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第十四話 慣れ

 遮断機が下りた踏み切りで、前から2台目に停まった俺が運転する車の助手席には太郎だ。ヤバイのが棲みついていた例の車を売主の坊主に無理やり返したせいで車を持っていない。


「えらいトロくせーーな!」


 オバケのことなどすっかり忘れた太郎は、いたく血色の良い顔で俺に話し掛けてくるが、貨物列車の轟音のせいで気狂のように声がでかい。


「っだな! なんでまっ昼間っから貨物列車走らせてんだべな!」


 俺もだった。


 ーーあれ?


 貨物列車の連結部分は隙間になっているから、見えた向こう側に女がいたような気がする。次の連結を意識すると見間違じゃなく、白い、胸が大きくあいたノースリーブのワンピースを着た女だ。


 季節は秋も深まり日中でも肌寒い。半袖で歩く人など殆どいなくなっているのに随分と肌を露出させた女で、もしかするととてつもないエロ女かもしれないと心が踊った。

 だが、俺はあまり目が良くないせいで、可愛いのか酷いのか、はたまた、己の目玉に自分の指で目潰しをかましたくなるほど高齢なのかが分からない。

 隣を見ると太郎も気づいているようで、身を乗り出してじっと見ていた。


 ーー間違いねえ。目のいい太郎がガン見してやがる。きっとお天気お姉さんのエロバージョンだぜ。


 ようやっと長くてトロくて騒々しい貨物列車の最後尾が見えてきて、数秒後には遮断機が上がって待望のお天気お姉さんエローーそう名付けた女の全貌が明らかになるはずと、握るハンドルに力が入ったのに、新たに特急列車が突風とともに加わった。


 ーーあのノースリーブワンピース、確か膝上の長さでヒラヒラしてた。


 エロいパンツを露わにするお天気お姉さんエロの姿を想像するが、特急列車の連結部分に隙間なんてない。


 ーー邪魔だ、早く過ぎれ。お天気お姉さんエロのパンツを見逃しちまう……


 列車の最後尾が通り過ぎる時には凄い風が巻くはずだ。期待に胸をときめかせながら身を乗り出すと、特急列車の乗降口の窓にそれが見えた。


「え……?」


 白い服の女だったような気がする。

 上半身しか見ることができない窓だが、女はノースリーブでこっちを見ていたようだ。

 通り過ぎて行った特急列車。


 ーーあれ?


 踏み切りの向こう側には何台もの車が停まっているが歩行者なんてどこにもいない。


 ーーお天気お姉さんエロ、どこ行った? 前の車の陰か?


 遮断機が上がって、前の車がゆっくりと動き始めた時だ。俺と太郎は同時に足を突っ張らせ、そしてシートから僅かに跳ねた。

 ゆっくりと踏み切りを通過して行く前の車の後部座席に女が一人乗っていて、そいつは振り返ってこっちを見ている。


 ーーいつから振り返ってた?

 ーーそもそも後部座席に人なんて乗ってたか?


 白いノースリーブを着た女。ワンピースなのか、膝上でヒラヒラした造りなのか分からないが、踏み切りの向こうにいたお天気お姉さんエロのような気がする。




「ある〜日……森の中……クマさんに……出ーあーーった……」


 又だ、また太郎が泣きながら同じ歌だが、慣れなのか間隔を空けて頷きながら輪唱を誘ってやがる。




 慣れーー完

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