第三話 怖い
近所に拝み屋のオバさんが住んでいる。
悪い人間ではなさそうだし、俺なりに「あのオバサンは本物」と思える節もあって、さほど不気味に思うこともなく近所付き合いをしていた、ある日の事だ。
「お金を貸して欲しいの。友達が、どうしても今直ぐ20万円いるの。私が用立ててあげればいいんだけど持ち合わせもなくって……私、キャッシュカードやクレジットカードって持たない主義だから、銀行から卸さなきゃ用意できないんだけど、今日、日曜日でしょ……あなたカード持ってる? 悪いけどそのカードで20万円借りて、それを貸して欲しいの」
何故か、手許に15万円があった俺は、これで足りるかい、と貸してあげた。
借りるためにオバサンが言った理由ーー友達が必要としてるは、きっと嘘だ。どんな理由があって、さほど親しくもない、ただのご近所さんの俺に借金を申し込んできたのか全くもって不明だが、考えるのも面倒だ。不思議と騙される気がしなかった。
もし、金が返って来なかったら、俺の人を見る目が狂っていたという事なんだろう。
「はぁぁああああああああああああ!! 15万円貸したーーーーーー??!!」
付き合っている彼女が切れた。
よっぽど頭にきたのか、しまいには、泣きながら引っ掻き、ガブガブ噛み付きながら怒ってる。俺の話など全く聞いてくれない。まぁ、説得力を持った貸す理由などないのだから、聞いてくれたところで、もっと噛み付かれるのがオチだ。
次の日、姉貴から怒りの電話が掛ってきた。腹の虫が収まらない彼女が、俺の姉貴に言いつけたのだ。
「あんた、バッカじゃないの! インチキ占いの基地外ババーにお金貸したってーー!! どういうつもり! そんなババーはヒールで頭ふんづけてやればいいだけ! それをご丁寧にお金貸すなんて、どんだけマヌケなの! そのインチキ占い師、連れて来なさい! ヒール尖らせて後頭部に突き刺してやるから!」
1時間以上の罵詈雑言を聞かされたが、とにかくヒールで頭を踏みつけたいのだけは分かった。あいつならやりかねない。
10日後、貸した15万は無事に戻って来た。それまでの間、毎日、俺は彼女にガブガブ噛まれ、電話口でハイヒールを握りしめているだろう姉貴に怒鳴られ続けていたせいで、心底ホッとした。怖かったぜ。
怖いーー完