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第一話 こっくりさん

念のためR15

「なあ、こっくりさんやろうぜ」


 小学六年生の頃に異様に流行っていて、誰もが何処でも直ぐにできるようにと、紙に五十音が書かれたMYこっくりさん盤を鞄に入れて持ち歩いていたものだ。今考えるとどうかしてる。


 俺と若山君が放課後の校庭でぶらぶらしてるのを見かけた、ちょっと気難しい片山君が駆け寄ってきて誘ってきた。と思ったら、もう鞄から出したそれを、タイヤを半分埋めて作られた跳び箱だろう、その上に広げ、ポケットから十円玉を出している。

 一も二もなく始めると直ぐに動きだした十円玉。いつものことで、さほど驚きもしないが、今日のは少しばかり動きが鈍い。


 ーーなんだ? じれったいな、とっとこ動けよ……


 紙を平ではないタイヤの上に広げたせいなのだろうが、若山君がボソッと言った。


「字が汚すぎて読めないのかな?」


 全く悪気なんて無かった若山君のその言葉に、いきなり切れた片山君。


「字が汚くて悪かったな!」


 タイヤの上に広げられた紙を、テーブルクロスをさっと引き抜くパフォーマンスのように奪い取った片山君。

 タイヤの上には十円玉だけが残り、それに人差し指を載せる俺と若山君は、あまりの突然の出来事に、そのマヌケな格好で動けないでいると、十円玉まで奪い取って何処かに行ってしまった。


 ーーウソ……これって……ヤバイ?


 若山君と、一瞬、視線が絡んでいた。


「ひいいいいいいいいいいいいい!」


 引きつったような悲鳴を上げた若山君が放り投げてあった自分の鞄に飛びつき、MYこっくりさん盤を無理に引っ張り出したが、破けた。


「ぎええええええええええええええ!」


 叫びながら俺を見る若山君。きっと、俺のMYこっくりさん盤を出せと言っているのだろう。


「わっ、若山君、落ち着いて……」

「早く出して! 早く! 早く!」


 俺もそれなりに急いだつもりだったが、そんなもんじゃ足りないらしい若山君が、俺が自分の鞄から出している最中のMYこっくりさん盤を奪い取ると、破けた。


「うげええええええええええええええ!」


 大体、ども同級生のMYこっくりさん盤も大して立派な紙に書いたものではなく、ペラッペラでシワの寄った紙だ。引っ張りゃ破ける。

 そう言えば、片山君のは月めくりのカレンダーの裏を使っていたから丈夫にできていたが、なにやらアニメのキャラクターがたくさん描かれた、六年生にしてはちょっと恥ずかしいもので、だからなのか教室で使っているのを見た事がない、などと考えていると、若山君が泣いていた。


「わっ、若山君、だっ、だっ、大丈夫だ。俺のそんなに破けてないから使えるって」


 最初に破けた若山君のは真っ二つにちかいほどに大きく裂けてしまったが、俺のは5〜6文字書かれた部分が切れた程度で、何とかなると言えば、何とかなりそうでもある。


「うっ、うっ、う〜〜〜〜」


 唸りながら頷く若山君は、それでもボロボロ泣いている。

 地べたに紙を広げ、破けた切れ端も合わせて、手でナデナデしながら若山君を見ると、少しは落ち着いてきたようで、ようやっとまともに喋った。


「十円……出して……」

「え……ないよ」


 地面に頭から突っ伏した若山君が吐いた。

 それを見ているうちに、なんだか、どうでも良くなってしまった。



 こっくりさんーー完

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