいいと思っていた。そんなある日、
「おい朝霧、この書類俺の机の上に置いておいてくれないか?」
と担任が俺に頼み事をしてきた。もちろん断る理由もなく、そのまま了承して書類を運んでいた。
「はぁ、重い」
担任も俺が頼まれても断らない性格だと知っているのか、毎度のように雑用を押し付けてくる。
「いや!これは先生に頼られてる。すなわち、俺は凄いということだ!ハハハー!うん、俺って凄い。うん…凄いよ…俺って…」
そんなことを1人で言いながら廊下を歩いていると
ドンッ
「あっ」
「痛っ!ちょっと痛いんですけどー。しっかり前見てるんですか?下級生のクセして何生意気なことしてくれちゃってんの?」
「す、すいません。これからは気を付けます。」
「えー聞こえないなー。なぁ、斗真。俺ぇ最近ー、"土下座してもらわなきゃごめんなさい聞こえない病"になっちゃったんだよねー。」
「ぎゃはははははは!淳何言ってんの!クソ笑えるんだけど!」
「ほら、土下座してよー。というか、しろよ。」
俺は心の中で、何が"土下座してもらわなきゃごめんなさい聞こえない病"だよ!小学生かよ!と思っていたが、やはり問題は起こしたくなかった。
「くっ…ぅぅぅ…す、すいませんでしたぁぁぁぁ!」
とあの某ドラマの常務もびっくりな土下座をかましてやった。これにはさすがにぶつかった2人もちょっとひいたようで、
「ま、まぁ許してやるよ。これからはしっかり気を付けて歩けよ。」
と言って去って行った。
「ふぅ。乗り切ったか。いやーしかし派手に散らかしたなぁ。」
俺の周りには落とした書類が散乱していた。1人でやるにはとてもめんどくさかったが、誰も手伝ってくれないのでそのまま拾うことにした。
拾い始めて数分、女神は降臨した。
「大丈夫?朝霧くん?私も拾うの手伝ってあげようか?」
俺はその声を聞いて顔を上げた。
「め、女神?」
「えっ、えっ?め、女神ってなに?」
「い、いや何でもないよ。えっと確か佐野さんだよね。」
その女性の名前は佐野千尋。高校2年生で俺と同じクラスの女性だ。肩にかかるぐらいの茶色の髪はとても綺麗で、顔は整っており、プロモーションは見事としか言いようがない。しかも頭も良く、性格は明るい。俺とはまったくの逆にいる人間だった。もちろん彼女を放っておく男はいなく、入学してから50回は告られたとか。だけどそれを全て断っているらしい。
「名前覚えていてくれたんだー。ありがとね!それで私も手伝うけど、いい?」
「あ、うん。じゃ、じゃあお願いします。」
「おっけー。はい、どうぞ。でもやっぱり朝霧くんは凄いね。」
「な、なんで?」
「だって、ほとんど毎日こうやって先生の手伝いしてるじゃん。私そういうのかっこいいと思うよ♪」
ズゥッキュュューン
これはいかん、こんなこと言われたら、
惚れてまうやろぉぉぉぉぉ!
「はい、これで終わりだね。これらも頑張ってね!」
そう言って彼女は自分のクラスに戻って行った。俺はしばらく動くことが出来なかった。こうして俺は佐野千尋という女性に恋をしてしまったのだ。
そして俺は自分の誕生日、2月14日に告白しようと決めた。そして当日、俺は佐野さんを公園に呼び出した。
「あの!俺!佐野さんの事が好きです!付き合って下さい!」
すると彼女は急に泣きだしてしまった。
「お、俺なんかしちゃった?あ、もしかして俺が告白したから?そうだよね!こんなド平凡なヤツに告白されて嫌だよね!ごめんね!じゃあ俺は帰るね!」
「ちょっと待って!違うの。本当は私――」
その時急にクラクションが鳴り響き、トラックがこちらに突っ込んできた。
「危ない!」
俺は咄嗟に手を突き出し、彼女を押した。そしてトラックが間近に近づいた時、俺は意識を手放した。