第七話 一人住まい
通っている大学のある街で、一般のアパートに一人で住んでいた。
一階が半地下の駐車場で、その上が1.5階のような一階。俺はそのまた上で最上階の二階に住んだ。
単身者向けよりは広い間取りで、全部で8世帯が住めるアパートには、子供のいない若い夫婦も何組かいて、俺の入居で全部が埋まった。
ーーあれ……この部屋……なんかいる
初日からだ。とにかく俺以外に何かがいるのを感じたが不思議と怖くない。何度か泊りに来た彼女も、「なんかいるね」と、朝、顔を洗いながら何でもない事のように普通に言う。
数週間が過ぎ、見えたことなど一度もないが、やっぱりいるようで、だけど大して気にもならないのだが、唯一、気になることが出てきた。
アパートの住人が減ってゆくのだ。
ーーおいおいおい、まただよ。今度は一階の可愛い奥さんまで引っ越しちゃうよ……
転勤シーズンでもないのに、土日になると必ずと言って良いほど引っ越し業者のトラックが横付けされ、家財道具を運び出す風景を目にするのだが、運び入れるのを見た試しがない。
当然、住人は減る一方で、気付けば俺以外、アパートには誰もいないありさまだ。
ーーマジかよ、どうなってんだ?
大学で少しは知り合いも増えたが、俺は名前を覚えるのが苦手で、相手に失礼がないようにとあえて名前を呼ばないように工夫していたせいで、余計に名前を覚えられない誰かに聞いてもらった。
「俺しか住んでないんだよな」
「うぇ……マジ? それって心霊現象が原因とか?」
「ん……? そう言えば何かいるな。それなのかな?」
アパートにオバケが出て、それが怖くて皆が逃げるように出て行くんじゃないかと、その名前の知らない奴は、一旦はそう言ったのだが、なにやら言い難そうに続けた。
「いや…………なんて言うか……その〜……君ってさ〜、第一印象が………ほら……ヤクザっぽいって言うか……」
「はぁぁあああああ?? 俺が怖くて誰もいなくなったって言うのか?」
ーーバカな、いくらなんでもあり得ない。聞くんじゃなかった、腹が立つ。
まぁ、誰に気兼ねすることも無く、夜中だろうが、日が上る直前だろうが、気が向いた時にガンガン洗濯機回して、掃除機ガーガー掛けての生活を暫く続けた頃だ。一階の端っこにサラリーマン風の男が越して来た。
ーーおお、来たよ。大事にしなきゃならん。
見かける度にバカでかい声で挨拶をした。勿論、こぼれるほどの笑顔でだ。それがマズかったのか、そいつは3週間ももたなかった。
今日も夜中に掃除機をガーガーやりながら俺は呟く。
「なんかいるよな……」
一人住まいーーー完