無人駅の出会い
初めて書いてみました、どこが悪いかなどの感想を頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
1
プシュウとうるさい音をたてて、電車はゆっくりと駅に止まった。
ふぅと軽く息を吐き、僕は電車を降りた。
大学に通うために住んでいた街を離れて、ここまでやって来た。
僕の目の前には木造の古びた駅舎と、ホームには二つの年季がはいったベンチがあった。
その駅舎の出口側に近い方のベンチに僕は、肩から下げているバックを置く。
ここまでずっと電車を乗り継いで来たから、体が強張っていてのあちこちが痛かった。
少し体を動かそうと肩を動かしたり屈伸したりとイッチニと声を出しながら軽くストレッチをしていると、横に誰かが居ることに気づく。
電車の中には、僕以外は乗って居ないと思っていたので一緒に下りた人が居た事にびっくりし気配のする方を見た。
そこには、僕より少し年下の高校生くらいの女の子が立っていた。
見られたかな?ちょっと恥ずかしいなと思い誤魔化すように、咳ばらいをした。
しかし、彼女は自分の携帯を見ていて、全くこちらには興味が無いのか見向きもしていなかった。
そんな子にちょっとだけ寂しく思いながらも僕は、彼女から目線を変え電車が去ったホームを見る。
僕のいる駅舎側のホームの反対側には申し訳程度に屋根の付いたベンチが、僕の居るホームと向かい合うように置いてあったけどこっちのベンチとは違い錆が浮き上がり整備されてない事が分かる。
寂れたホームの奥には、木々が鬱蒼としていて葉の擦れるサラサラという音が聞こえ長旅と傷心で疲れた僕の心は安らぐ様だ。
しばらくそうして眺めていたけれどなんら代わり映えしない風景を見ていても心は安らぐが、退屈なだけだった。
僕は林を見るのを止め、昔から愛用している腕時計の文字盤を見る。
僕は、前の駅で見た乗り換え時刻を思い出し若干憂鬱になる。
次の電車が来るまでしばらく時間があった。
僕は近くで暇を潰せるような店が無いかと、駅舎の中に何か無いか見てみる事にした。
荷物をベンチに置いたまま、駅舎の方に足を運ぶ。
木で出来た駅舎は古びてはいるけど、手入れ自体はされているらしく埃っぽさはあまり無かった。
荷物を置いたベンチの裏側に当たる所は、待合室になっていた。
壁には、数年前にブレイクしたが最近はあまり見なくなった女優が微笑んでいるポスターと、見たことがない女優の愁いを帯びた瞳が印象的な色褪せた古いポスターが一緒に貼ってあった。
それとホームにあったベンチよりも新しく設置されたんだろうなと一目で分かるほど綺麗なベンチが、ポスターの貼っている壁の前に設置されている。
ベンチの反対側には、取って付けたかのようなカウンターが在りそこにはパンフレットみたいな物がいくつかあった。
近づいて確認すると、教習所のパンフや新幹線のパンフに混じり周辺の観光マップが載ったパンフレットがあったので手に取って中身を見てみた。
パンフレットにはこの村の観光地やお勧めの食べ物、名産物の野菜等がのっていた。
この辺りは、山の幸が豊富らしくきのこやタケノコを推していたが近場にはお勧めの店が無くひとつ前の駅からの方が近いらしい。
それと、歩いて一時間以上の場所には菊が一杯咲いている丘があるらしいが時期じゃなかった。
僕は、ここまでの道程で疲れていたので歩く気力は無かった。
通りかかった人に何か無いか聞こうと、外に出てみたら目に映る範囲の全てが田んぼで人っ子一人も見当たらなかった。
コンビニでもいいから暇を潰せそうな場所があれば良かったが、駅の周辺には駅以外に建物の影すら無かった。
唯一あった人工物は、駅の外に備えられた一昔前の型の自動販売機だけだった。
僕は仕方なくその自動販売機で、炭酸飲料を買い荷物を置いたベンチにトボトボと戻った。
ベンチに戻ると女子高生は先ほど見た時とは違いベンチに腰をかけてはいたが、視線はずっと携帯を見つめたままだった。
徒労に終わった駅舎の探索を終え特にする事も無いので、僕もスマートフォンで時間を潰そうと電車に乗った時に切った電源をつけた。
ピーンと言う甲高い音と見慣れた起動画面の後に、僕と女性が一緒に写っている待受画面が映る。
彼女はひなたと言って、僕の彼女だった。
僕はその画面を楽しい気分だけで見る事は出来なかった。
それは僕の人生全てで一番大切だった人との別れがあったからだ。
恥ずかしい話だけど、僕は彼女とさよならしたからこの旅をすることにしたのだった。
彼女と出会ったのは去年、大学で僕がこれといった理由もなく選んだ講義で彼女が偶然空いていた左隣に座った事から始まった。
2
無駄に重い扉を開き、僕は適当に選んだ講義が行われる講堂に入る。
大学には就職に有利という理由だけで、何かを学びたいといったものも無く自分の学力で入れる学校を漠然と選び入学した。
当然これといった興味のある講義も無く、なんとなく講義名が面白かったという理由でこの講義を選んだ。
部屋の中に入ると僕が知らないだけで意外と人気があるようで、十人以上がすでに各々好きな所に座っていた。
僕は集中してなくてもバレなさそうな、部屋の真ん中より少し後ろの辺りに座ることにした。
まだ時間があるのでしばらく携帯をいじっていると隣に誰かの気配を感じた。
そこには黒髪をセミロングに整えた、僕より少し背の低い女性が立っていた。
彼女は、僕に軽く会釈をしてから空いている隣の席に座りノートや筆記用具などを準備していた。
そして、携帯を取り出しキーを打ち出し、携帯電話の画面に集中していた。
あまり見ていて気持ち悪く思われるのも嫌だから、僕も携帯の画面に目を戻した。
その後、三分ほど待っていたら40代前半くらいの講師だと思われる男性がお待たせと部屋の中へやってきた。
僕は講義中に携帯が鳴るといけないので電源を切り、机の上に置いた.
彼女も電源を切り携帯に置いた。
講義開始から二十分、僕はこの講義を選んだことに後悔していた。
講師には悪いが、十分くらい前から話の内容が全く入ってきていない。
講師が何かを言っているようだけど呪文にしか聞こえない、その呪文は僕の睡眠を促す。
睡魔に耐えつつもうとうとしている僕は、隣に座った女性になんとなく目をやった。
僕は激しく驚いた。
さっきは軽くしか見ていなかったからさほど気にもならなかったが、すごく綺麗だった。
昔の彼女や知り合いの女性にも美人は居たけど、今までに感じた事の無い胸のときめきを感じた。
睡魔を忘れてしまうほどだった。
僕の視線に気づいたのか彼女は僕の方に視線を向けたので、恥ずかしくなり慌てて視線を逸らした。
それからは睡魔も醒め講義をしっかり終えた僕は、筆記用具などを片付けてスマホを手に持った。
すると何か違和感を感じた。
スマホを裏返して理由が分かった、カバーが違う。
僕と彼女の携帯は偶然同じ機種でカバーが違うだけだった。
僕は直ぐに、さっきの女性が間違えて持って行った事に気が付いた。
室内を見まわしたが、彼女の姿はもう見えない。
後ろに座って話していた二人組の男に尋ねたら、講義が終わったと同時にすぐさま部屋を出ていったらしい。
僕はいそいで講堂の外に出ていくと、講義が終わって知り合いと講義どうだった?や昼飯どうするなど会話している人でごった返していた。
その間を僕は、すみません通してくださいと謝りながら通り抜けた。
するとその向こうにキョロキョロと辺りを見回している彼女を直ぐに見つけて、声をかけた。
すみませんと声を掛けると、彼女はびっくりして目を丸くさせていたが、
「携帯電話、僕のと間違えてますよね?」
僕がそう言うと一瞬何を言われているのか分からない顔を彼女はしていたが、携帯電話のカバーを見た時に取り違えたのを気付き、瞬く間に顔が赤くなっていく。
「あっ、ごめんなさい。友達との待ち合わせに遅れそうで少し急いでたので」
と彼女は恥ずかしそうに答えた。
お互いに携帯を交換していると、そこにごめーんとこちらに女性が駆け寄ってきた。
駆け寄ってくるなりその女性は僕の顔をまじまじと見ながら、
「その人、誰?」
と不思議そうに尋ねる女性に、携帯の彼女は僕の方を見ながら、
「私が携帯を間違えたのを届けに来てくれた、えっと……」
「自分は高橋修宏です」
と僕が名乗ると、
「そういえば自己紹介してなかったですね、私は柿崎ひなたです。それと」
と自分の自己紹介を終え隣の子を指し、
「木村園子でーす。ヨロシク!」
とおおげさに敬礼の様なポーズをつけながら、木村さんは自己紹介してくれた。
木村園子さんは柿崎さんとは正反対のような雰囲気がする子だった。
柿崎さんはどちらかと言うとおしとやかなお嬢様の様な印象がするこだけど、木村さんは天真爛漫と言う言葉がぴったり合うような活発そうな女性だった。
ただ、雰囲気は逆だけど木村さんも可愛くてモテるんだろうなと思った。
「ところで今日のお昼はどうするの?」
と木村さんが柿崎さんに尋ねると、柿崎さんは少し考えつつ
「学食かな?あっそうだ、高橋さんは誰かとお昼の予定あります?」
この大学に僕はこれといった仲の良い友達も居ない、当然これといった予定も無かった。
大学の近くには定食屋もあり学生も良くいるけど、混雑してることが多くあまり得意じゃ無かった。
つまり断る理由は無かった。
特に無いですよ、そう言った僕の言葉に、
「じゃあおごりますヨ、お礼もかねて」
と柿崎さんが笑顔で言ったが、僕は流石におごって貰うのは気が引けたので遠慮した。
しかし柿崎さんは遠慮しなくてもと言いながら僕を誘っていた。
そんな柿崎さんを見ながら木村さんはニヤニヤしつつ、
「ひなちゃん、もしかしてホレたの?」
とふざけた様に言い、
「のぶちゃん、ひながこんな事言う事なんて今までないよ。幼稚園から一緒のわたしが言うんだから間違いない!」
と木村さんが断言する。
柿崎さんが先ほどより一層赤面しながら
「ちょっと!そのちゃん、変な事言わないでよ!高橋さんが困ってるじゃない」
そんな柿崎さんを無視して、柿崎さんと同じく赤面している僕の腕を木村さんが掴む。
ほら行こうよと木村さんがグイグイ引っ張るのを、柿崎さんが無理に言ってもと言いながらもこちらをチラチラと見てくるのを見て僕は、
「わかりました。おごられるのは遠慮しますが、ご一緒させて下さい」
と言うと木村さんはうんうんと頷きながら、
「では、皆の衆まいろうぞ」
と何故か時代劇のような言い方をした。
僕と柿崎さんは顔を見合わせて笑った。
食堂に着くと木村さんが、
「二人は何にするの?」
と聞かれ、
「僕は醤油ラーメンかな」
と答えたが、柿崎さんはうーんと唸ったまま悩んでいた。
「のぶちゃん、ひなは昔からちょっとした事でもずっと悩むんだよ。幼稚園の遠足のお菓子でも、三百円分のお菓子を買うのに二時間近くかけてたんだよ」
と言われていたが、柿崎さんは悩んでいて聞いてなかったらしくあれかな?これかな?と独り言を言っていた。
「じゃあ、わたしはAランチ定食にしようっと」
と木村さんがいい、
「よし、私はBランチに決めた!」
と大事な事を決心した様な表情をしてるのが、可愛かった。
大学の食堂は食券形式で先に券を買わないと行けないのだけれど、少し混んでいた。
五分位してようやく僕達の番になった。
食堂のスタッフに食券を渡し、料理を受け取り各々トレイを持って窓際の席に着いた。
「いただきます」
と柿崎さんが言うと、僕と木村さんもいただきますと言った。
僕の選んだ醤油ラーメンは、この学食の人気ランキングトップ5に入る美味さで、煮干しだしのスープと縮れ麺、そして黄身がとろっとろの煮卵がついてるのが特徴だ。
木村さんのAランチ定食は肉メインの日替わり定食で、今日は衣がサクサクのトンカツにサラダとみそ汁、それにツヤのある白米のセットだった。
白米と付け合せやサラダは一緒だが、メインが魚料理になったのが柿崎さんが頼んだBランチ定食だ、今日は鰆の西京焼きだった。
僕はとりあえず水を飲み、ラーメンのスープをレンゲに掬い一口飲むそれと同時に、
「でどうなの?二人は付き合うの?」
といきなり木村さんが言い、僕と柿崎さんはむせた。
「そのちゃん、さっき会ったばっかりなのにそんなこと言われても」
じゃあ、そのうち付き合うんだ、と木村さんに言われ、からかわないでよと赤面していた。
赤面していた柿崎さんは何かに気付いたようにアッと言いながら、
「高橋さんって左利きなんですね」
柿崎さんが僕の箸が左手に握られてるのを見て言う。
「そっか、だから間違えたんだ!」
木村さんが言った事を僕と柿崎さんは理解できてなかった。
「ひなちゃんはのぶちゃんの左隣に座ったんじゃないの?」
僕達の座っていた場所を知らないはずの木村さんに言い当てられ少しビックリした。
けど、テーブルの向かい側木村さんの隣に座る柿崎さんは分かったようにあぁと言い頷いた。
「ほら」っと木村さんが自分の携帯を自分の左側に置く。
それに合わせるように柿崎さんは右に携帯を置いた。
それを見てようやく僕も気づいた。
携帯が隣に並んでいた。
「それで取り間違えたんだ、けど運命的だね。座る場所が違ったりひなちゃんが右に座ってたら、こんな風にご飯を食べてる事も無かったんだね」
本当に奇跡なのかもと木村さんの言葉に共感しながらそれとなく柿崎さんを見た。
すると、柿崎さんもこっちを見ていて恥ずかしくて目を逸らした。
そんな僕の気持ちを知らない木村さんは「そういえばさ」と僕に話を振る。
「のぶちゃんってこの辺に住んでるの?」
その質問に僕は隣駅の街の名を答えた。
「へぇ、もしかして元々こっちに住んでるの?」
「いえ、大学からこっちに越してきたんです。元々は隣の県に居たんですよ」
「なんでまたこっちに?」今度は柿崎さんが質問してくる。
「隣の県にはいい大学が無かったんですよ」
僕はそう答えたものの実際は少し違った。
確かにあまりいい大学が無かったのも事実だけど、何より早く親から離れたかった。
別に親とは仲が悪かった訳でもないし、地元が嫌いでもなかった。
ただ漠然と早く出たかった。
高校の時も県外の高校を志望したものの親が高校までは家の近い所にと言われ渋々従った。
そんな親との思い出や嘘では無いが嘘をついたような、少し後ろめたい気持ちを考えないようにするために今度は僕から二人にそっちは?と聞き返してみた柿崎さんが答えてくれた。
「私たちは小さい頃からこの辺りに住んでて、小中高と一緒だったんだけどのぶちゃんがこの大学に一緒に入ろうって」
その言葉に木村さんは頷きながら、
「この大学って医学部が有名でしょ?わたし実は医者を目指してるんだ」
その言葉に憧れと後ろめたさを感じていると柿崎さんが、
「すごいよねぇそのちゃんって。私はそういう夢とか無いし、大学出たらどうしようかなんてまだ決まってないし、だから私はそのちゃんを応援するんだ」
その柿崎さんの笑顔が羨ましかった。
そして、恥ずかしくもあった。
僕も似たような境遇なのに、柿崎さんは僕とは違った。
僕はと言えば、周りの夢を持った友達を口では応援してると言いながらもどこか冷めた目で見ていた。
どうせ叶わない、そんなの無理だ。
そんな僕とは対照的な彼女が眩しかった。
「そういえば最近、妹の様子はどうなの?」
木村さんが柿崎さんに聞く。
「相変わらずだよ、家に帰って来てもほとんど口聞かないし。」
「うーん、やっぱりか。まぁ、思春期だから仕方ないのかも知れないけどね。」
何の話か分からない僕に柿崎さんが、
「私の妹が少し前からあんまり口を聞いてくれなくてね、今年高校に入ったばかりだからそういう時期だっていうのは分かってはいるんだけどね。」
柿崎さんが寂しそうな顔をする。
そんな様子の柿崎さんを見て僕は閉口してしまう。
暗い雰囲気を変えるためなのか、木村さんが僕に「兄弟はいるの?」と聞いてきた。
僕は「居ませんよ」と返すと木村さんは、私は居るんだと自慢げに言い、
「わたしのお兄ちゃんはね、凄くカッコいいんんだ!しかも頭もいいし運動神経も超いいんだよ!本当に最高のお兄ちゃんだよ!」
ほら見てと僕に携帯で撮った男性の写真を見せてきた。
そこには西洋のお城のような建物をバックに、モデルの様なスッとした体系の凄くカッコいい男性が柿崎さんと映っていた。
「どう、カッコいいでしょ?」
そう聞く木村さんにモデルみたいだねと言うと凄く嬉しそうに「ありがとう」と答えた。
そんな木村さんを柿崎さんは微笑みながら見ていた。
「もうそのちゃんったらいつもそれなんだから、初対面の人には必ずお兄さんの写真を見せるんですよ」
そうかなぁ?と木村さんは首をかしげながら呟く。
僕は後ろのお城が気になり、ここどこ?と聞いたら
「別荘だけど?」
僕は驚きのあまり、へっ?と素っ頓狂な声を上げる。
そんな僕を見ながら、柿崎さんは説明してくれた。
「そのちゃんって、実はお嬢様なんだよ」
実はって何よと木村さんがツッコミを入れるが、気にせず続ける。
「そのちゃんのお家って凄いんだよ、東京ドーム一個分だっけ?」
「今は二個分」
もう、二人の言っている意味が分からない。
とりあえず、物凄いお金持ちだってのはなんとなく分かった。
「もしかして柿崎さんも?」
僕の質問に柿崎さんは、「ううん、私の家は一般家庭だったよ」と答えてくれた。
「わたしの親のやってる幼稚園にひなちゃんがやって来て、そこで知り合ったんだ」
「そうそう、小さい頃のそのちゃんは金遣いが凄い荒かったんだよ。幼稚園の近くあった駄菓子屋さんの駄菓子を買い占めたことがあって、私がそんな事したら他の子が買えなくなるからもうやっちゃ駄目だよって怒ったんだよ」
木村さんはバツが悪そうに頬を掻きながら、
「もうあんな事はしないよ。ひなちゃんに嫌われたくないしね」
ふふふと笑う柿崎さんを見て、僕も笑った。
それから、色んなことを話した。
小学生の時に流行った遊びや、好きな音楽や曲、今受けている講義など。
次の講義まで、時間も忘れて。
ピロロンと木村さんの携帯が鳴った
「あっ、そろそろ次の講義の時間だよ」
僕も、携帯を見るとそろそろ行かないと次の講義に遅刻しそうな時間だった
僕たちは、食べ終えた食器を片付けメールアドレスを交換した。
次の講義は別々だったので、食堂で別れることにした。
「じゃあ、今度どっかに遊びに行こうね」と木村さんが言い、僕はうんと即答した。
これが僕と僕の彼女ひなたとの出会いだった。
3
待受画面を見ながら、僕は虚無感に襲われていた。
なんで僕達はあんな事になってしまったんだろう?
少しだけ時間が経ったけど、彼女の最後の言葉が頭から離れない。
携帯の画面を眺めながら、深く長いため息をついた。
画面の中の僕達二人は笑顔で楽しそうだったけど、僕の脳裏には彼女の家で見たひなたの顔ばかり思い出してしまう。
こんな事じゃいけないと思い彼女の辛そうな表情を忘れる為に頭を振った。
悲しい思い出はこの駅に置いていくんだから、こんな気持ちではいけないと気持ちを入れ替えた。
しばらくは僕を知ってる人がいない所へ行きたい。
誰も居ないような所で、ひなたとの思い出と共に過ごしていくんだ。
暗いもやもやした気持ちを変えるべく、駅の外に出てみる事にした。
駅の前にある田んぼは、夏前の暖かくなった風に緑の稲が吹かれサラサラと心地の良い音がなっていた。
その綺麗な音に重い気持ちも少しだけ解れていった。
田んぼの向こうに見える、緑の生い茂った綺麗な山も僕の心を和ませた。
僕はこの風景を見る事ももう無いかも知れないと、携帯を出し写真を撮ろうとした。
綺麗な風景を取るために、僕は携帯を横にした。
するとチリンと言う音と共に、ストラップが目に留まった。
そのストラップは初めてデートした時に、彼女からのもらったプレゼントだった。
※※※
あの携帯を取り間違えた日から僕は、柿崎さんと頻繁に連絡をとっていた。
あれから数か月経ち、日差しが勢いを増していた。
僕の中の柿崎さんへの思いは日増しに強くなっていた。
けど、僕はまだ柿崎さんに告白できていない。
何度かいい雰囲気になった事はあったのだけど、いざ告白しようとすると何故か柿崎さんが避けている気がした。
たとえば、僕と柿崎さんと木村さんそれに木村さんの知り合いとようやく出来た僕の友達数名で近くの有名テーマパークに出かけた時に、皆はジェットコースターに乗ろうと言っていたが、柿崎さんは苦手だったらしく僕も一緒に残ることにした。
僕はその時がチャンスだと思い柿崎さんに告白しようと「あの……」と言い掛けた途端、柿崎さんは近くにあったソフトクリーム屋を指差し「あれ食べよう!」と逃げるように走って行ってしまった。
ふたりでソフトクリームを食べてる間にみんなが帰ってきてしまったから、その日は失敗に終わってしまった。
遊園地に行った日から二週間経ったある日、木村さんが急用で大学に来れなかった時にチャンスと思いつもの学食じゃない静かな所でふたりで食事をしようと誘った時に、食事には応じてくれたけど今こそはと思い告白しようとしたして「僕と……」と言いかけたら、「ちょっと急用が出来たの」と逃げられてしまった。
困った僕は木村さんに相談してみたら、「しばらく待ってみたら?」と返事が返ってきたので、ひと月以上待っている状態だ。
そんなすごく歯がゆくてたまらない日々が続いていた。
そんな僕に柿崎さんから急なお誘いのメールが来た。
その日は大学が終わってからバイトがありヘトヘトになりながらも、ひとり暮らしをしているアパートの近くのスーパーから値引きされた弁当を半分寝ながら食べていた所だった。
携帯から、男性グループが歌っている流行りのラブソングが流れた。
それは、柿崎さんのメールを受信した時に鳴るようにしていた曲だった。
箸を止め、メールの内容を確認すると、
「明日、一緒に遊園地へいきませんか?」
今まで何度も木村さんからのお誘いのメールは来ていたが、柿崎さんからお誘いメールが来たのは初めてだったので少しびっくりした。
まさかこれは、いつもと違いふたりだけのきちんとしたデートかなと期待してしまった。
ただ少し落ち着いて考えてみるとなんて事はない、ただ木村さんが都合が悪くて柿崎さんが代わりに送ったんだろうと思い、先走って考えてしまった自分に恥ずかしさで後悔した。
あまり返信が遅くなってはいけないと思い「了解~」と返信した。
そのあとに送られてきたメールには、集合場所と時間が送られてきた。
もう一度、了解のメールを返信し止めていた箸を進め、弁当を食べ終えた。
眠くて限界だった僕は、食べ終えた弁当を片付けないでそのまま眠った。
次の日、柿崎さんは大学を休んだ。
木村さんに聞いてみると、理由は知らないが今週は忙しくてあまり大学に来れないそうだ。
少し寂しい感じもしたが僕は僕で土曜日までの間、バイト仲間が急に止めてシフトが増えた事と大学のレポートが大変だったりと忙しくてと柿崎さんに連絡を取れなかった。
僕は、約束の日までの日々を長く感じていた。
約束の土曜日。
僕は目覚まし時計のアラームが鳴るより、早く目が覚めてしまった。
一週間会ってないだけなのに、ソワソワしていた。
僕はいつもより丁寧に顔を洗い、いつもより5分以上長く歯みがきをし、いつもより長く髪を整えてた。
それから、今日着ていく服を選ぶ。
と言っても、僕の持っている服はそんなに種類が無いから迷う事もなかった。
そして出かける前にもう一度鏡を見て、身だしなみを整えた。
時計を見ると少し急がないといけない時間になっていた。
僕は待ち合わせの最寄り駅に早足で向かった。
みんなと一緒なんだと思ってはいても、気が早っていた。
駅に着くとまだそこには誰も来ていなかった。
駅の周辺は、サラリーマンや親子連れ、カップルなどで混雑していた。
近くの自動販売機から飲み物を買い、五分ほど待っていると柿崎さんがやってきた。
「おまたせ。どのくらい待った?」
「いや、全然待ってないよ。今着いた所」
まぁ五分待ってけど、誤差みたいな物だから気にしない。
「それじゃ、行こうか」
そう言われ、不思議に思い質問した。
「あれ、皆は?現地集合なの?」
「今日は誰も来ないよ、私と高橋さんだけだよ」
と少し照れくさそうに柿崎さんが言った。
言われた直後の僕を鏡で見ていたら、相当間の抜けた顔をしていたと思う。
「どういう事?」
「いつもはみんなと一緒だけど、今日は二人で来たかったの。迷惑だった?」
僕は思い切り、ムチウチとかになるんじゃないかという程に首を振り、
「そんな事無い、すごく嬉しいよ」
柿崎さんはふふっと笑い、
「良かった、じゃあそろそろ電車来ちゃうし行こう」
と促され、僕は頷いた。
遊園地の最寄りの駅は、子供連れやカップルばかりでさっきは見かけた黒系のスーツを着た人は数えるほどしかいなかった。
それに、駅の周辺からすでにピンクや黄色など明るい色で彩られウキウキした気持ちになる。
隣に柿崎さんが居るのが、一番の理由だけど。
ただ僕は少し気になっていることがあったので、柿崎さんに聞いてみた。
「柿崎さん、なんで今日はここにしたんですか?」
ここは木村さんや大学の友達で来ていたいつもの新しい遊園地では無く、昔からある少し年季の入った遊園地だった。
いつもの遊園地よりは人の入りが大人しいけど、それでも人気のスポットであるのには間違いなかった。
けど、いつもの国内屈指の人気を誇るいつもの遊園地に比べると見劣りしてしまう。
それに、いつもの所は大学から近いかったので交通の便がいいのだけど、ここは少し遠くにあった。
なぜ、そんな所を選んだのかずっと気になっていた。
「ここが私と家族の思い出の場所だからなの」
それから、柿崎さんは話してくれた。
「ここは、昔から家族とよく来てたんだ。いつも開園と同時に来て、お昼にはお母さんが早起きして作ったお弁当をメリーゴーランドの前にある席で、お父さんとお母さんそれと私と妹でいつも食べてたんだ。妹は私と違ってジェットコースターとかの絶叫マシンが好きでお父さんとよく乗っていたの、絶叫マシンが苦手なお母さんと私は待ってたんだ。けど、私が中学受験の辺りから勉強で忙しくなって来れなくて、それでも妹と3人で来てたんだけど、妹も受験で来れなくなってそれからは一回も来てないんだ」
柿崎さんは、少しうつむきながら続けた。
「それから、少ししてお父さんとお母さんが交通事故にあったの。その交通事故でお父さんとお母さんが亡くなってからは、ここは思い出がありすぎて来れなかったんだ。けど、今日は高橋君と一緒だから平気なんじゃないかと思って誘ったんだ。私と一緒に新しい思い出を作ってくれる?」
そう言って首を傾げた柿崎さんは、本当に可愛かった。
天使や女神などでは形容出来ない、いや形容する言葉が見つからないほどのだった、この状態で「いいえ」と言える男はいないと思う。
僕は、「もちろんです、一緒に楽しみましょう」と快く答えた。
「ありがとう」
柿崎さんが笑った。
それから僕達は色々なアトラクションを楽しんだ。
とはいえ絶叫系が苦手な僕達ふたりは、メリーゴーランドやゴーカートなどを満喫した。
そして時間が経ち、気がつくと昼過ぎだった。
「そろそろお昼にしよっか?」
僕はすぐに頷いた。
あそこにしようと、珍しく柿崎さんが自分で指定した。
そこはメリーゴーランドの前の席、今朝柿崎さんの言っていた思い出の場所の様だった。
「もしかして、今朝言っていたのってここ?」
「うん、他の所は色々変わっていたけどこの辺りだけはそのままみたい」
と嬉しそうに言いながら、メリーゴーランドの前の席に腰をかけた。
すると、柿崎さんは自分のかばんの中からピンクの包みと青い包みを取り出しテーブルの上に置いた。
「今日は自分で作ってきたんだ、迷惑だった?」
「全然そんな事無いよ!」
頭を振りながら、僕は完全に舞い上がっていた。
まさか柿崎さんの手料理が食べれるとは、思っても居なかった。
「どんな物が好きなのか分からなかったから、自分の得意なのにしたんだけど、どうかな?」
包みからお弁当を出し、ワクワクしながらフタを開けてみた。
二段になっていて、上にはおかず下はご飯になっていた。
おかずは、一口大のハンバーグがふたつとポテトサラダ、お弁当と言えばのタコさんウインナーにナポリタンスパゲティなどが入っていた
ご飯の方は、錦糸卵と桜でんぶで彩られていた。
「実はこのおかずのメニューは、お母さんが前の日に私達に何が食べたいって聞いて作ってくれたのを再現してみたんだ、味には自信ないけど」
とりあえず、おかずを口にする。
「おいしい」
食べてみると自信がないなんてのは謙遜なんじゃないかと思う程に美味しかった。
今まで食べた親のご飯や外で食べたどんな料理よりも最高だった。
ハンバーグは中にチーズが入っており濃厚で、ご飯の炊き具合も完璧だった。
「美味しいなら良かった、いつも妹にお弁当を作ってるんだけどあんまり美味しいって言ってくれないから自信なかったんだ」
こんなお弁当を作ってもらっている妹さんに、少しだけ嫉妬してしまった。
お弁当を食べ終え弁当箱を片付けた僕達は、その後も色々なアトラクションを楽しみ、気が付いたら閉園間際だった。
日が暮れて来て、園内は赤く染まっていた。
「そろそろ帰ろうか」
僕はそう言うと柿崎さんが、「ちょっと待って」と僕を止めた。
するとカバンから何かを取り出し、僕にプレゼントと言いながら渡してきた。
それは、青いプラスチックで作られた猫が座っている透明なプレートの付いたストラップだった。
柿崎さんはなんとなく言いよどみながら、
「それね……うーんと、家の近くにある雑貨屋さんで、偶然見かけて……三種類あったから自分と妹と高橋さんの分にちょうどいいかなと思って……」
なんとなく言い淀んでる気がして少しばかり気になったけど、そんな事よりプレゼントを貰ったことが嬉しかった。
「実はそのストラップには秘密があるんだけど、妹の分も揃って初めて分かる様になっているんだ。妹にも高橋さんと仲良くして欲しくて」
その言葉で僕は感動した。
自分と妹だけじゃなく僕とも仲良くして欲しいなんていい子で愛おしいんだと思ったら、
「好きです!」
と大声で言ってしまっていた。
流石に柿崎さんも驚いたらしく、すごく驚いた顔をしていた。
今までも色々なシーンで告白したけど、その中でも最低なくらいムードも何もない告白だった。
これはやってしまったと激しい後悔に苛まれていると、柿崎さんがフフッと笑ったのが聞こえた。
「今まで待たせてごめんなさい。よろしくお願いします」
えっ?と変な声が出てしまったけど、その言葉の意味をようやく理解できた。
そしてその日は、僕たちの記念日になった。
4
後から聞いた話によるとあの遊園地はひなたの両親が付き合うきっかけになった所だそうで、その話を
母親から聞いたひなたはそこで告白をされてみたいと、小さい頃からずっと願っていたんだそうだ。
僕の前に付き合っていた人とは、来たことがなかったらしい。
あと、このストラップはひなたの手作りだという事も分かった。
初デートの前の数日の間に作るのに専念していたので連絡を取れなかったのだと、木村さんから聞いた。
けど、ストラップの秘密は分からないままだった。
僕のストラップとひなたのストラップを重ねたり、組み合わせたりして見たが、ひなたの妹の分も無いとどうなるかは見当もつかなかった。
ひなたに、今度三人で遊園地に行こうと言われていたがそれも叶わなかった。
「会うまでは秘密ね」とひなたは、妹の写真も見せてくれなかった。
ひなたはぱっと見だと天然見えるけど、外見とは違って思慮深い女性だった。
それが全ての原因だった。
そして、その事に気付かなかった僕自身も。
※※※
あの遊園地デートから数ヶ月経って、僕の学年も1つ上がっていた。
あれから何度もデートを重ね、僕達はお互いの事を名前やニックネームで呼ぶ様になっていた。
そんなある日、木村さんと学内で偶然出会った。
「あっ、のぶちゃん、久しぶり。2週間ぶり位かな?」
最近の木村さんは自分の選んだ講義が忙しいらしく、今までならすぐに返信が来たメールも一時間経ってから、遅い時だと一日以上経ってから届くこともあった。
「最近忙しくて、ごめんね。ひなちゃんも色々誘ってくれているんだけど、本当に大変で」
そう言いながらも、顔は笑っていた。
自分の好きなことだから、ここまで頑張れるんだろうと思った。
いや大丈夫だよと答えると、木村さんは少しニヤニヤしながら、
「そういえば最近二人の仲はどうなんだい、順調なのかい?」
そう聞く木村さんに僕は満面の笑みで、
「すごく順調だよ、毎日楽しくてしょうがないよ。」
と答えると、木村さんがご馳走様とニヤニヤした顔のままで答えた。
それじゃあと、立ち去ろうとした木村さんがあっと立ち止り、
「そうそう、ひなちゃんの事何があっても信用してあげてね。あの子は、昔から誤解を受けやすいタイプだから」
今までのニヤニヤ顔ではなく、真顔でそう言った。
一瞬、何の事を言われたのか分からなかったので聞こうとしたけど、もうすでに走り去ってしまった後だった。
それから何日か経ったある日、大学とバイトが終わったら僕の家で会おうとひなたからメールが来た。
そのメールに僕は了解と送り、アパートに帰ってきた。
ひなたには、アパートの鍵の予備を渡していたので玄関のドアノブをひねるととすんなり開いた。
「おかえり!」
満面の笑みを向けながら、ひなたが僕を迎い入れてくれた。
ひなたがカバンを持ってくれて、部屋に入ると机の上には二人分の夕食が置いてあった。
「少し時間がありそうだから作っておいたんだ」
と言いながら、メニューを説明してくれた。
肉じゃがに、ひなたが自宅で作っている野菜を使ったサラダ、しめじのお味噌汁、それと鶏肉の炊き込みご飯だそうだ。
「少し冷めちゃったから、温めるよ」
けど僕は、
「お腹が空いてるからいいよ、ひなたの料理は冷めててもおいしいし」
僕は箸に手を伸ばした。
味噌汁で心が和らぎ、肉じゃがをおかずに炊き込みご飯を食べ、箸休めにポテトサラダを食べた。
ひなたももぐもぐと食べながら、
「今日のバイトはどうだった」
とひなたに聞かれた。
「特に変わったことは、あっそうだ今日は変わったお客さんが居てね」
そんな他愛もない話をしながら、食事をした。
「ご馳走様でした。」
と幸福感に包まれながら食事を終えた。
ひなたは、食器を片付けていた。
僕はそんな彼女にこっちに来なよと、ソファに座るように促した。
ひなたは僕に寄りかかるようにして腰掛けた。
しばらくの間そのままテレビを見て笑っていたが、着信音が鳴った。
それは、僕の携帯ではなくひなたの携帯だった。
スッと携帯を持ち上げ、携帯電話の画面を見た時に動きが止まった様に見えた。
なんとなく気になったので、どうしたの?と尋ねてみるとひなたは、
「何でもないよ」
いつもと変わらない笑顔でそう答えた。
その笑顔はいつもと変わらかったけど、何となく違和感を感じた。
けど追及をするのも気が引けたので気にしないことにした。
ただ、その事を追求しなかった事に後々後悔することになった。
前回ひなたが家に来てから2週間近く経っていた。
その間ひなたとデートはしていたけど、何故か家には来なくなっていた。
それとなくひなたに聞いてみたがいつもと変わらない、けど何となく違和感がある笑顔でとぼけるだけだった。
大学でもひなたとの少し距離を感じる事があった。
たとえば昼食を一緒に食堂に行って食べようと誘うと、必ず柿崎さんや他の知り合いを誘おうと言うようになった。
講義も何個か同じ物を選んでいたが、あまり目も合わさず教室を出るまで口もきいてくれなくなった。
けど、嫌われてる訳でもないらしい。
デートの頻度は前より多いくらいだし、デートの最中は変な笑顔で笑う事も無かった。
そんな彼女のことを僕は分からなくなっていた。
それからしばらくして僕はその理由を知ってしまった。
その日は、いつも通りに最寄りの駅で待ち合わせをして駅の近くにある映画館で最近話題になっているアクション映画を観る事にしていた。
その映画を観たいといったのはひなたで、彼女はアクション映画が大好きで今までも何回か一緒にアクション映画をここに観に来ていた。
映画を観終わり、僕達は毎度来ている近くのファストフード店に今日も来た。
僕達はいつも頼んでいるセットメニューを食べながら、映画の感想を言い合っていた。
「すごく良かったね、特に主人公の蹴りがきれいだった」
「そうかなぁ、僕としては最後のエンディングがワンパターンだったかな」
「いやいや、それが良いんだよ。あそこの爆発がなかったら締まらないよ」
しばらくしてひなたが少しお手洗いに行ってくるねと言い席を立った。
ひなたがお手洗いに行ってから少しした時、携帯の着信音がなった。
ただそれは僕の携帯ではなく、ひなたの携帯だった。
その着信音は、しばらくして止まったがまた直ぐに鳴りだした。
僕は後ろめたい気持ちがあったが、最近のひなたの反応がおかしい事から気になってひなたの携帯を持ち上げた。
画面を見た僕は激しく後悔した。
そこには愛してるよと言うメールと、次はいつ会えるかな?と書かれたメールの着信を告げる待受画面が表示されていた。
僕の頭は混乱した。
混乱しながらも一体誰がこんなメールを送ってきたのか確認するためにアドレス欄を確認してみたが、英数字の羅列だけで名前登録されていなかった。
迷惑メールかなとも思ったけど、その言葉以外は何も書いてないみたいだった。
メールを開きたかったがお手洗いから戻ってくるひなたが見えたので、急いで元の場所に戻し何もなかったかの様に振る舞った。
おまたせと言いながらひなたは携帯の画面を見て、顔が曇った。
「どうしたの?」
あのメールが原因なんだろうけど、カマをかけてみる。
「何でもないよ」
またあの時に見た違和感のある笑いをした。
その瞬間に僕は確信した。
ひなたが最近変なのはあのメールのせいだ。
そして僕は、ひなたの浮気を疑い出した。
5
あの日から更に、ひと月ほど過ぎていた。
街には半袖の人が増え始め太陽が勢いを増し始めた頃、僕の心は少しずつ冷え始めていた。
あの日から徐々にデートの日の回数も減りメールの回数も減っていた。
最近ではあの笑顔ばかり見ている。
二週くらい前にカマをかけたことがあった。
ひなたからメールが来た。
今から家に行ってもいい?とだけ書いてあった。
僕はひなたを試す事にした。
10分後、ひなたがビニール袋を手に持ち家にやってきた。
「遅くなってごめん。今からご飯作るね」
と言いながら台所で晩御飯を作り始めた。
「今日、誰と会っての?」
彼女は一瞬固まったが、えっ?と変な声を出し
「誰とも会ってないよ」
と返事をした。
反応の感じだと特に違和感は無かったけど、僕の疑心は消えなかった。
「いただきます」
ひなたが作ってくれた晩御飯を一緒に食べ始めた。
かれいの煮つけにトマトサラダにみそ汁とご飯だった。
いつも通り美味しい料理だと思う。
けど、僕の口に入る料理は味が一切しなかった。
最近はずっとこうだ、食べる物全て味がしないし食感がゴムを食べてる様だった。
ご飯を食べながらも、ひなたの反応を見ていたが彼女が変な素振りをする事はなく、やっぱり思い過ごしかと思っていたその時、ひなたの携帯に着信が入った。
ひなたは画面を見て、すぐに電源を切った。
その対応の不審さに僕は、
「誰からだった?」
と聞いたら、
「妹だよ、また鳴ったらあれだから切っといたんだよ」
とあの笑顔で答えた。
やっぱり、何かあるみたいだった。
それから何回かひなたの携帯を見ようと試みたがうまくいかなかった。
そんな日々が続き、今日まで悶々と過ごしていた。
僕の気持ちは暗く沈み、体調的にも食べ物は美味しくないし体がだるく、大学を休みがちになっていた。
そんな状態でもバイトをしないと、生活は出来ない。
重い体を無理やり動かして、バイトへの道程を進んだ。
その途中で、偶然ひなたを見つけた。
ハンバーガーのファストフード店に入っていく。
僕は後ろめたい気持ちはあったものの、猜疑心から追いかけた。
ここの店の一階は注文カウンターしかなく、二階に飲食スペースがあるタイプの店だった。
ひなたは注文スペースには目も向けず、一直線に二階へ続く階段へ足を向けた。
僕もばれない様について行く。
二階に上がると、ひなたが一番奥の席に着くのが見えた。
二階の内装は、道路に面してガラス張りの大きな窓があり表が見えるようになっていた。
ひなたは人目から避けるように窓の反対側の奥の方の席に向かった。
僕は、向こうから目につきにくいと思う所のソファに腰かけた。
どうやら、ひなたの向かいには誰かが座っているようだった。
ただ、僕の所からでは相手の顔が見えなかった。
顔が見えないのに苛立ちながらも相手を観察してみると、身なりや仕草などから男性だという事はなんとなく分かった。
ひなたは、終始俯いていたが何かを決心したかの様に身を乗り出して話し出した。
相手の方は、ただ聞いているようだった。
ひとしきり、喋り終えたらしいひなたは一息ついていた。
男がひなたの手を乱暴に握った。
そのままひなたを連れて、僕の座っている席の反対側の通路を早足で歩いていく。
僕は、咄嗟に顔を伏せた。
ひなたはこっちには気付かなかったらしく、そのまま階段を下りて行く。
僕も急いで二人の後を追いかけて店を出たが、まわりを見渡したが姿は見えなくなっていた。
僕は、走った。
何処にどう行ったかも分からないふたりを探して走りまわった。
ヘトヘトリなりながらも探した。
けど、何処にも見つからなかった。
あの男がひなたとどんな関係なのか気になりつつ家路についた。
バイトに行く気さえ起きなくなっていた僕は、無断欠勤した。
部屋に入り、ひなたにメールを送ることにした。
携帯を見るとバイト先からの連絡が何件も入っていたが、無視する。
メール作成画面を起動する。
僕の指は自分が思うより遅くメールを打つ事に苛立つ。
きょうはどまで打ち込み、こと打とうとしてがまで行ってしまいイライラする。
「今日は、どこに行ってたの?」とメールを作り送信した。
そして、携帯を放り出しベットに倒れ込み気を失うように眠った。
翌日、いつもより早く目が覚めた。
悪夢を見たせいだった。
ひたすらに気持ちが悪い夢で、ありとあらゆる人から罵声を浴びせられる夢だった。
自分の知らない人の中には木村さん、そしてひなたも居た。
服が汗でベタベタになっていて、体に張り付いて気持ち悪い。
シャワーを浴びようかと思ったが、昨日送ったメールの返事が気になって携帯に手を伸ばす。
携帯電話にメールの返信が届いていた。
ひなたからだった。
安心した。
が、返信の時間を見てまた暗い気持ちになる。
返信の時間が30分前だった。
昨日、メールを送ってから何時間も経っているはずなのに。
僕は、自分自身に言い聞かせるようにひなたはただつかれてそのまま寝たから返信が遅かったんだと、やっぱりあそこで見たひなたは別人でただ忙しかっただけだと。
けど、どうしても昨日の光景が頭から離れない。
ひなたを信じたい自分と、信じきれない猜疑心で心がぐちゃぐちゃになっている。
僕は意を決した。
「今からひなたの家に行っていい?」
短いメールを送る。
これまでひなたは、一度も僕を自分の家に招いてくれた事はなかった。
妹が居るからや、今日は忙しいなど何かしらの理由を付けて必ず拒まれた。
もしかしたら、実は妹とは住んでいないで昨日の男と住んでいるのかもしれない。
もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、そんな悪い妄想ばかりが頭の中で膨らみ続ける。
それでも僕は今すぐひなたに会いたかった。
会わなくちゃいけなかった。
その時、携帯電話が鳴った。
時間としては、五分かからない位だったけど、三十分以上経ったかの様に感じた。
「私も話したい事があるから、会いたい」
そう書かれた文章と、自宅までの地図が添付されていた。
6
その地図の目的地は、いつも集合場所にしている駅から少し進んだ所だった。
駅前の人混みが多いエリアを通り、新築が立ち並ぶ住宅街を抜け、昔からの住宅が目立つ辺りに来た。
少し歩くと、すぐに建物が見つかった。
そのアパートは、たぶん僕が生まれるより前から立っていたと思えるほどザビが浮き上がっている。
ひなたが暮らす部屋は二階の階段から数えて手前から三番目らしい。
ギシギシと音を立てながら、少し乱暴に歩いただけで崩れそうな階段を昇る。
カンカンと異常に音を鳴らしながら渡り廊下を歩き、部屋の前に立った。
名札には何も書いていない。
本当にひなたがここに住んでいるのか分からなかった。
電話をしようと携帯電話を出していると内側からギィと音を立てながら扉が開いた。
ひなただった。
「いらっしゃい、待ってたよ」
いつもの笑顔がそこにはあった。
だけど、どうぞと招き入れた時の背中が少し震えていた気がした。
招き入れられた室内を眺める。
アパートの外見と同じで室内も質素な畳張りの部屋だった。
ここに妹と二人暮らしだとすると少し手狭なんじゃないかと思う広さだった。
ただ、所々の壁に額に入ったアクセサリーのような物が飾られている。
「かわいいでしょ?妹も私もそういうのが好きなんだ」
とひなたは言いつつ、台所でお茶を入れていた。
そこに座ってと部屋の中央にあるテーブルをひなたは指差す。
僕は窓側に座り、お茶を淹れているひなたを見ている。
ひなたは、普段もそんなに喋る方では無いけど今日は特に口数が少なかった。
しばらく無言のまま過ごしていたが、ひなたがお茶の入った湯飲みと大福をお盆に載せて入り口に近い反対側に座った。
お茶を口に含む。
けど、味がしないのは治っていない。
大福を食べるけど、ねちょねちょと口内や歯に張り付くだけで美味しくないし気持ち悪い。
口の中に張り付いた物体を水のようなお茶で流す。
ひなたもお茶を飲む。
また無言になる。
近々選挙があるらしく、遠くで演説の声が聞こえる。
実は、と言いかけたひなたの言葉を遮り僕は意を決して話し出した。
「話って昨日の事だろ?」
その言葉にひなたは、えっと驚いた。
「昨日会ってた男はだれなんだ?」
ひなたの動きが止まる。
「えっ?なんでそんな事言うの、誰とも会ってないよ」
明らかにひなたが動揺した。
「昨日、いつものハンバーガー屋に居たよね?」
僕は、自分が思っているより冷静な事を感じていた。
当然怒りもあったけど、なによりかわいそうという憐みの気持ちの方が大きかった。
「実は昨日、偶然見かけたから追いかけたらハンバーガーショップに入って行ったから一緒に入ってみたら男の人と居たのを見たんだ」
「えっ、見て・・・たの・・・」
今の反応がすべてを物語っていると思った。
僕は、ここに来るまでの間に頭に浮かんでいた事を思い浮かべていた。
これから、僕達はどうするべきか。
「あれは、違うの。あの人は・・・違うの!」
何故か口を濁すひなた。
どうせなら、浮気だと貴方には飽きたと言って貰えたら良かったのに。
僕は強い口調で問い詰める。
「浮気してるんじゃないのか?最近、メールの返信が遅かったのはそのせいなんだろ?家に来た時だって愛してるってメールが送られて来たじゃないか」
ひなたの顔がどんどん青ざめていく。
本当はこんな風に追い込む様な事はしたくないのに。
大丈夫、彼女も僕の考えを受け入れてくれるはずだ。
「携帯見たの?なんでそんな事をするの、私を信じてないの?」
何で僕が怒られているんだろうか?
裏切ったのは君の方なのに。
怒りや悲しみなどがごちゃまぜになる。
けどきっと大丈夫、必ず理解してくれる。
僕達は、愛しあっているんだから。
僕はひなたに理解してもらうためにあえて言う。
あえて、あえて追い詰めるように。
「信じていたのに裏切ったのはひなたじゃないか!」
僕は立ち上がり、ひなたを問い詰める。
その言葉にひなたは、ひどく怯えた様に見えた。
ごめん、ごめんよ、ひなた。
けど、僕はこうしないといけないんだ!
ひなたは後ずさりながら、僕に言う。
悲しそうな瞳を向けながら。
「なんでそんな事言うの・・・」
「だったら、あのメールはなんなんだよ!」
「あれは、後輩で・・・」
「後輩と付き合ってたんだな!」
やっぱりだった。
僕は騙されていたんだ。
しかも、後輩だってことは高校の時からの付き合いなんだろうか?
もしかして、同じ大学の新入生だったりするのか。
だとしたら柿崎さんも知ってたんじゃないか、二人で僕を騙してたのか。
僕は、もう誰も信じることが出来ない。
けど、ひなたを信じたい僕も居た。
「やっぱり、浮気してたんだな」
「違う!私が愛しているのは貴方だけなの!」
また嘘を言う。
あれだけ好きだと愛していると言っていた唇からドバドバと嘘ばかりを吐き出てくる。
あの愛おしい唇から。
僕は、そんな物を出して欲しくないのに。
ただ、僕だけを愛して欲しいのに。
ひなたにさらに近づきながら、
「なんで、そんなに嘘ばかりつくんだ!僕が嫌いならそう言ってくれたらいいじゃないか!」
ガシャンと音がなる。
いつの間にかひなたは台所まで後ずさっていた。
「嘘じゃないの!信じて!」
けど、そう泣きながら訴えるひなたの目は怯えていた。
こうなる事はここに来る前から、薄々気付いていた。
もうどうしようもないんだと。
僕達は終わりなんだと。
けど僕は君を他の男には渡したくない!
そして、一生二人で過ごそう。
「えっ?」
ドスッという音と共にひなたが驚きの声を上げた。
彼女のお腹に僕は台所に置いてあった包丁を突き刺した。
これが僕の出した答えだ。
「なんで?」
彼女は悲しそうな顔をしながら僕の方を見てる。
「大丈夫、いつまでも一緒だから」
そんな彼女の顔を見ながら僕はさらに包丁の刃を体内に進める。
グッ!
包丁を握る手に力が入る。
彼女の暖かい赤い血が僕の手を伝い台所の床を濡らす。
僕は今まで感じたことの無い様な安らぎを覚えていた。
これで、誰にも邪魔されないで済む。
ひなたは、僕を見ながらずっとなんで?と言っていた。
その口から、血が溢れる。
僕はそんなひなたが愛しかった。
僕の右手は包丁を持ったまま、左手でひなたを抱きしめる。
ドクドクとひなたの腹部と口から血が溢れ続けてくる。
ひなたの唇が色が薄れ始める。
顔全体が白くなっていく。
綺麗だった。
そんな中でひなたの表情が変わった。
今まで困惑していた表情とは違い安らかな顔になっていた。
ようやく僕の気持ちを分かってくれたんだね。
僕は嬉しくなり、血が漏れる唇に唇を重ねた。
ひなたの血の味がした。
ひなたの手が何かを求めるように動く。
僕は、ひなたも抱きあいたいんだと思い僕の肩に手を置いた。
いつまでそうしていただろうか?
僕には永久に感じられるほどの幸福な時間だった。
ズルッ。
肩に乗せた手が不意に落ちた。
いつの間にかあれだけ溢れていた血も止まり、ひなたも冷たくなっていた。
これで僕はひなたとひとつになれた。
「これからはどこに居ても一緒だよ、ひなた」
冷たくなったひなたにそう告げる。
さて、これからどうしようか?
この街に居られないのは間違いないし、いっその事誰も居ないような田舎に行って新しい生活を始めるのもいいかもしれない。
けどそのためにはこの部屋から出なければ。
どうしようかと部屋の中を観察する。
ひなたと目が合った。
僕は、ひなたに笑いかけながら思考を巡らす。
そうだと僕は服を脱ぎ、持ってきていたカバンに突っ込む。
そして、血に濡れた手や顔を台所で洗い流す。
その後、部屋の中にある押入れを開けた。
予想通りそこには衣装ケースが入っていた。
僕はその中を漁る。
「あった」
ぱっと見、女物だと分からない様なシャツとジーパンを見つけた。
僕はそれに着替えた。
多少、尻や肩の辺りがきつかったけど何とか着れた。
僕は持ってきたカバンを持ち部屋を出ようとした。
その時、視界の端にある物が留まる。
それは、ひなたの携帯だった。
彼女の携帯は、血だらけになった畳の真ん中に異物の様にあるテーブルの上に置いてあった。
「もう一緒だから、秘密は無いよね?」
冷たくなったひなたに断りを入れ、携帯を操作する。
けれど、鍵がかかっていて開きそうになかった。
僕は恋人にすら見せたくない程だったのかと少しムッとしたが、もう気にする事でもないと思い携帯の操作を止めた。
ふと携帯を置くと携帯のストラップが目に付いた。
このストラップは思い出の品だから持って行こう。
僕はそう思い、ストラップと携帯を結ぶ紐を丁寧に外した。
僕はストラップをポケットに入れた
「いってきます」
ひなたに声を掛けながら玄関のノブをひねり、ひなたのアパートを後にした。
家に戻るまでの間に、予想外の事があった。
出来る限り怪しまれない様に、挙動不審にならないよう歩き方に気をつけた。
ただ、駅の辺りに人だかりが出来ていた時は驚いた。
偶然聞こえた話によると、若い男が突然車に突っ込んでいったらしい。
ただ、そのおかげでこちらに注意が向く事は無かったのは良かった。
僕は部屋に戻ると急いで自分の服に着替える。
血で汚れた服が入っているカバンの中に着てきた服も突っ込む。
そのカバンを今度はゴミ袋に入れる。
その中に、家の中に溜まったゴミやいらない物をいれパンパンにした。
明日は燃えるゴミの日だから、カバンの入ったゴミだろうとあまり気にする人はいないだろう。
戸棚に隠してある預金通帳を確認する。
裕福な暮らしができるほどでは無いけど、それなりの金額は入っていたのでしばらくは何とかなりそうだ。
とりあえず、身元が分かりそうなものは全部捨てていこう。
携帯はしばらく持って行こう。
どこか電波が繋がらない所で捨てればいいだろう。
他に必要なものはなさそうだ。
僕はゴミ袋と携帯電話、それに財布と通帳を持ち帽子を被って外に出た。
玄関に鍵を掛ける。
その鍵をゴミ袋に入れる。
駅に向かって歩く。
いつものゴミ捨て場じゃなく、別の適当なゴミ捨て場にゴミ袋を捨てた。
道すがら、銀行に寄って預金を全額下ろす。
ついでに近くのコンビニでパンと飲み物を買った。
どこかで食べよう。
携帯でニュースを見る。
あれから一時間以上経っているはずだけど、まだニュースにはなっていない様だ。
少し歩くと、駅に着いた。
事故を起こした車や救急車も居なくなり、警察官も減っていつも通りの風景が広がっていた。
駅に着き、案内板を見て何処に行くか僕は悩んだ。
ふと、ある駅名が目に留まった。
それは、ひなたとデートに行ったあの遊園地の最寄駅だった。
思い出の場所を第二の出発点にしようと、その路線にする事にした。
僕は券売機で乗車券を買い、自動改札を通過する。
電車はすぐ来るようで、ホームにはすでに人が待っていた。
僕も列に並ぶ。
後ろに僕より少し背の低い女の子、その後ろにサラリーマンのおじさんが並んだ。
なんとなくその女の子を見た事がある気がした。
「まもなく、4番線に電車が入ります。黄色い線の内側に立ってお待ちください」
後ろを見ていると、ホームに電車到着のアナウンスが響く。
どうやら、電車が来たみたいだ。
キキッーと音を立てながら、ホームに電車が止まった。
前の親子連れに続いて僕も進む。
電車の中は多少混んでいたが、満員という程ではなく少し余裕があった。
とりあえずの目的地は思い出の遊園地の先にある大きな駅まで行く事だから、しばらくは電車の振動に身を任せる事にした。
三駅ほど過ぎた所で遊園地が見えてきた。
遊園地の観覧車が見えた。
心臓を掴まれたように、胸が痛くなる。
楽しかったという記憶と共に、あの頃から裏切られていたんじゃないかという疑念が湧き上がってくる。
そんな気持ちを抱えたまま、駅の前を通り過ぎる。
その光景を僕はしっかりと目に焼き付け、僕はひなたとの思い出の溢れる街を去った。
※※※
あれから、まだ一日位しか経っていないのにもうずいぶん前の事かの様な気分がする。
あの駅の後、最寄りの大きい駅まで行って夜行列車に乗って大きな駅に着いた。
それが今朝の事だ。
そこから私鉄に乗り各駅停車でここまでやってきた。
ひなたとの大切な記憶を思い返してしていたら、いつの間にか辺りは日が傾きだしていた。
そろそろ電車が来る時間だ。
僕は駅舎に向かって歩き出す。
ふと、チャリンと上着のポケットから音がなった
僕はポケットの中に入っていたひなたのキーホルダーに気づいた。
前もやったけどもう一度自分のキーホルダーと重ねてみた。
やっぱり何が隠れているのか分からなかった。
木造の駅舎の中に戻るとホームの方から電車の警笛が響く。
ようやく乗り換え電車が来たみたいだった。
ふと、横からの視線に気づいた。
それは、駅舎の中にあるポスターじゃ無かった。
そこには、さっきとは違い六つの目があった。
真ん中の二つの目が僕を鋭く睨む。
そして。
ドンッ!
物凄い速さで僕に体当たりした。
それは、駅舎に居た子だった。
「えっ?」
素っ頓狂な声が出た。
「お姉ちゃんは、ずっと好きだって言ってたのに」
彼女が僕から離れる。
その手は、夕焼けなのか赤く染まっていた。
けど僕は分かっていた。
その赤は、僕の血だという事を。
「なんで?」
ひなたと同じ事を言う僕。
けど、彼女は何も言わず僕に再度近づく。
僕は、駅舎の壁に寄りかかっていて何とか立っていた。
そんな僕に近づき僕の手から、僕の携帯のストラップとひなたのストラップを奪い去った。
「なんで?」
その行動の意味が分からない。
そしてその子は、自分のストラップと僕から奪ったストラップを手の中で重ね僕に見せる。
そこには、白いハートがあった。
僕は、笑った。
何が面白いのか分からなかったが、笑った。
「ははははっ、ははっ、ははははは、ガハッ」
笑いと同時に口の奥の方から、血の塊が出てくる。
彼女の顔が夕日に染まる。
その夕日に染まった彼女の顔は、ひなたそっくりだった。
僕は、ますます笑いが込み上げてきた。
「ははガハ、ゴボッ、ゴッホ、ゴボ」
だんだん目の前が白くなっていく。
ひなたの妹は、僕を睨みつけホームへ向かう。
その手には白いハートが輝いているのが見えた。
そのまま彼女は電車に乗り込んだ。
僕を睨んだまま。
そして、電車は走り出す。
僕の意識はそこで途絶えた。
※※※
街頭TVがニュースが告げる。
「先日起きた女子大生殺人事件ですが、進展がありました。犯人として挙がっていた恋人の高橋修宏容疑者ですが隣県のある駅にて死体で発見されました」
さっと、キャスターは紙を捲る
「殺された女子大生の友人のインタビューが撮れたのでご覧ください」
顔が見えないように撮られた画面に切り替わる。
「最近彼女は、ストーカーに遭っていたんです。だから、彼には彼女の事を守って欲しかったのになんで、ウゥ・・・」
泣いたままの友人の画面から切り替わる。
「次のニュースです。先日駅で起きた交通事故ですが最期を見たサラリーマンの証言では大学生か高校生くらいの少年がなんでと呟きながら道路に飛び出したとの事でした。少年の家からは遺書等は見つからず・・・」
終
ここまで、私の稚拙な文章を読んで頂き有難うございました。
感想、よろしくお願いします。




