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第十六話 エネルギー

 中学生となった同級生のチエコは、超能力だかなんだか知らないが呪文めいたものにハマっている。


 小学一年生の時からずっと同じクラスだった俺は、とにかく出しゃばりでクソ生意気で、更には、浩二と二人で立たせて飛ばすジェット噴射オシッコの訓練中を真っ正面から見られたチエコなどギシギシ歯軋りするほど嫌いなのだが、三つ下の弟がいて、お母さんは専業主婦で、JRに勤めるお父さんがいる4人家族と一匹の犬がいて、その家族全員と犬までがそっくりな顔だと覚えていて、ここがチエコの家だよと道案内までできてしまう俺は、当然のように家族4人と犬の名前までも知っている自分を殴りたくなる。


 そんな、死ぬほど不本意ながらもチエコのプライベートに詳しい俺は、小学校の頃のチエコが誰よりもKYでおかしな女子だとは勿論知っていたが、呪文を唱えるほどには突き抜けていなかったはずだと考えたりもするが、どーーだっていーー! と突然に叫ぶ。



「痛たたた……」


 休み時間、クラスの女子の誰かが足を捻ったのだろう。教室の床で横座りになって顔を歪め足首をさすっている。

 女子の数人が、「大丈夫?」、「保健室行こうか?」と、口々に言っている中、「ちょっと待って!」の声がかかり、見ると、口角を上げて微笑む自信満々なチエコだ。


 何をするつもりだと静まる教室で、二つの手のひらをジャンケンのパーのように目ぇいっぱい広げたチエコが両腕を突き出しながら近づき、しゃがんで、痛がる女子の足首を覆うように手をかざしながら、なにやらブツブツ呟くのを誰もが唖然と見守った。


 ややもすると、痛がる女子の顔に赤みがさしてきて、「おいおいおい、本物か?」との囁きが聞こえ始めたが、その赤みはどんどん濃くなり、生の悪いマグロの刺身にちかい顔色となった女子が口を押さえた。


「うえ……やめて、吐きそう」



 数年後、チエコとは別々の高校に行った俺だが噂を聞いた。修学旅行での話だ。


 空港の金属探知機に引っ掛かったチエコは、身に付けている貴金属類をどれほど外しても探知機が鳴り止むことが無く、係員が手に持つ、柄の付いた、先端が直径10センチくらいの丸い金属探知機を、執拗に股間に当てられ続けたそうだ。

 きっと身体のいろんなとこからエネルギーが出まくってたんだろう。ギャハハハハハハハハハハハ、死ぬほど笑わしてもらったぜ。



 エネルギーーーー完

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