浪人詩集(41)
浪人詩集(41)
135.雑感の雑感の続き
どうだ、君は見たか、あの日輪を、悠然と空を歩いている
何と豪胆な奴だ、地球の引力を屁とも感じてはいない
それでいて、情けの光を投げかけている
俺に感謝し無い奴は誰一人としていないんだとばかりに威張って
いつもニヤニヤ笑っている
そして今日も九個の惑星を引っ提げて
大宇宙を悠々と歩いている
まったく憎い奴だぜ
蛍光灯の鈍く白々しい光の中で私は何かを感じている
小うるさい子どもらの歓声の中で私は何かを身に染みている
九月の最後の日に私は歯ぎしりをしながら考えている
とにかく、とにかく、君は生きなければならない
いきどおり、いきどおり
力いっぱい歯ぎしりをしたら、奥歯が少し欠け落ちた
天に向かって目を剥いてもう一度ぎりぎりと歯ぎしりをした
燃えたぎる激情は五体を駆けめぐり、ぺっと唾を吐いた
鉄甘い味だと思ったら知らぬ間に口の中を切っていた
鏡を覗き込んだら、もの凄い顔をした私がいた
いきどおり、いきどおり、いきどおり
九月の夜、コオロギは笑った
※何があったのかなあ
夜中にふと目が覚めた
静かな虫の音が秋深く沁みこんでいる
私は無性に煙草が飲みたくなった
マッチを擦るとその光は驚くほど明るい
立ち上る煙をぼんやり眺めていると
遠くの時計が十二時を打った。
外が明るいので窓から顔を出すと曇っていた
十月八日の夜はこうして終わった
夜半に目が覚めて虫の音を聞いている私は何者なのであろう
私は人生というものをもっと感じ取りたい
銀河の果てからアンドロメダ座の君に送る
四次元の私から三次元の君へ、元気ですか、私は元気です
暗やみの中で見る一本の燃えるマッチの灯は昼間の太陽よりも眩い
白色燈の下では非常に楽しい人でも
蛍光灯の下では憂鬱になる
小さな蚤のことを考え、小さなコオロギの声を聞き
小さな人間のことを思っている私は
実は金星と火星の間に生きているのです
10.15 thursday fine and next cludy
私は第三次元の暗闇の中で大きな溜息を吐いています
その溜息は遠く銀河の果てまで飛んで行って、再び私に帰って来るのです
それはちょうど交流電流の流れのように、一瞬の出来事なのでしょう
ですから他人から見れば、私はいつもため息を吐いている様に見えるのです
私と言う一個の生命体は、私と言う一個の宇宙なのです、ですから
私と言う生命現象の中には火星もあれば金星もあるのです
そういう意味で私と言う一個の星団は
私と言う一個のインディビジュアルとして永遠に生きるのです
秋風に酔い、薄が原に迷い出て
千変万化の夕焼けに、思いはとんだ宇宙の果てに
136.天よ
ああ、天よ、あなたは私と言う浅はかな人間を作りたもうてそれで満足しておられるのでしょうか、もしそれが事実でありましたならば、あなたともあろう方が何というしくじりをおやりになったことでありましょう。
ああ、天よ、いま私は、小川の朽ちかけた水車のように、何の意味もなく、何の役にも立たず、人生という空間をただ回転しているだけなのです。
しかも、私という愚かな一個の生活体は、何ら改心の行わず、ただ表面を繕うことにその全生命力を注いでいるに過ぎないのです。
ああ、私という一見勇猛沈着な張子の虎は、松の梢を渡る、音も無き微風にさえも、足元をすくわれるほどの恐怖と戦慄を覚えるのです。
悠々と、己の力の偉大さをただの一時も疑わず、天の定めたもうた王道を高らかに歩み続けるあの日輪を思う時。私はどうしても自己の魂の弱さ醜さ脆弱さを思わずにはいられないのです。
私という一塊の物体は、もはや生物とは言えないのではありますまいか、一瞬たりとも生きる価値の無いものなのでしょう。かと言って、死ぬ価値はもとよりありますまい。
それならば、私という無価値の一種の蜃気楼はこれから先永遠に、存在はしても、真に実在はしないものとして、生き続けるのでしょうか。
ああ、天よ、今や、進歩と言う言葉さえ見失った生命体にとって生きるとは何の意味を持つものでありましょうか。
しかし、天よ、それでもなお、この私は人間として生きることを切に願うものなのです。願わくば、あの北極星のようにいつまでも、静かな光を放ち続けたいのであります。
※多分好きな女に好きと言えずに悩んでいたのであろう。笑止!