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第五話 祟り

「石丸先生の実家の墓石が倒された。誰だ! 誰がやった! 正直に言え!」


 秋の彼岸が近くなった週末に、高校三年生だった俺は、教室でそう怒鳴る教頭の声を聞いた。

 普段から、まるで旧日本陸軍の軍曹のような教頭の喋る言葉には、修飾語のたぐいが含まれることは少なく、ほとんどが前置きの無い直球で、絶えず力む。


 担任の石丸は、倒された墓石を直しているのか学校を休み、急遽、ピンチヒッターで教室に現れた軍曹こと教頭が、HRで出席を取ることもしないで、いきなり墓石の件を切り出した。

 クラスの誰もが唖然とその話しを聞いたが、意味は分るが意図が解らず、反応を示す者など、当然、皆無だったが、週が明けても担任は学校を休み、再び軍曹が来た。


「先週、石丸先生が苦労して直した墓石が叩き壊された! 犯人はこのクラスにいる! お前か! そこの眼鏡を掛けたデブ、お前だな!」


 誰もが息が止まるほど驚いたが、軍曹に突然指まで刺された西郷というちょっと太り気味の男子生徒は、あまりの衝撃に、


「ちっ、違う……お……俺じゃない……」


 と、何度も唾を飲み込みながら、ようやっとそれだけを言った。


「きっさまーー! とぼけるつもりか! 吃ってるのが何よりの証拠だ! 今だったら許してやる、正直に言え!」


 軍曹に犯人だと決めつけられた西郷というデブは、学校では不良グループに属し、どういう訳だかリーダー格で、いつのコワモテを気取った似合わない45度の眼鏡を掛けたバカだ。


 俺のわけがないよな、と周りに同意を求めるように、あっちを見たり、こっちを見たりを続ける西郷は、無理に余裕を作ったヘンテコな笑顔で、それは泣き顔にも見え、さすがに自分でも大マヌケな話しの容疑者にされていると分かったのだろう、火が出るほどの赤面で、目が合った誰もが俯いてしまった。


「ふっ、ふっt、ふざけんじゃねえ! だいたい、石丸の墓なんて何処にあんだよ!」

「担任を呼び捨てにするとは、きさま〜〜、よっぽどの恨みを持ってるな! 墓が何処にあるだと〜〜、それを聞いてどうするつもりだ! 語るに落ちたな! よりによって墓を壊すなど罰当たりも甚だしい! 祟られるぞ! 覚悟しろ!」


 この教頭、今まで会話など交わしたことが無かったが、言ってることに筋が通らないなんてものじゃない。教師が天職の男だ。


「いっ、いや……だから……」


 その後、西郷はあいかわらず真っ赤な顔で必死に自己弁護をしたーー何処にあるかも知らない墓をどうやって壊すんだ。その墓は遠いんだろ? その遠い他人の墓に何でわざわざ行かなきゃならないんだ、自分の家の墓参りにだって行かないのにと、至極まっとうで、そうだよねと思える話を全然聞かない軍曹は更に言う。


「もっともらしい事を言うな! 今更、祟りが恐ろしくなったか! バカめ!」



 それから西郷にはダイレクトなあだ名がつき、下級生からも、


「ちょっとちょっと、向こうから来るのって、ハカだよハカ」


 と、卒業するまで言われ続けた。祟りだ。




 祟りーーー完

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