第十八話 けして見てはいけない
小学6年生の一大イベント、修学旅行の時だ。
どの同級生も初めての宿泊が伴うクラスメイトとの旅行に、日程が近づくにつれ、目を釣り上げ声も1オクターブ高くデカくなるヒステリー症状を保っていたが、マセた悪ガキの浩二だけは冷静な目をして、何かを企んでいた。
「ま〜だ生えてないのってだーれよ〜。風呂に入ったらバレるんだからな〜」
4年生の時に学校が建て替えられたせいで花子さんも更なる引越しを余儀無くされたようだが、墓石のような男児便所も消え失せ、どこまで飛ぶかのギネスに挑戦は廃れ、当たり前のように見せ合うことはしなくなっていた。6年生なのだから当たり前ではあるが。
修学旅行で宿泊したのは温泉ホテルで露天風呂付きの大浴場があり、何時から何時までは一般客が入浴出来ない決めにしてくれたおかげでーー確か2時間くらいだったはずーー大浴場はとんでもない騒ぎとなった。
タオルなんて不要な浩二が有言実行とばかりに、股間を覆う同級生のタオルを引っぺがし、それでもしぶとく素手で握り隠すのを押さえつけて剥がして、ガン見して、更に次の獲物に襲い掛かるを繰り返す阿鼻叫喚ーー非常に辛苦の中で号泣し救いを求めるさま、という意味らしいが正にそれだ。
全員のを、喚きながら、馬鹿笑いしながら、又は、驚きに息を詰めながらの調査を終えた浩二が興奮冷めやらぬ様子で、「女子のも調べてやる」と意気揚々だ。
その大浴場の露天風呂は和風を気取った造りで竹とか籠目がふんだんに使われていて、男女の仕切りも何重にも編み込まれた向こう側が見えない籠目だったが、強く押せば子供であれば通り抜けることが出来る隙間が、まるで浩二のためのように開いた。
まる出しの浩二が行った。
耳をつんざくような悲鳴と怒号がやや暫く続き、それがウソのように静まった後に、まる出しの浩二が首を垂れ意気消沈な姿で戻ってきた。身体の一部も元気がない。
「淳子先生がいた……」
俺や浩二の6年生の時の担任は、独身の20代で子供心にも美人だと憧れた淳子先生で、浩二も夢中だ。
その淳子先生が、まる出しで侵入してきた浩二の前に立ちはだかったらしい。それも、腰に手を当てての誰よりも男前な姿勢で仁王立ちだったという。
その夜、皆が寝静まった頃を見計らい、俺を含めた5人の男子に浩二が絵を描いての説明を事細かにしてくれた。
だが、どう考えても絵心がなさ過ぎたせいだろうが、浩二の描いた淳子先生の裸は、一部だけを鉛筆の芯を何度も折っては歯で削りながら描き切った、異様な迫力が伝わる見たことがない物で、誰もが驚きを通り越し、怖かった。
「淳子先生のって、こんなんなってんだ……」
子供ながらに、世の中には見てはならない物があるのを知った。
けして見てはいけないーーー完