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第十二話 禍(わざわい)

 小学校の6年間、俺はマセた悪ガキの浩二とずっと同じクラスだったが、もう一人、チエコという女子ともズーーーーーーっと同じだった。

 運動はダメだったが勉強ができたチエコは、どんな授業だろうが必ずと言っていいほどに手を挙げ発言やら質問をして、毎度毎度、学級委員に自ら立候補をするから先生受けも良い、出しゃばりでクソ生意気な女だ。

 何度クラス替えをやっても必ずチエコと一緒のクラスになった俺は、しまいには中学校でも同じクラスだと分かった時には国家レベルの陰謀を疑った。


 小学三年生の時の忘れもしない朝の会での事だ。手を挙げたチエコが「昨日の帰り、浩二君が電柱にオシッコをかけてました」ときたもんだ。


 恐ろしいほど正義感溢れた発言で、おまけに言いっ放しだ。

 担任のタカコ先生も、「え……私に振るの?」ってな感じの表情だったが、立場上、注意しなけりゃならいないと思い至ったのだろう、少々詰まりながらも、「だっ、だめですよ、おっ、おしっこはちゃんとトイレで……」と言い掛けてるのに、


「ウソつくな! 俺なんか立ちションベンしてないからな!」


 と、誰もがそれをウソだと確信してしまう台詞を堂々と吐いた浩二は、その日の帰りも立ちションベンをしていた。それも、俺と一緒に例のジェット噴射オシッコだ。


「ほら、こうやったら立つべ。そうそう、そしたらお腹に力入れて………飛べーーー!」


「ほーーーら、やっぱりやってる、ウソじゃないからねーーーーっだ!」


 いつの間に現れたのか出しゃばりなクソったれチエコが、立たせたジェット噴射オシッコを放ってる俺と浩二の前に回り込んできて指まで差している。


 もう、言い逃れが出来ないと悟った浩二が、かけてやろうとチエコを追いかけ回し、次の日の朝の会は、タカコ先生も言葉を出せないで立ちすくんだ。



 月日が流れ6年生になった俺のクラスには、当たり前のような顔でチエコもいれば浩二もいる、ある日の自習の時間だ。


 更に偉そう感に磨きがかかったチエコが教壇に立って何かを言っている。


「ーーそれって差別だと思います!」


 当然、先生がいない騒がしい教室では聞きとれはしないが、聞く気もしないとソッポを向いていると、俺に当ててきやがった。


「え……聞こえなかった」


 すると、教壇の机をバンと叩き、静まった教室を満足げに見渡すチエコ。


 ーーいや〜無性にハラ立つ。


「私は、おかしいと思います。コックリさんや花子さんは、みんな『さん』付けなのに、口裂け女さんだけは、みんな、どうして呼び捨てなんですか? それって、この前習った差別だと思います。絶対に良くないはずです」


 ふざけてるのかと思ったが、こいつはマジだ。

 人権擁護団体の活動家ですら顎が外れるだろう事を、小学6年生の女子がしゃーしゃーとのたまわっている。


「お前、バッカじゃないのか、口裂け女なんて妖怪だぞ!」


 浩二だ。

 こんな馬鹿げた話しなんて放っておけばいいのに自ら食い付いていった。そもそも、男子が女子に口で敵うはずがない。


「どっちがバカなのさ! あんたなんて小3の時、オシッコ飛ばしながら私ば追っかけてきたクセに。覚えてんだからね!」

「おっ、オマエーーー! ちっ、違うからな! そんなこと………俺はしてないからな! みんな、信じるなよ!」


 一瞬で返り討ちにされた浩二は更にボロボロにされ続けていたが、チエコよりも勉強ができる物静かな紺野君が手を挙げていた。


「チエコちゃんは、口裂け女の知り合いなの?」


 孤軍奮闘だった浩二がその援護射撃に飛びつかない訳がない。


「そうだ! チエコのおばさん、口でけえもん! お前、口裂け女の子供なんだろ! だからさっきからへんな事言ってんだべや!」


 自習の時間は収集のつかない事態となり、隣のクラスの先生が怒鳴り込んできた。


 その後、チエコの前で「口裂け女の……」と言い掛けた浩二は股間を蹴られ、物知りな紺野君が「口はわざわい」と言っていたが、「わざわいって何よ?」と、蹲る浩二だった。


「浩二君とチエコちゃんに降りかかったもの」



 わざわいーー完



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