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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(7)

浪人詩集(7)


27.雨は静かに


雨は静かに、静かに

夜のカーテンを伝って

雨は静かに、静かに

暗やみの中できらりと光る雨のひとしずく

ほのかな思いを胸に、雨は静か・・・

ただようピンクの香りよ

霧雨の降る径のほとり、ほのぼのと匂う薔薇の香りに

雨は静か・・・


雨は静かに、静かに

君の肩を濡らして

雨は静かに、静かに

君の頬をすべって

夜のベールを通して見る君の口もと

鮮やかな思いを胸に、夜は静か、雨も静かに・・・

霧雨の中、二人はたたずむ

雨は静かに、夜は静かに


※精神が不安定で、女に飢えまくっている時代にだけ、そう、せめて三十代ぐらいまでにしか、こんな風に恥ずかしくて、体がかゆくなるような詩は書けないような気がする。勿論、へたくそで稚拙なのだが。それ以上年齢を重ねると、どうも、訓辞を垂れたり、説教めいたことしか書けなくなってしまう。頭の中で淫らなことを考えるのは、生命エネルギーの豊富な若者の特権である。

学生時代にかじったフロイトのリビドー(性的衝動)とその制御を思い出す。

ただし、合意のうえ以外は実行に移してはならない。なぜなら、それは重大かつ恥ずべき犯罪であるからだ。制御は大切である。その意味で、オナニーに罪悪感を持つ必要をない。みんなやっているのだから。

ちなみに、私はつい最近まで、「バラ」とは西洋から来た外国語だと思っていた。宮崎康平という人の「まぼろしの邪馬台国」に薔薇とは日本語なのだとあるのを見て、インターネットで調べてみると、万葉集の時代から日本に自生していて、茨城県の語源でもあることを知って驚いた次第である。そういえば英語ではROSEと言うなあと、自分の無知を恥じる次第である。

「いばらの道」なんて言う言葉は、遥か昔からあったに違いない。


28.野次馬


何だ、何だ、それがどうしたというのだ

そりゃあ、お前の勝手にするさ

お前がいくらやったとしても、それがどうしたんだ

また、なったとして、それがどうしたんだ

見て見ろ、あの空を、あの透き抜けたでっかいやつを

お前だってそうじゃないか、そんなちっぽけなことで何だ

見ろ、あの女だってやっているじゃないか、あの汚れた女だって

見ろ、あの男だってやっているじゃないか

そしてまた、それが何であろうと、また、そうでないことを理屈づけようと

何れもそれはお前自身ではないか、カエルがどうした

彼はただゲロゲロと鳴き、跳ねまわり、どこかへ行くだけではないか

人間の為であろうと世界の為であろうと、それがなんだ

つまりはお前の家族いやお前自身の為ではないか

お前がいくら逆立ちしてもなに一つ出て来はしない

天の袋が破れない限り、天の河が氾濫しない限り

一滴もお前の所へ来るもんか

それでもお前は行くのか、お前はもがくのか

俺か?俺のことはどうでもいいさ

ただの、野次馬さ


※相も変わらず、何を言いたいのか分からない。その上、女性に対する、差別と、憧れが良くわかる。そのくせ、女性にだけ純潔を求めるこの姿勢、我ながらこの頃の自分が実に情けない。おい、卑怯者め、救いようの無い奴だ。


29.午前三時三十分


静かな、静かな、暗黒の世界

星だけが光る夜の魔王のマントの中

その凍り付くような冷気の中で、私は手をすり合わせ

ハーっと息を吐く

そっと手を耳に当てる

聞こえる、聞こえる、朝の足音が

野を駆けて、山を越えて、谷間をぬって

やって来る、朝の足音が


30.浜辺の少女


少女よ、少女よ、君はなぜこんな寂しい浜辺にたたずんで

足元の波を見つめているの、白い息をはきながら

そうか僕を待っていたのか

去年の夏が忘れられずに、帰って来たのか、僕の胸に

うそっぱちだ、でたらめだ、ふざけるな


※年末の頃であった。前年と同様に、もっと勉強しておけばよかったと後悔していた。かなりイライラしていたのだろう。今思えば、浪人生活なんて、長い人生のほんのちょっとの間である。良い経験だと思えばいいし、後から振り返れば、懐かしい。でも、当事者は、苦しんでいる。

中には、必死で、頑張っている若者もいる。私の経験では、そんな人に「頑張れ」なんていうのは禁句である。彼にとって、もう、それ以上頑張れないのだから。世間で言われる良い大学、に入学出来るかどうかで将来が決まる、なんてことは、断じて無い。本当に学ぶべきことは、いじめやパラハラ等、人生の苦境に会った時、如何にして、その苦難を乗り越えるかである。年を取ると、こんな風に説教をしたり、訓辞を垂れたりしたがる、そこは許していただきたい。


31.浪人同志


浪人同志が肩組み合って、歩く浜辺は雨模様

かもめ鳴け、鳴け、俺たちは、天下御免の素浪人

俺たち二人の心の内を知っているのか雨雲よ

そんなに重く曇ってないで、いっそ降るならさっぱりと

心の雲まで流しておくれ

俺たちゃ悲しい浪人だけど、今にきっと見ておくれ

空に輝く太陽を、この手でがっちり握る日を


32.ああ男よ


夢を無くし、戦いに敗れた男が一人

涙も出せずに沈んでいる

みんながそいつを見つめている、馬鹿な奴よと

みんなが笑っている、ワハハハと

男はみんなの目を逃れるように、隅へ、隅へと縮んでいく

ああ男よ、ああ愚かなものよ

それも良かろう、また、良かろう

ああ男よ、お前は誰だ、お前は俺ではないか

それで良いのか、それで


※「再度受験に敗れて」という走り書きがこの詩の下にある。その日、確か夜であったと思うが、友人と一緒に、大学の合格発表を見に行った。自信はあったのだが、合格者の掲示板に私の名前は無かった。その日、友人は黙りこんで、私に声を掛けようとしなかった。今でも友人は、飲みに行くと、時どき言う、あの時は君の気持ちを思うと、重苦しくて、何と言っていいかわからなかった、と。今思うと、努力も、耐えることもしなかった、当然の結果であった。


33.声と男


声 お前は、もうやめた方が良いのじゃないか、お前にはやる気がないんだろう、考えてみろ、お前はもう浪人二年目だぞ、やめろ、やめろ


男 いや、やめるもんか、こうなったら意地でも大学にパスしてやる、だが、少し疲れたなあ―小さな声―


声 ハハハ、もう弱音を吐いているじゃないか、俺と一緒に楽しくやろうぜ、大学ばかりが人生じゃないんだ、ほら、あの娘をみてみろよ、美人だろう、お前が好きだってよ、今夜一緒に楽しく過ごそうだってよ、行きな早く、

ー女笑みを浮かべて近づいて来るー


男 いや、駄目だ、駄目だ、俺にはすることがまだまだ他にあるんだ、そんな暇なんか無いのだ、やめろ!俺を誘惑するなんて、やめろ!-女消えるー


声 そんなに怖いのかあの娘が、可愛そうに泣きながら帰ったじゃないか、そのうちに、見てろ、お前の側から、友達はみんな消えちまうぞ、一人になるのだぞ、一人に、お前を笑う奴はいても、慰めてくれるのものはいなくなるのだ、心の狭いお前にさあ、どこまで耐えていけるかな、

 

男 いややる、きっとやる、やらずにおくもんか


声 まあ、まあ、そういきがらずに、落ち着け、落ち着け、ほれ、煙草でも吸いなよー火を付けて男に渡すー


男 -口から環を出しながら―ああ、美味い


声 お前、早くからタバコを吸ってるな、いつから吸っているんだ


男 そうだなあ、もう、高校二年生の時は吸っていたなあ、酒は中学校へ入学したら飲んでいたさ、高校受験のときは夜中にこっそり良く飲んだもんさ


声 ハハハ、良いぞ、良いぞ、あとは女だけだ、さっきの娘を呼んでやろうか、何なら他の娘でもいいぜ


男 やめろ、やめろ、やめてくれ、さっきも言ったろ、俺は今、そんなものに心を迷わせている時じゃないんだ


声 隠すな、隠すな、本当は女の友達―まあ、友達と言っておこうーが欲しいんだろう、この前、お前が公園を歩いている時のその顔ったら、うらやましそうな目つきだったぜ、さぞ周囲のアベックが憎かったろうな、気を付けろよ、欲求不満が募ると、いわゆる、痴漢て奴になりかねないからな、お前には、その気質が十分なんだぜ 


男 うるさい、この野郎、消えちまえ


声 ハハハ、本当のことを言われて、そんなに悔しいか


※実際、この頃、公園でいちゃついているアベックを見かけたら、うらやましくて、小石でも投げてやろうかという、誘惑にかられたことがある。予備校で授業に出ていても、前の席で、手を握り合っている予備校生に腹が立った。

また、国語の教師が「ウイスキーを呑むと、喉を蹴りたくって通り過ぎるのが気持ちいい」なんて、詰まらない冗談を言うのに腹が立った。つまり、この頃は何についても苛ついて、腹が立った。それが、誰のせいでもなく、自分自身のせいであることは良く分かっていた。


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