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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(5)

浪人詩集(5)


15.トランプ


タメちゃんの家でトランプをしよう

みんなを集めてトランプをしよう

タツジも入れよう

ナポレオンをしよう

コーヒーをすすりながら、駄菓子を食べながら

蚊取り線香をたきながながら

タメちゃんの家でトランプをしよう

気の合った仲間を集めて、トランプをしよう

大声で笑いながら、足でつつき合いながら

コーヒーをすすりながら、駄菓子を食べながら

夜の更けるのも忘れて

タメちゃんの家でトランプをしよう


※このトランプに参加しているのは殆どが受験生であった。トランプなどに興じないで受験勉強に励めば良いものだが、未熟な時代である。勉強をしなければいけないことは分かっているのだが、遊びの方が面白かった。この頃、マージャンも覚えた。この後、翌年も浪人生活をすることになり、あの時、もっと勉強していれば、と後悔したが、翌年も同じことを繰り返した。勉強をしなければならないと思う時、遊びは普段にまして面白いし、本が読みたくなったりする。人間の、特に若い時の心理なんて、じつに不思議である。それにたくさん失敗するのも良い人生経験になると思う。同時に、成功経験はもっと良い人生経験になる。


16.飽きた


飽きた、飽きた、聞き飽きた

お前の大言は聞き飽きた

お前の過去がどうであろうと

お前の現在がどうであろうと

お前の未来がどうなろうと

飽きた、飽きた、聞き飽きた

お前の口から続けざまに飛び出すパラッドクスが

どんなにお前を高めようと

俺はもう聞き飽きた


※どうやら、口喧嘩に負けて、腹立ちまぎれであったのだろう。

 多分、自分の方が、屁理屈を言っていたと思う。


17.山


見上げるとそこに山があった

森の中に林があり

林の中に木があり

木の中に枝があるように

見上げるとそこに山があった


18.雨


いつの間にかすずめたちはどこかに姿を隠した

すると雨が降り出した

雨はみるまに強くなった

雨どいがトトン、トトンと音を出し始めた

心よい響きである

雨どいから水があふれ出した、そして

レンガの塀にバチバチと落ち出した

僕は雨が大好きだ、僕は雄々しい生命を感じる

窓を開けると、霞のような小さな水の子達が僕の頬をなでる

僕は雨の強さに、しばし、うっとりと目を奪われた

また、雨は強くなり、世界は益々暗くなった

全ては雨の中に消えて、時々彼の力が弱くなった時

ボンヤリと家々が見えるだけだ・・・・・

西の空が明るくなると、彼はゆっくりと去って行った

心よい風を後に残して

家々は、はっきりと見えだした

すずめたちのさえずりも聞こえ出した

つばめが二羽それらの間をスイスイと低空飛行を続けた


※手直しをしたいという気持ちを抑えて、出来るだけ、そのまま転記した。

 心よい、は多分、心地良いなのだろう。彼とは何だ?多分、雨のことか。

 何を言いたいのか、その意図が分からない。


19.私は一郎君


私は高校四年生、出来の良くない一郎君

父はいつも申さるる、出来の良くないぼうずだと

母はいつも申さるる、もっとしっかりしなさいと

兄はいつも申さるる、ファイト、ファイトと申さるる

私は面倒臭がりや、布団は何時も敷いたまま、お蔭で布団はぺったんこ

それでも私は一国一城の主でござる

母屋とは離れて寝起きを致します

今は梅雨の真っ盛り、雨はしとしと、時にはざあ、ざあ

その天井には大きな地図が三つ四つ

時々ポトリポトリと水が落ちまする

浪人稼業は気楽で御座る、ひょいとバケツをすけまする

ポトン、ポトンと響きます

そしたらごろりと横になり、肘を枕に眠ります

ポトンポトンと子守唄・・・・・

楽しい夢から起こされて、見ると、天井には新しい地図がまた二つ

それから私の顔にポトリ、ポトリと落ちまする

バケツはとっくに品切れで、今度は洗面器を持ち出しまする

外は、ざあざあ、内は雨だれのシンフォニー

姉は私を不潔だとも押さるる、もっときちんと片づけろと申さるる

それでも私は面倒臭がりや、生まれついてのなまけもの

せまい部屋の片隅で私は本を開きます

夜の夜中に、むっくりと、起きてはノートを取りまする

せっせ、せっせとやりまする、私は高校四年生

出来の良くない一郎君


※おい、おい、もっとしっかりしろよ。勉強しろ!お前の行動の果てが、今の僕だぜ、頼むからしっかりしてくれよ、と言いたい。だが、あの頃の、いい加減でぐうたらな気性は今も治っていない。

妻は言う、「あなたの、仕事に対するいい加減さ、人生に対する無気力さ、妻子に対する責任感の無さは、結局治らなかった、もう、いやになる。本当に、夫選びに失敗したわ。来世は、絶対にあんたなんか選ばないからね」と。

あの頃と状況は何も変わらない。


20.蜘蛛

 

私の家はぼろぼろだ

壁は落ち、天井は今にも私にのしかかりそうだ

それでも私は我慢して住む

玄関の所には、くもの巣がいつもある

私とくもは仲良しだ

ボロボロのこの家で、ボロボロの机に向かって

私は座る、そして、問題と取り組む

私が問題に飽きた時、小さな砂糖粒のようなくもが

机のはしをチョコチョコと歩く

私がフーッと息を吹きつけると、じっと机にしがみつく

私の友達はくもだ


※理解不能!


21.太陽


太陽よ、真夏の太陽よ

お前は何も言わない

お前はただ、高らかに笑い転げて

その光を我らにぶっつけるだけか

この青空の中をクルクル回りながら、お前は少しずつ動く

おお、太陽よ、太陽よ、お前にはこの悲しみが分かるか

この苦しみが分かるか、この涙が分かるか、分かるまい、分かるまい・・

お前にはこの人類の叫びが分かるまい、この生物の悲哀が分かるまい

お前はただ、そうして笑い転げるだけか

永遠のときが、永遠の魂が、お前を食いつくすまで

お前には分かるまい


※何を言いたいのか、今の僕にも分からない。まして、人類の叫びとか、生物の悲哀など、分かる筈も無い。

ただ、これは、海水浴に行って、帰って来た時の詩ではないかと思う。

その日僕は、海に泳ぎに行って、桟橋で、知らない女の子と話した。

サングラスをかけた、髪の長い娘であった。

少し話した後、「ちょっと泳いでくるから待っていて!」と言って、格好をつけて桟橋から飛び込み、二十メートルほど懸命に泳いで、振り返った。

その娘の姿はどこにもなかった。僕のやり方のどこがいけなかったのか、悩んだ記憶がある。


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